溶けかけ。
2024-05-14 21:42:38
2247文字
Public ほぼ日刊
 

ひとりぼっちのこの星で

『ひとりぼっち惑星』のパロディです。

「ママ!なんで僕とパパだけなの!?」

「ごめんなさい、二人分しかないの」

 泣き喚く子どもと宥める父親とこの惑星に残ることになってしまった母親の親子の別れ。方舟に乗るチケットは一枚足りなかったのだ。

「フリーナ……?」

 僕と同じ顔をした僕の創造主が困惑したように僕の腕を掴んだ。

「ごめん、フォカロルス……僕は一緒に行けない」

「なら、僕も……

 彼女の手を両手で包み込んで笑ってみせる。

「ダメだよ。――キミはこの人たちの神様で僕はただの せいたいへいき なんだから」

 僕の言葉にフォカロルスは目を見開いた。それから唇を噛みしめる。

……いつか絶対にむかえに行くから」

……うん。待ってる」

 それは恐らく、果たされることのない約束。――僕は知ってるんだ、フォカロルス。キミが彼らを愛しているからこそ見捨てられないことを。

「こんな紙切れ、僕には相応しくないな。三文芝居のチケットの方がまだマシだよ」

 ひらりと親子の前にチケットを落として方舟から降りる。母親が泣きながら僕に何度も感謝を告げる。

「キミたちのような脆弱な人間にはお似合いだね」

 方舟が旅立つ。僕はそれを見えなくなるまで見送った。



---- ---- -・・・ -・-・- ・・-・- --・-・ ・- --・・- ・・-・・ --・ -・・ ・・ ・・-・ ・・-- -・・ --・-・ 

「おはよう、こんにちは、こんばんは。そのどれかは分からないけど。今日も『水の星ラジオ』の時間だよ」

 -・-・・ -- ・・- -・・-・ --・・- ・・-・・ --・ -・・ ・・ ・--・ ・・-・ 

「この間はたくさんのメッセージをありがとう。まあ、いつ届くのかわからないし、いつ送ってくれたものかも分からないんだけど」

--・-- ・- -・ ・- -- --・・ ・-・・ ・-・- -・--・ ---・- 

「ヌヴィレット様……

「セドナか。君も眠るといい。限界が近いのだろう?」

「ですが……

「私のことは心配しないでくれ。君たちが生きている、それだけで寂しくはないのだから」

 ヌヴィレットの言葉にセドナは眠そうな眼を擦りながら頷いた。

「ヌヴィレット様がそう言うのでしたら……もし、寂しくなったら起こして下さいね」

 ヌヴィレットにおやすみのキスをするとセドナは床についた。セドナがすっかり眠ったのを確認するとメリュジーヌたちが眠る部屋に封印を施す。寒さに震えないよう、氷に覆われないように。

 ヌヴィレットの星は凍りついた。眷属はひとり、またひとりと眠りにつく。――いつか春が訪れるその日まで。
 ヌヴィレットにとっては小さい椅子に腰掛けて、よくわからない機械のチャンネルを捻る。機械好きのメリュジーヌが作った通信機というものらしい。

-・-・- ・・-・- --・-・ ・- -・ ・・ --- ・-・・ ・- ・-・ ・- ・・-- ・-・・

 ザザッと言うノイズの後に不思議な音が入り、少女の声が聞こえてくる。メリュジーヌたちが気に入っている『水の星ラジオ』というものだ。

「今日は……ええっ!?僕の歌が聞きたい、だってぇ!?――うわぁ……他にも同じメッセージがたくさん……わかったよ、歌えばいいんだろ、歌えば!」

 少女が歌う。恐らく彼女の星の童謡や子守唄だと思われる曲は優しく、心地よく、何より暖かかった。

「こほん、ご清聴ありがとう。リスナーの諸君……っと、もうこんな時間だ。今日も『水の星ラジオ』を聞いてくれてありがとう」
 
-・-・・ ・・- -・・-・ --・・- ・・-・・ --・ -・・ ・・ ・・-・

 (そういえば、ラジオの始まりと終わりに入るこの音はモールス信号だと言っていたな)

 ヌヴィレットは本棚からモールス信号の本を取り出すと今までの音を思い出しながらひとつひとつ読み解いていった。

 -・-・- ・・-・- --・-・ ・- -- 
 
「『水の星ラジオ』の時間だよ。今日は機械いじりについてお話していこうか」
 
「ついつい、話し込んでしまったよ。『水の星ラジオ』今日はこのへんで。またね」
 
--・・- ・・-・・ --・ -・・ ・・ ・・-・ -・・・ -・・-・ ・・- ・- ・-- -・ ・・ 

 一番新しいモールス信号を読み解いたヌヴィレットは椅子から立ち上がると外に出た。自身の分身を作り出し、メリュジーヌたちを守るように命令をしておく。確か、水の星はここから近い星だったはずだ。――まあ1時間もあれば着くだろう。



「おはよう、こんにちは、こんばんは……今日も『水の星ラジオ』の時間……って、うわあ!?な、なに!?」

 夜空の流星がフリーナの前に墜ちる。もくもくと立ち上る土煙の中には長身の人影が。

「君が『水の星ラジオ』の『フリーナ』か?」

 土煙が晴れて銀髪の美しい男性がフリーナに手を差し出した。

「そ、そうだけど……なんの用?」

 胡散臭げにヌヴィレットを見上げるフリーナ。

「『さみしいよ ひとりぼっちはもういやだ』――君に会いに来た」


 -・・-・ ・・- -・-・- ・・-・- --・-・ ・・・- ・-・ ・- -- --・・ ・-・・ ・-・- -・--・ ---・-