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戌丸アット
2022-05-29 23:53:20
2224文字
Public
Fate
自虐家の傍に居て
槍弓
嘘を吐きすぎて、どれが本物か分からなくなってしまった。
しかし黙っていれば美丈夫、いや、喋る内容は兎も角として鮮やかで宝石のような青い髪の槍兵の声も心地よい声だったと"記録の私"は場違いにも残っている。
どんな声か、など実際には"覚えていない"ので少し残念だ。
「尋ねた俺がバカだったぜ。貴様の剣には圧倒的に誇りがかけている」
応とも。
誇りなんてものを抱えていては、あべこべで生きる事に縋りつくしかない自分は勝てない。
何処まで全力で走っても、がらんどうの自分から生み出せる物は剣と壊れた幻想だけ。
様々な輝かしい伝説を残す英雄、英霊の前に凡人が立ち、そして生き延びるには誇りや価値など捨て去り、何も出来ない悔しさと生きる事への執着心で立つ為に背筋に一本の鉄を通す。
それしか出来ない。
そして英雄からも人間からも敬われされるような英霊に、そんな有様など分かる筈も理解も出来る筈がないだろに。
あまりに滑稽で、自分の分霊の記録でしかないのに笑ってしまう。
君は、なんて羨ましい男なんだ。
己の実力を疑わず、されど慢心でもなく相手の力量を冷静に評価する。
そんな余裕など私はない。
如何にして相手の攻撃を防ぎ、どうする事が己にとって最善なのか。
望む結果を導き出すには、どうすれば最善なのか。
常に私には選択肢など無く、最善だと思った方法に縋りつく。
ただそれだけ。
相手の力量は理解できても、その奥にあるモノなど察する余裕なんて無いのだ。
故に、その槍は、描く曲線は、手さばきは、誇りに溢れる力は。
私にとって酷く残酷な程に美しい。
標的が自分でなければ見惚れてしまうだろうし、何よりずっと見ていても飽きる事は無いだろう。
無論、己が投影した剣と交える事が出来る事は実に幸福感と満足感が後から後から溢れて来る。
全くもって我ながら現金なものだ。
何より消え去るとはいえ一時的な記録媒体の中だけで片手では足りぬ程に登場してくる、ケルト神話の代表的な英雄の一人である青空を思わせる男、クーフーリン。
摩耗して、自分の半生すらまともに覚えていないのに聖杯戦争への召喚の記録には、ほぼ毎回現れるせいで彼に関する知識や歴史の貴重な情報ばかり残っている。
あぁ、本当に目障りな程に、あの男についての事ばかりだな。
私の穴だらけの記録は。
「いけ好かねぇのは変わらんが、存外嫌いじゃないぜ?お前の剣」
ふっ、と自分は息継ぎをした気がする。
「あぁ!?矛盾してるのは俺も分かってるわ!だがな、そんなもんは人間なら当たり前だろうが」
今度はコポリと大きく息が零れる。
「良いんだよ、いけ好かなくても。お前の言葉はムカつくがお前の剣は嫌いじゃない
……
いや、うん、ちょっと違うか」
あぁ、息を吐きすぎたようだ。
とても胸が苦しいのに沈んで行くのが分かる。
「お前は石よりも硬い鋼鉄のような奴だからな。ハッキリ言ってやるよ、アーチャー」
ムカつく。
憎たらしい。
そんなに私が無様を晒す事が可笑しいか。
「俺は存外お前の事が好きらしい」
たわけ。
正しく英霊であるクーフーリンの座に残る筈の無い記録、夢の中で登場回数が多いから愛着でも湧いたか。
何より私は犬より猫が好きだ。
しかし×××は苦手だった
……
か、ら機会が
……
。
う、あ、れ?苦手?
いいや、好きなのに何故、機会が無かったのだっけ。
あぁ、私は霊体だから。
死者だから。
好きだから、その瞬間だけ戯れるなんて無責任な事は出来なかったのだったか。
「アーチャー」
うるさいぞ、×××。
私にも真名はあるのだ。
クラス名で貴様に呼ばれる事が心地良いだなんて気持ちも、どうせ摩耗して消え去る。
どうせ、この温かな夢も終わる。
だから告げても良いのだろうか?
私のな、まe、ha××××××ーーー
……
……
ーー伝令。人類滅亡回避の為、××××へ召喚されたしーー
自分が言ったのだろうか?
分からない。
分からないが違和感による気分の悪さから瞼をキツく閉じて開いてみれば黒煙。
血生臭さと土埃。
遠くでドドドドッカラカラ、ゴーンゴーンと騒音が響いている。
大丈夫だ、分かる。
銃声、薬莢の転がる音、車にしては重すぎる鋼鉄の箱を運べる程のエンジンの音やタイヤの走る音。
また守護者として私は立っている。
いつもの様に使い易い理想の弓を投影し、逃げようともアラヤが良と判断するまで追いかける矢を投影する。
弦を放す時に考える必要は無い。
投影して、矢を添えて、射る。
ただそれだけ。
さて、どれだけ弦を揺らしたろうか。
自分しか立っていない地面を歩いて強化してきた事で得た鷹にも負けぬ目を凝らす。
すると。
ポタリ、パラパラと水滴が服に落ちる音がした。
鳴る筈の無い音がして上を見るが召喚された空は立ち込める黒煙とは似つかわしくない程の快晴で太陽は眩しい。
その熱量は今しがた葬った屍たちこそが受けるべきだったのにと無駄な事を思う。
透き通るような海原も何処か泣いているかのように輝き
……
あぁ。
「そうか。泣いていたのか、私は」
そんな呟きが零れてしまう程に呆けながら私はいつも通りに身体を空へと溶かして行った。
……
次の召喚も、どうかこの美しい青き光景を目に映したい、だなんてらしく無いな、今日の俺は。
END
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