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出口
2024-05-15 17:14:08
2719文字
Public
夏虎
「パで負けたゆじが夏のとこでバイトする話」(まだ導入部のみ)
離反のない世界線の呪術師夏油と、呪専生悠仁。
呪術高専東京校のOBでもある夏油傑さんは、フリーの呪術師をやっているらしい。
彼は俺の担任の五条先生と、医務室の医師 家入さんの同期だそうで、卒業してすぐに呪術師斡旋業の事務所を立ち上げたのだという。
俺は呪術界のことはまだ良く分からんが、それでも若くして一国一城の主ってのは凄いことなのだと思う。彼にそれが叶ったのは、彼自身特級呪術師という日本に4人しか居ないというチート級の術師だからだ。
ちなみに五条先生と、先輩の乙骨さんと、あと会ったことないけど女性の呪術師の人が特級らしい。
夏油さんは高専の仕事も請け負ってるし彼自身も任務を依頼されることがあるため、たまに高専で姿を見かけた。
どうやら都内の宗教施設の経営コンサルなんかもやってるらしく、彼自身もいつも坊さんみたいな袈裟を着ていて、これで「呪術師です」と言われればもの凄く説得力があるなと思う。
坊さんのカッコなのに髪がすごい長いのとかも、逆にいかにも感増す。なんつーか、俺こないだまで一般人だったから分かるんだけど、普通の人が「呪術師です」って言われた時の印象ってやっぱ怪しげなんよね。そういうのにすごいマッチしてるってゆーか。
いつもアイマスクの五条先生と比べると、よっぽどそれっぽい。先生は先生で怪しげだけど、ちょっとジャンル違う。
そんな夏油さんは、大抵の場合は学長か学長の補佐をしている伊地知さんたち職員の人と居るけれど、五条先生が居る時は先生が盛大に絡みに行くのが常だった。
かつて親友と言われた2人だが、夏油さんに言わせれば『腐れ縁』というやつなのらしい。それには家入さんも深くうなずいていた。つまり、3人とも今でも仲良しってやつだろ? って理解したんだけど、五条先生を除く2人には嫌そうな顔をされた。
そんなもんなのかな? 同期が大人になったところって、俺にはまだ想像もつかないけど。
とはいえ、五条先生が夏油さんに絡んでいく時は、いつも挨拶するくらいで遠目で彼を見るだけの俺なんかにも話しかけるチャンスが訪れる時。
別に夏油さん自身が話しかけづらい人とかそういうアレじゃねーけど、なんかあるじゃん? 大人の会話に入ってっていーのかな? ってなるやつ。仕事で訪れている訳だし。
五条先生の場合はそういう時も割と向こうから話しかけてくれるんだけど、夏油さんから仄かに漂う『話しかけるなオーラ』みたいなの感じたら俺もさすがに空気読むことある訳で。
それでも「オマエ良く行けるな? あの人に」って伏黒や釘崎に引かれるくらいは、俺だって夏油さんに話しかけたりはするよ? 場合によるだけ。
五条先生は同期の気やすさに敢えて空気を読まない性格が加算されてるから、それを簡単に突き崩す。
そして俺は、それに便乗してる。
ひとしきり絡んでから、呼びに来た伊地知さんに文句言いつつ手を振り「じゃーね」って行っちゃった五条先生を見送って、俺はまた夏油さんを見上げる。
「虎杖は私と話すとき、少し緊張するね」
五条先生のおかげで少しだけ表情を緩めてくれた夏油さんに指摘され、俺は思わずビクッて震えてた。
「そ、そんなことねーっスけど
……
」
答えたが、誤魔化しきれない。
夏油さんって人は、どこか人を見透かすような不思議な視線や雰囲気を持った人で、五条先生ともまた違う迫力があるんだよな。
「私、何かしたかな?」
しかし更に突っ込まれ、
「いやっ! 何も! 何にも無いよ!! 俺が勝手に
――
」
「君が勝手に?」
狼狽え思わず叫んでしまった言葉の意味に、繰り返されて初めて気づく。
「や、あの〜〜
……
夏油さんカッケーでしょ? 体幹すげぇの着物でも分かるし。だから何となくドキドキするってゆーか」
「ドキドキ?」
「ワクワクするってゆーか」
「ワクワク? 私はアトラクションなの?」
今度こそ破顔しておかしくてたまらないと言うよう声を立てて笑うから、俺は恥ずかしくなってしまった。
五条先生もそうだけど、やっぱ最強を謳う呪術師ってのはカッコいい。オーラが違うっていうか、たぶん呪術師だからこれは呪力が違うってやつなんだと思う。
俺は夏油さんが呪霊祓うとこ見たことないけど、それでもこの人が強いってのはビシビシ感じてた。
「君はいつもそうなのかい?」
笑うのをやめて尋ねる夏油さんに、
「へっ?」
俺はその意図が分からず気の抜けた声で返してしまう。
「だから、誰にでもそんな感じなのかな?」
重ねて尋ねられたけど、
「そんな感じ? ん〜、まあ、そんな感じデス」
よく分からなかったけど、何も取り繕ったり偽ったりしている訳でも無いからうなずいておいた。
「悟が、君はイカレてるって言ってたけど、」
マジか、五条先生そんなこと言ってたのか。「呪術師なんてみんなイカレてる」って、真希さんも言ってたけどさ。
「やっぱ面白いな君」
ニコリと笑みを向けられたけど、なんか含みのありそうなその仕草に微妙な気持ちになる。
「宿儺の器だっていうから最初はどんな奴かと思ってたけど、私は結構君のこと気に入っているよ」
そして続けられた夏油さんの言葉は好意的なものなのだと、気づいた瞬間顔が熱くなった。
だって塩だって思ってたタイプの人に「実はオマエのこと気に入ってた」なんて言われたら、そりゃ俺だってちょっとはコーフンする。
ちょっとは? いや、ケッコー? や、めちゃくちゃ!!
「本当に面白いな」
ちょっと低くなった声にソワッとしたけど、
「何か困ったことがあったらいつでも頼ってくれていいからね、ハイ」
と、流れるような仕草で差し出されたのは名刺サイズの紙片
――
いや、本当に名刺だった。
『夏油呪術師斡旋所 所長 夏油 傑』
所長だって! 夏油所長!! カッケぇ〜。
事務所の住所と代表電話番号の下に、夏油さんのものだろうか? ケータイ番号がある。
「ケータイの方にかけてくれればいいから」
この名刺どこから出したんだろうか? 袂から? と小さく首を傾げた俺に、夏油さんの言葉が追っかけて来た。
「う
……
うす」
思わずうなずき答えたけど、俺が夏油さんに連絡するような日なんて来るんだろうか?
「短時間や1日バイトなんかも募集してるから」
スカウトだったかな? って付け加えられたセリフに、小遣い稼ぎしたい時に相談しようと思う。
そうして夏油さんは、来た時のよう颯爽と帰って行った。
事務所から迎えの車が来たらしい。すげぇな、やっぱ儲かってんのかな? なんて俗な感想しか出ない俺だけど、夏油さんにもらった名刺はその日から俺の財布のポケットに入ることになった。
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