どんよりと重く垂れる黒雲と、陽の光すら届かぬ薄暗い地上。積み上げられた灰色にはもはや生気も活気もみられず、ただただ形骸と化した文化が横たわっている。砕かれた照明器具、荒らされた生活の痕跡、漂う異臭に群がる悪魔ども。ぬるりぬらめく表皮と鱗、口からギラリと剥き出しの牙に、ねじれ歪んだ角と翼。人が去り、生物が去り、しかし自然は戻らず、渦巻いた悪しき心に惹きつけられた悪魔どもの巣窟となったその地に、棺を担いだ男がひとり。
神々の聖なる力の残滓たる光漂う教会の廃墟。下級悪魔どもは光を嫌って遠ざかるそこに、その男は座り込んでいた。鮮烈な赤と稲妻の宿るが如き金色の逆立つ髪は、男の大きな背を覆い隠すほど長い。翡翠のような青き瞳は、黒い手袋の上に載ったドッグタグ3つを見つめ、はぁとため息がひとつ。壁に立てかけられた黒い棺はぎょろりと男の手の上を睨み、しかし動くでもなく、ただじっと佇むのみ。
男は自らをデモンスミス、悪魔の鍛冶師と名乗る。悪魔狩りと鍛冶師を生業とし、この危険な地域にも度々訪れていたが、今回の目的は悪魔狩り自体ではなく、この3つのドッグタグを如何に扱うか、であった。このドッグタグはこの街の片隅に漂っていた異質な魂を、面倒事を起こさぬように強引に閉じ込め、形にしたものである。通常であれば悪魔の姿の文様が刻み込まれているが、これには文字、恐らく名前しか刻まれていない。そして、男にはその文字を読解できなかった。
男は悩む。話をするには、一旦具現化させるしかない。しかし、具現化させるとなると……。はぁ、グダグダ言ってても仕方がねぇか。膝を叩き、壁に立てかけた棺の悍ましい口に、3つのドッグタグを一気に投げ込んだ。
ばくり。飲み込まれるとともに、棺は勢いよく分解される。繋ぎ目の肉が剥がれ、ずるりとした粘液が漏れ出、そしてドロドロと宙に浮かんでいく。普段武器を形作るそれは、棺のまま形を変えず、代わりに粘液は、男にとっては何者かもわからぬ男の形を3つ作り出した。……と同時に、作り出された3つの形は、やっと話を聞いてくれる気になったんだな、とか、あの中窮屈なんだよな、とか。留まることを知らずに喋り始めた。
聞き取れねぇんだよ、1人ずつ喋りやがれ!
男がカッと怒鳴ると、3つの形はしゅんと静まり返る。なんだ、案外話は通じるみたいだな。男は腕を組む。……じゃあ、誰から話す? 顔を見合わせる形たちに、男はまたため息をつく。左から話せ。すると、3つの形は素直に聞き入れ、順番に喋り始める。
ひとつめの形は、自らを娑楽斎と名乗った。ある街で名を馳せる絵師であり、仲間がいるのだと。何やら見覚えのない街の名前を見かけ、閑散期だしせっかくだからと列車に乗ってここにやってきたが、何者かに体と魂を分離させられて途方に暮れて放浪していたところを、男に見つかり、ドッグタグにされたのだという。
ふたつめの形は、自らをファイアスターターと名乗った。普段はファイアと呼ばれており、本に宿った魂が何らかの原因で人の形を得て、現実世界に出てきた存在なのだと。こちらも見覚えのない街があると知り、列車に乗って来たは良いが、何者かに体と魂を分離させられ、元々のように体を失ってしまったのだという。
みっつめの形は、自らをラゼンと名乗った。あちらこちらを旅する格闘家で、腕に覚えのある者と闘っては、研鑽を重ねているそうだ。そしてこちらも前2人と同じく。うろついている間に見知った顔を見つけられたのは良かったが、お前のような奴に捕まったのは幸か不幸か。どちらにせよ、俺たちはアンタに捕まった以上、アンタの言うことを聞くしかないだろうな、と。
ひとまず、事情は分かった。分かったが、男にとって有用な情報はなにひとつ無かった。それより、お前らの好奇心どうなってんだよ……そんな言葉と、両肩にずん、とのしかかる疲労感をこらえ、男は続ける。じゃあ、テメェらの望みはなんだ。元に戻る事か? 生憎、俺だって忙しい。手は貸せねぇぞ。男が脅せば、形は応える。いいや、簡単に戻れるとは思っていない。むしろ、簡単には戻れないし、面白そうな奴に捕まったからこそ、ついていきたいと思っている、と。
笑う形達に、男は内心、面倒な奴らを捕まえてしまった、と。ついてくるっつったって、何が出来んだよ。男が問えば、形は首をひねった。そして、答える。武器なら貸せるかもしれない、と。
3つの形はするりと棺の中へと戻り、そして棺が閉じられれば、口からドッグタグが吐き出された。相変わらず刻まれた名は解読できない……が、その名の長さでおおよそは判別がつく。武器ならっつっても……いや、武器か。なるほど。とはいえ、男は正体不明の兵器をいきなり実戦投入するほど無謀ではない。まずはひとつめ。ばくり、と喰わせる。
弾け飛ぶ鎮魂棺。粘液は油に引火したが如く激しく燃え上がり、部品が男の腕に纏わり付く。炎がそれぞれを融かすかのように灯り、瞬く間に、2つの巨大な筒の持ち手が握られていた。そして、完全に具現化した途端、男の両腕が持ち上がらなくなるほどの重さがのしかかる。ぐ、と体中に力と入れ、ついでに魔力を迸らせ、ようやくバランスをとれるほど重い鉄製の筒。当然、持ち手だけでは安定しない。腕にはまるで拘束具のようにごつい腕輪があり、それで固定されていた。外すのには手間がかかりそうだ。そのまま持って観察すれば、大砲のような見た目はしているが、両端は小さな穴の空いた蓋で封をされており、銃弾や砲弾を入れられそうな場所はない。どうやら銃火器の類ではなさそうだ。恐らくは逆手持ちが正しいのだろうが……男が悩んでいると、棺から筒に引き継がれたギョロ目が男をじっと見ては、知らぬ男の声が筒に響いた。よう、まずは俺からか。……ええと、お前は誰だった? 問いかければすぐに答える。ラゼンだ、と。
それで、お前のこの武器は一体何なんだ? 男が問いかければ、武器は答える。トンファーだ、と。男は全く想像していなかった正体に、あんぐりと口を開けた。このデカい筒が……トンファーだと? 武器は再度答える。あぁ、トンファーだ、と。腕にのしかかる重みに適応したつもりだった男の腕は、また自然と下がってくる。……おい、どうかしたのか。武器は問いかけるも、男の返答はないままだった。
男は鍛冶師である。古今東西、様々な武器に精通しているつもりだ。だが、これは明らかに自分の知っているトンファーではない。トンファーというのは遥か遙か東の国の、精々肘ぐらいの長さで木製の、護身に重点を置いた軽量な武器のはず。だがこれはどうだ。男の胴体を丸々切り出したような太さの筒を逆手にすると、末端は男の顔の真横辺りに来る。小回りという小回りを一切捨て去った鉄製トンファーもどき。設計したのは誰だ。作ったのは誰だ。男はこんな発想に至った輩の顔を想像しようとしたが、無駄だろうと思考を打ち止めて、なんとか言葉を紡ぐ。…こ、これだけデカいなら、何か別のこともできるだろ? 武器に問いかければ、トリガーがある。点火させてみろ、と。
カチリ。筒の中の回転音が加速し、瞬く間に炎が渦を巻く。燃やされるとまで錯覚するほどの熱が、筒の外側まで伝わってくる。そうだ、いいぞ。その声と共に、男は使い方を直感する。構え、もう一度トリガーを引けば……。
ドォン!
……男は気が付けば、壁に打ち付けられていた。踏ん張るも儚く吹き飛ばされ、爆発の推進力に一気に持って行かれた体。体の節々は分離寸前であったが何とかとどまるも激痛を訴え、残ったのは壁にめり込む筒と、ひび割れた教会の壁。パラパラと埃が落ちてきては降りかかる。危機を感じ取り急いで離れると、ひび割れた壁はガラガラと崩れ去った。それはそれは見事な曇天が、新しい窓から挨拶する。
鍛冶師である男には人の得物にとやかく言う趣味はない。だが、これは……作ったやつも、これを武器として扱うことにしたこいつも……相当……。
言葉を飲み込み、男は言う。ちなみにだ、聞かせてくれ。お前はこの武器で一体どうやって戦うんだ。武器は答える。癖が強いからな。推進力をものにすれば、蹴りの威力を更に上乗せできる。……これだけ壮大な武器と、過剰な火力から放たれるのが、パンチでもなく、重厚さを活かした強固な守りでもなく……キック? その言葉を聞いた途端、男の体から一気に力が抜けていき、へなへなへたり込んでしまう。もうなんなんだよお前は……。つい口から零れ落ちた呟きに、武器は大真面目に答えた。ラゼンだ、と。
こん…こんなトリッキーなブツをポンと渡されて、すぐ使えるか馬鹿野郎!
男は武器を引っぱたき、ドッグタグをカヘッと吐き出させ、強引に棺の形に戻した。男は頭を抱えた。まさか……いや、そんなことは……とりあえず、次を見るか。
体の痛みが引いたころ、男はドッグタグを棺に放り込む。棺はまたガッと弾け飛び、粘液が溢れ出る。ボウと燃え上がるそれに男は既視感を覚えつつも、両腕を差し出せば、部品は先ほどの筒のように逆手ではなく、巨大な拳を形作っていく。男の背筋には燃え盛る炎とは裏腹に悪寒が走り、先ほどと違って形が完成する直前から、しっかりと体幹を維持し、血に魔力を通す。だが、それでも足りず、男は肩を持って行かれかけた。ゴン、と地面に突き刺さる拳。重い、重すぎる。男の体は鍛え上げられていたが、それでもなお思う。並の体で扱えるものじゃない。
魔力を増強し、何とか姿勢を立て直して、肘から手の先までをすっかり覆った真っ赤な拳を眺めれば、片方だけでも男の胸から膝上ほどある巨大さ。手を開くとさらに大きく感じる。棺の材質も混ざっているとはいえ、明らかに鉄ではない。パッと見ただけでは男にとって心当たり無い材質で出来た武器は、一体どう固定しているのかもわからなかった。拳の内側では黒い、布のような材質で腕全体にぐっと圧をかけているが、まさかこれで固定しているのか? いや、余りにも心許ない。軽いグローブ等ならまだしも、この重さを支え切れるものではない。側面のスプリングは、安定のための部品でもない。これならまだ、さっきのトンファーの腕輪型固定具のほうが理解でき……ない。
男はもう一度拳に向き直る。ありとあらゆる物理法則を無視している武器の、手の甲に移ったギョロ目が男を見た。よう、今度は俺か! 拳の内側で響く溌剌とした声に、男は念のために問いかけた。お前は誰だった? 武器は答える。俺はファイアスターターだ! と。そうか、こいつは確か、本の中の住人だったとか言っていたな。男は納得する。この武器は、現実的に扱うことをそもそも想定しちゃあいないんだ、と。
それで……これは何ができる? 男が問いかければ、武器はハハハと笑う。そんなもん、見てわかるだろ。殴ってぶっ飛ばす! 以上だ! 男は予想が当たった落胆と、変わった仕掛けがなさそうな安堵から、素直な答えありがとよ、と漏らす。
まあほら、百聞は一見に如かずって言うんだろ? まずは一発ぶちかましてみろって! 武器の導きのままに、つい先ほどできた窓から外に出て、手ごろな大きめの瓦礫を見つける。ぐ、と拳を握れば、熱が宿る。かしゃん、と拳のガードが降りては、踏み込み、一発、右ストレート。
ガガァン!
男の放った本命の打撃と、更にスプリングを伝って発生した衝撃波の追撃、二重の衝撃に吹き飛ぶ瓦礫の山。飛び散る火花と、引火する泥。いやはや実に単純で、こちらもこちらで過剰な火力……しかし男は直感した。この武器、何かがおかしい。大質量自体が威力に繋がっているが、威力の全てが質量からの力だけではなさそうだ。魔力ではない、筋力でもない、まだ威力を出せそうな気はするのだが、どうにも何かが足りていないような。
あー、貸すだけだとこんなもんか。男が逡巡している間に、武器は呟いた。男は何かあるのかと問いかければ、いや実はな、と武器は語る。元々、俺は本の中の住民だったわけだ。で、誰かの体を借りて、力を貸せるんだが……初めのころはこんなもんだったなぁ。それから色々あって、俺の相棒はやっぱりあいつひとりだってことだな、と。武器はうんうんと、何やら納得した様子。男は何となく察した。多分、契約だとか、同調だとか、適応だとか、そういう類の話だろう。そしてそれは、より天性のものでもある、と。
だが、男の頭にあったのは……やはり、この武器を扱うこいつも、その相棒も、相当……。不意に、男は疑問を口にした。お前の相棒ってどんな奴なんだ? 武器は答える。ハハハ、内気で生意気な奴だぜ。何かと1つのことに熱中しがちで、損する役回りばっかりさせられてさ。それでも逃げ出さずちゃんと前を見てる。そんな奴だ。あぁ、確かこの間、14になったんだったかな。
ガキじゃねぇか馬鹿野郎! こんなモン子供に持たせんじゃねぇ!
男はつい、武器をひっぱたいた。イテッ、と言うのも束の間、口からカヘッと吐き出されたドッグタグ。拾い上げては、また男は頭を抱えた。
方や、一体何を思ってそんな設計と機能にしたのか一切わからないトリッキー極まりない武器。方や、単純といえど契約必須で現状ではスペックを発揮できない武器。おい、これどうすんだよ。男はこの魂たちを捕まえる前の男に問いかけた。当然、過去は答えず、未来はひとり、唸り続ける。せめて、せめて最後のひとつぐらいはまともな武器であってくれ。
安全地帯である教会に戻り、何も効果がないとはわかってはいながらも、男は祈りを捧げ、最後のドッグタグを棺の口へと投げ込んだ。分解していく棺に、どうか、どうか、と。
今度は粘液も部品も男の体に纏わり付くのではなく、棺は細長い形に変わっていく。上が細く、下にかけて太く。六角形の柱のようなそれは、しかしまた男の体ほどの大きさがある。銀色でもなく、真っ赤でもなく、黒く大人しい色合い。……なんだこれ。男は手に取り、観察する。トンファーもどきや拳ほどではないが、重い。細い方であれば手で持てなくもないが、太い方が先端となると重心が体から離れ、魔力の補助が無ければ姿勢を保つのも厳しいだろう。銃火器でもない、剣でもない、もしやこういう鈍器かと考え至った頃、柱の持ち手あたりについた目が、ギョロリと男を見た。よう、最後は俺だな! 男が名を尋ねれば、娑楽斎だ、よろしくな、と柱に声が響いた。……何だか変な名前だな。妙に思いつつも、男は柱の正体を問いかけることにした。
それで、これは何だ? 柱は言う。初めに答えを言うんじゃあつまらないだろ? 今から電源入れてやるから、よーく考えてみな。直後、柱にネオンの筋が幾重にも走り、太い方がガバッと開いては6枚の羽が展開され、羽の裏は光り、ひとりでに浮かび上がる。男の腕は重さから一気に解放され、なるほど、これならまだ実用性はあるだろう。細い方を手で持つと、反対側の先端には極彩色の光が灯っているのに気付く。男は魔法具の類かとも考えたが、魔法文化らしい仕組みもない。男は頭を捻るが、鈍器が最も納得行き、大きく振りかぶろうとすると、武器は叫んだ。待て待て! と。男は止まり、じゃあ正解は何なんだ、と問えば、武器は答える。筆だ、と。……筆。男は問う。筆……は、絵描きの道具……だよな、と。筆は答える。おう、俺は絵師だからな、と。
武器じゃねえじゃねぇか!
男は思わず叫んだ。筆が愉快そうに、はっはっは、と笑うのがどうにも癪に障り、男は笑うなと噛みつく。しかし筆は歯牙にもかけず、そういやぁアンタさんは絵を描けるのか? と。一旦怒りを抑え込み、男は答える。一応、製図はできる、と。なら、ちょいと力になれるはずだぜ。
突如、筆は霧を発生させた。外から入る心許ない光すらも遮断し、暗闇を生み出す。筆先の光は中空へと軌跡を描き、なるほど、これで絵を描くのか、と。……絵を描いたところで何にもならないだろう。口にしようとしたところで、筆は言う。ちょっと待ってくれ……よし、行けるはずだ。何か描いてみてくれ。男は渋々筆を執るが、巨大な筆の線は思う通りには描けず。しかも、図面のような平面ではなく、立体。なんとか蝙蝠の形を描いてみせたが、線はガタガタで、色も思っていた通りではない。描き直したい気もするが、蝙蝠じゃないか、と筆は嬉しそうな声を出した。男にとってはどうにも居心地が悪く、なんかやるんなら、さっさとやれよ、とぶっきらぼうに言い放つ。
はいはい。じゃあ、見てろよ。男の目がぱちりと瞬くと、空に描いた不可思議な色の蝙蝠はぱたぱたと羽ばたき、ひとりでにあちこちを飛び回っては、天井に吊り下がって男を見下ろした。よっしゃあ、大成功! 筆はまた嬉しそうな声をあげ、男は目を瞠った。と同時に、ようやく使える物が来た、と感じたのもつかの間、筆は突如重さを増し、不意を突かれた男は筆を床に落としてしまった。ガツン、と鳴り響く衝突音。ゴロゴロ転がっていく筆。壁に当たって止まり、何が起きたのか、男がじっと見つめれば、筆に走るネオンが、羽の裏の光が、筆先の極彩色が、描いたばかりの蝙蝠すらもが、全て消え去っていて、何もなかったかのよう。
……おい? 男が筆に問いかければ、筆は答える。すまん、電池切れだ。今やった色々は俺の力ではあるんだが、今の状態でやるにはアンタさんの不思議な力を借りなきゃできない様でな。男はふと、自らを省みる。言われてみれば、随分と体が重い。よくわからん奴らへの脱力もある、慣れない武器を使ったのもある。だが、ここまで唐突で強烈な疲労感は……。……てめぇ、まさか。
はっはっは、と筆が笑う。いやぁ、自分でやる分には全然問題ないが、誰かを仲介してとなると、まさかこんなにキツイとはな!
男は仕事のためにため込んでいた魔力を勝手に使われ、すっからかんになっていた。これでは、身体能力をあげることも、魔法を使うことも一切ままならない。筆は続ける。まあ安心してくれ。今回はこうなっちまったが、お互いの感覚のすり合わせさえ進めば自由に使えるようになるさ、と。
そういう問題じゃねぇんだよこの馬鹿野郎が!
男は筆を引っぱたき、ドッグタグを吐き出させる。次第に筆は棺に戻り、残ったのは、男とほとんど同じ大きさの巨大な棺。眉間には皴が寄り、口元が勝手に引きつく。男は決めた。今決めた。こいつら、ぜってぇ許さねぇ。泣き出すぐらいたっぷりと使い潰してやる。
先のことは一旦さておき、目の前の問題を何とかしなくてはならない。これから拠点に帰還するには、当然ながら、魂たちが持つ武器の形を取っていた男の武器、鎮魂棺――レクイエムを持って帰らなくてはならない。しかし、レクイエムは重いのだ。振り回すにも、持ち運ぶにも、魔力を当てにしなくてはならないのに。
俺の……昔の俺の馬鹿野郎! どーすんだよコレぇ!
男の悲痛な叫びが、神の去った教会に空しく響き渡った。
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