rai_13
2024-05-16 23:35:43
3179文字
Public
 

Say goodbye to the Almond Flower

ァラです。
秋華あたりのお話です。
長いトンネルに入ったところです。
おとといさんのポストから導き出されて形作ったお話です。ありがとうございます。


希望の花にさよならを



『これが!新たな歴史を創るウマ娘!』




息が、上がる。フォームにズレが、足が、上がらない。
完全な前残り馬場をものともせずに、彼女は私の横を通り過ぎていく。

「─────」

声すら、上がらない。
視界いっぱいに広がった青い勝負服が私を引き離して、手を伸ばす余力も無い。

『平成最後の!!トリプルティアラーーーッ!!』


『アーモンド アイ!!!』


ふと、あの時言った言葉が心を叩いた。

『私じゃまだアイちゃんには追いつけないみたい。』

ジュニアチャンピオンのプライドが“まだ”なんて、後悔と新たな希望が花咲く瞬間が酷く息苦しい。
あーもう。
強烈な敗北感と舞台から引きずり降ろされた感覚が痛くて痛くて、涙も出なくて、ただ苦しかった。


この後彼女になんて声をかけれるんだろう




「アイちゃん。」
「ララちゃん!!」

いつも通りだ、いつも通りで良い。
息を整えて彼女に声をかける。大丈夫。いつも通り。

「おめでとう!結局追いつけなくてごめんね。」
「ありがとうございます!私!ララちゃんのおかげでここまで
「待って。」

震える指がアイちゃんの唇を塞いだ。
反射的だった。その先の言葉を今聴いてしまったら立ち直れそうになかったから、アイちゃんには隠していたかった。

「その言葉は全部終わって、走り終わってターフを去る時に取っておいて。まだ始まったばかりでしょう?」
ララちゃん!分かりました。全部終わって、満足したらその時に改めてお礼をさせてください。」

あの時は泣き虫だと思ったけれど、なんて美しい涙を流すんだろう、キミは。
もう、追わなくてもスポットライトの中心であるような気がした。
キミの後ろは、もう空いていない。

「さぁ!ここから先は勝者だけの道!お客様の前に行かなくちゃ!さぁ!さぁ!!」
「あっちょっと!」
「ファンの皆さんに“コレが三冠ウマ娘です“って見せつけてきて!ほら!」
「あぁもう!ララちゃん!ウイニングライブで!!」

無理やり背中を押してアイちゃんをスタンド前へ押し出す。
これ以上キミと話していたら涙が出てしまいそうで仕方が無い。主役は一人だけなんだから。

「これでよかったかな。」

大歓声と共にキミの名前が張り裂けんばかりに京都レース場に響き渡る。
ガッツポーズで答えるキミは涙を流しながら噛み締めていて、なんて眩しいんだろう。なんて美しいんだろう。

「どうして私じゃなかったのかな」

一人一人スポットライトが当たっていたと思っていたのに。キミだけに数えきれないほどのスポットライトが当たっていたんだね。
私は、キミの衣装に反射した光を浴びた影に過ぎなかった。名前の無い役のバイプレーヤー。
歓声が、キミが反射した光が痛いよ。


……………こんな色だったかな」


青空が、レース場が、キミが、芝が、日に灼けたみたいに褪せて見えた。
















ウイニングライブの最後の曲が終わった少々薄暗い舞台裏は、大きな三つの宝石のついたクラウンを着けたアイちゃんに向けて拍手が鳴り続けていた。バックダンサーのみんなはステージライトに当てられて汗まみれでも悔しい顔もなくアイちゃんに大きな拍手を鳴らしていて。
そんな中私は目立たない端でタオルに顔を埋めていた。
私だけこの空気が息苦しくて、ついて行けなかった。胸の中に燃え尽きたプライドと痛みと悔しさといっぱいぐちゃぐちゃになっていっぱいいっぱいだったし、でもそのせいでこの場では息を殺して痛いくらいの孤独感に身を任せていた方がまだ気持ちは楽だった。
もう彼女は、私なんか必要ない。

「ありがとうございます!ありがとうございます!!」

青碧の瞳に涙を浮かべながら感謝の言葉を述べる彼女は本当に絵になる程美しい。
本当は私がそこにいるはずだったのに。私が四つの宝石を輝かせているはずだったのに。

拍手が止んで皆が思い思いに控え室に入っていく中、彼女が私のところに来た。

「ララちゃん。」
「アイちゃん、本当におめでとう。」
「ありがとうございます。」

彼女が私の言葉を被せて放ったその言葉に、なんとか隠していた傷が鋭い痛みを発した。
大きなアンコールの声が表舞台から聞こえ始めた。その声はさながら彼女の事を呼び戻すスポットライト。

「ララちゃんが追いかけてくれなければここまで来れませんでした。」

手が、体が、微かに震え出した。
砕けたプライドをなんとか形にした仮面が崩れていくのを感じる。誤魔化していたのに、思い出したかのように痛みが胸に拡がって。


「私が無茶苦茶な事を言ったのは今になっては自覚しています。けれど、あの時の約束があったから。」

観客のアンコールがぐわんぐわん響いて視界が歪み始める。あぁやめて。今の私にそんな言葉をかけないで。

「あの時の約束がなければ私はこのステージに立てていなかったと間違いなく思います。」

あまりに屈託のない笑顔が、叫び出してしまいたいほど痛い。所詮私は主役を囲む影なのだと思い知らされてしまう。
ココが暗くて心底よかった。
もう、笑顔も作れている自信がなかった。


「ララちゃんが追ってくれたから、結果最強で在れたんだと思います。

追いかけてくれて、あきらめないでくれて、本当にありがとうございます。」


キミへの、キミだけへのアンコールに、息が乱れて、平衡感覚がおかしくて、揺れる視界に歯を食いしばる。手のひらを痛いくらいに握って、仮面の最後の一欠片がなんとか声をあげた。


「私はただ…………


声が震えていたような気がする。でももうそんなことも気にする余裕も無かった。
続く言葉も無かったから。なんとか捻り出す言葉すらもなくって、青碧の瞳から逃げるように彼女をステージの方に向けた。

「あっ!」

近づく歓声とステージライトは痛くて痛くて仕方が無かったけれど、もう私はこれしかなかった。
スタンドに向けて背中を押したように、ステージに向けて背中を押した。

「この歓声は、貴女だけのものだから」
「私は!」
「この時間に私は必要ないよ!」
「ララちゃん!私は!!」
「さぁ!トリプルクラウン!アンコールに応えてもう一度その姿を見せて!」

思いっきり背中を押してステージ送り出した。
もう顔も見れない。
もうここに居たくなかった。ここは全てキミのためのステージで、私だけが独りだったから。
彼女が出てきたことで観客はアンコールから大歓声を無尽蔵に浴びせる。これでいい。これが良い。
歌が始まる。彼女だけのステージが始まった。



ふらふらと舞台袖から逃げるように人の居ない物陰に隠れて………壁に背中を預けて、座り込む。
大音量の音楽とアイちゃんの声が響き渡って、我慢できなくって、自然と涙が溢れていた。


「──────────!!!!!」


アイちゃんの歌声が私の声をかき消してくれる。
抱えた痛みが、夢が、孤独感が、悔しさが、後悔が、努力が、涙になって、全部全部吐き出して。
何がジュニアチャンピオンだ。何が主役の1人だ。
全部が痛かった。全部苦しかった。あぁもう、なんなんだ。私は、なんでここにいるんだ。
涙は全然止まらなくて、全部吐き出してしまおう。
あの歌声が響いてる限り、周りには聞こえないんだから。
私の苦しみなんて、痛みなんて、哀しみなんて、誰にも分かるはずもないんだから。


『みんなありがとーーーーーー!!!!』


私は暗闇の中に取り残された。取り残されてしまった。
彼女の背は、もう遥か彼方。私は、何処にいるんだ。





あぁもう、希望なんて大嫌いだ。