ガイベル
2024-05-16 15:55:03
2923文字
Public お話
 

分け合うなら

ある夜の小話

夜中にふと目が覚めた。

部屋の中は暗くて静かで、ただ時計の針が進む音だけが聞こえる。カーテンから溢れる日の光も無く、まだ夜の帷は降りたままだ。
普段はあんまりしないんだけど、昨日は少し昼寝をしてしまったからこんな時間に起きたのかもしれない。
水でも飲んでまた寝なおそうかな、とぼやけた頭で考えてゆっくり体を起こすと、いつも隣で寝ているはずのサニーくんがいなかった。思わず彼の居たはずの場所を手で探る。
まだ少しだけ暖かい……と思う。……たぶん。
寝ぼけた頭だったからちょっとびっくりしたけど、きっと彼もぼくと同じように目が覚めてしまって、起き出しているのかもしれない。しばらくすれば戻ってくるだろう。
起きてしまったとはいえ、眠気が纏わりついている状態ですぐに立ち上がる気にもならなくて、布団をかけたままの膝を抱えて少しだけ目を閉じた。別にそのまま、また寝てしまえるなら、それだって構わないと思った。

……でも、彼がいると思っていた場所にいてくれなかっただけで、なんでこんなにショックなんだろう。
今までだって、きっと数えてみればひとりぼっちでいた時間の方が長いのに。
小さい頃は見守ってくれる人がいたとはいえ、遊ぶのも、勉強するのも。何をするにだって1人で。
それが当たり前だったから、そういうものなんだって思っていて。
それで全然、大丈夫だった。平気だと思っていたのに。
みんなが……、彼が。自分の世界に現れてからは、それが全く逆になってしまって。
どこへ行くにも、遊ぶにも、いつもみんながいて。
隣には彼がいて、ぼくの居場所を作ってくれていて。
時には手を繋いで。たくさん話をして。
1人になるのが、とてもさみしいことになった。
ひとりぼっちが、とても嫌なことになった。
それこそぼくは許される限り、彼の家にばかりいた気もする。……きっと本当は、彼にはぼくは必要なかったんだけど。
ぼくには彼が必要だったから。
まだ記憶にある、彼の家でよく座っていた席のこと。
正面の席と、壁の方にだけ向いているその椅子は、目の前の部屋の隅に座るサニーくんのことばかりが見える場所で。他のものを見るのには少し不便な位置だったけれど。
でも本当はそれだけで。
ぼくにとってはその席から、ただ前を向いて見える光景の、それだけが全てでもよくて。
そのとき他にはもう、なんにも要らなかったのに。

──やっぱりぼくって、ワガママなのかなあ。


……だめだ、暗い部屋でひとりで膝を抱えて考え事をすると、思考が悪い方に全力疾走しちゃう。もったいないほど幸せな日々は、他でもない彼の努力によって今だって続いているのに。よくない癖だ。
しかしサニーくん全然戻ってこないな。ぼくもやっぱり水をとりに行こう……。そう思って、ベッドを抜け出してキッチンに向かう。
サニーくんが寝室を出たのが、ぼくが起きるより前だから……と考えると、結構長い時間が経っているはずだ。てっきりリビングにでもいるのかと思ったけど。彼の背を見付けたのはぼくの目的地と同じ場所だった。

「サニーくん」
そう声をかけると、彼はやけに驚いた風にこちらを振り返る。すぐに綺麗なまんまるの瞳がぼくを捉えたけど、彼は何も言わない。
不思議に思って首を傾げた時に、彼の後ろに何かの影が見えた。

お湯の注がれた、カップラーメン。
……と、封が開けられたドーナツの袋。

その二つをしっかり見てから、また様子を伺うように彼の顔に視線を戻すと、まだこれまで一言も発していない彼の口がついに動いた。

……もぐもぐ……

食べている。

「げ、現行犯……っ!」
思わず彼の肩を掴んで、ぼくの口からは大きめの声が出る。サニーくんは声が大きい……!というようにもぐもぐしながら人差し指を口の前に立てた。そうだ、いまは深夜だった……。え、これ、ぼくが悪いのかな……
しばしの気まずいモグモグが続いた後、彼がようやくそれを飲み込むと、今度こそ発言のためにその口が開かれる。
……これは、

ピピピピピピピピピピピピピピピピ!!

……カップラーメンの出来上がりである。
サニーくんが無言で鳴り響くタイマーを止める。
発見した時はついあんな言い方をしてしまったけど、別に怒っているわけではないから、いたずらに時間と麺を伸ばす必要もない。
……できちゃったからには、食べるしかないね」
そう声をかけると、コップに水を注いで先にリビングに向かう。サニーくんは必要な諸々をトレイに乗せて運び、ぼくの後に続いて席についた。

腰を落ち着けて、カップ麺の蓋が開かれる。湯気と香りがあたりにふわりと広がって、そこまでお腹が空いているわけでもないぼくも、ちょっと美味しそうかも、と思ってしまう。さらにこの時間というのは、流石に罪だ。
サニーくんは思うところがあるのか、手付かずのそれをまずスススとぼくの前に差し出した。……ぼくも食べちゃっていいのかな。少し迷ったけど、ひとくちだけ呼ばれることにする。
「じゃあ……いただきます」
プラスチックのフォークに麺を少しだけ取って、ふうふうと息を吹いて冷ます。
じっと見つめられながら自分だけ食べるのは少し落ち着かない。サニーくんにお預けをさせている気分にもなる。……でも、これでぼくも共犯だ。
すぐにもういいよ、と言って手をつけたそれを彼の前に戻した。もういいの……?というようにぼくの顔を覗き込む彼の目を見てしまうと、カップ麺のひとつやふたつ……それどころか食べたいものや欲しいものを、なんでも好きなだけあげたい気持ちになってしまう。
そんなぼくの気持ちを知る由もないサニーくんは、一度に結構な量の麺をすくい取るとそのままばくりと食べ始めた。彼の一口は意外と大きくて、あっという間に食べすすんでいく。
自分が見られている時はちょっと気まずかったけど、サニーくんが食べているところを見るのは結構、好きかもしれない。膨らんだ頬とか、飲み込む時の喉仏の上下に動く様子とか。思わずじっと見つめてしまう。何にも変なことはないはずなのに、何故だかちょっとだけ後ろめたい気持ちが沸くような気もして。でもそれには気付かないふりをした。

暖かいものをお腹に入れて一息ついたら、なんだかホッとして思わずふあとあくびが出る。まだ夜は長そうだし、やっぱりもうちょっとだけ寝ようかな。……歯は磨き直さないと。それからあまり間を置かずにサニーくんもくぁと伸びをする。彼は少し恥ずかしそうにゆっくり小さな動きで身を戻すと「うつった」などと言いながら席を立ち、トレイを持ってキッチンに消えていく。
コップもなにもかもまとめて回収されてしまって、ひとりテーブルに残されたぼくは、彼の残した言葉に思わず笑いを溢してしまった。



深夜に起こったごくごく小さな事件の話はこれで終わり。あとはまた、おやすみを言い合って眠りにつくだけ。

つぎに太陽が顔を出すころに目が覚めたら、隣にいてくれる君におはようって言うんだ。



end.



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2人で罪を分け合うなら、これぐらいで良かったのに