溶けかけ。
2024-05-16 21:52:46
2151文字
Public ほぼ日刊
 

王様は灰かぶり姫を逃さない

シンデレラパロ……ですが、好き勝手やってます。以前、ボツでちらっと見せた変則シンデレラなヌフです。

「シンデレラ!シンデレラ!」

 ああ、また始まった、とフリーナはため息をついた。父親の死後、遺されたのは莫大な遺産と折り合いの悪い義母と義姉だった。とはいえ、遺産は既に空っぽなのだが。

「そもそも僕はシンデレラじゃないしね」

 屋根裏部屋のドアに鍵をかけると執筆作業に戻る。有名な劇団から依頼された脚本だ、彼女たちに構っている暇はない。
 集中しようと耳栓を入れた瞬間、フリーナの頭に木っ端みじんになったドアの破片が降り注ぐ。

「な、なに!?いったい何事だ!?」

「無視するんじゃないわよおおお!!」

 扉の破片を頭から振り払いながらフリーナが振り返れば斧を片手に持った義姉が仁王立ちで立っていた。

「穀潰しが一丁前に無視してんじゃないわよ!!」

 また始まった、とフリーナは呆れを隠しつつ表面上は意地悪な姉に虐められて泣いている弱々しい妹を演じる。彼女たちは弱い者いじめが大好きなのだ。

「わかったわね!?今日中よ!!」

「は、はい……義姉さま、お義母さま」

 行くわよ、と義母が義姉を連れて部屋を出ていった。どこか満足そうな背中に舌を出したあと、文字通り木っ端となってしまったドアの残骸を片付ける。

「はあ……次は鉄製にしないとダメかなぁ……どう思う?みんな」

 フリーナの周りに控えるサロンメンバー達も首を縦に振った。

「で、何だっけ……家の掃除と畑の世話とご飯の支度、あと舞踏会で着るドレスの手入れ……これ、僕が本当に一人だったら終わらないと思うんだけど」

 サロンメンバーが頷き、フリーナの周りに集まっていたネズミや小鳥も頷いた。

「みんなも手伝ってくれるのかい?」

 それぞれが肯定を示すのを見て、フリーナは笑みを浮かべた。この屋根裏で仲良くなった小さな友人たちは心優しいものたちばかりだ。



「みんな、お疲れ様!ご飯にしようか」

 焼き立てのパンを千切ってネズミと小鳥にあげれば彼ら、あるいは彼女たちは嬉しそうに頬張った。

「ふふ、そんなに焦らなくても沢山あるから安心してお食べ」

 フリーナはパンを取り合うネズミたちの間に手を入れて喧嘩を止めると、自身が食べていた分のパンを千切って渡す。

……そういえば、今日はお城で王様のお妃様選びのパーティがあるんだっけ」

 窓から見える王城からは時折、風に乗って楽しげな音楽が聞こえてくる。

「彼、元気かなぁ……

 フリーナは窓枠に腰掛けながら、幼い頃に遊んだ年上の男の子のことを思い出す。王城で迷子になったときに出会ったのだから家柄は相当いいはずだ。――そう言えば大人の真似っ子をして結婚の約束をしたなあ、と懐かしくなった。真似事とは言え、フリーナのファーストキスの相手は彼だったのだから。

「行ってみる?王城に」

 突如、聞こえてきた声にフリーナが振り返れば白いローブを着た金髪の男女が立っていた。

「いや、行かないけど?僕、仕事あるし」

「まあ、嫌と言っても連れてくんだけど」
 
「流石に雨を降らされるのは嫌だし……

 双子はフリーナに近づくと素早く彼女を担ぎ上げ開いていた窓から飛び降りる。夜空にはフリーナの悲鳴が響き渡った。



 
「ヌヴィレット、約束どおりフリーナを連れてきたよ」

 空と蛍が銀髪の男性――ヌヴィレットに報告すれば彼は目を細めた。

「ご苦労。君たちには苦労をかけたな」

 二人が退出する。ヌヴィレットの視線の先には出席者名簿があり、その中の一つの名前を愛おしげに撫でた。




「ヌヴィレット陛下の入場です!」

 華やかなファンファーレと共に現れた人物を見たフリーナはあんぐりと口を開けた。キミが王様なんて聞いてない!と心の中で叫ぶ。

「皆のもの、今日は私の婚約披露パーティーに集まってくれたこと、ありがたく思う」

 ヌヴィレットの言葉に会場にいた人々がざわめいた。――今日は婚約者探しではなかったのだろうか?とフリーナは首を傾げる。

「ああ、そうだ。本来ならばここは婚約者を探すための宴だ。まあ、その必要はなくなったがな」

 ヌヴィレットが観客と化す人々に手を翳せば、フリーナの体が青い水の膜に包まれて、ふわふわと浮いた。

「紹介しよう、彼女が婚約者のフリーナ・ドゥ・フォンテーヌ殿だ」

 ふわふわと浮いた泡はヌヴィレットの上に来るとぱちんと弾けて消えた。残ったのはいつの間にか豪奢なドレスに身を包み、彼の腕に抱かれたフリーナだけだ。

「そんな話知らなっ……

 フリーナの抗議はヌヴィレットの唇に封じられた。彼の舌が唇を割って入り込み、フリーナの口腔内を犯した。

……っは、僕はそんな話知らないぞ……っ!」

 息も絶え絶えになりながフリーナが抗議をしながらヌヴィレットの顔を押しのければ、彼は懐から紙を一枚取り出した。

「知らなくとも、ここに書いてある」

 ヌヴィレットが取り出した紙は婚約証明書。そこには確かに二人の名前が書いてあった。絶句するフリーナの手にキスをするとヌヴィレットは微笑んだ。

「安心して欲しい、私は一途だからな――必ず幸せにすると約束しよう」