はっさく(とうらぶのすがた)
2024-05-13 21:53:46
1895文字
Public 南水
 

洗濯物を室内干ししながらイチャつきかける南水~ちょっと手が早い先生を添えて~

冒頭ちょっと指輪物語ってるので200文字くらいさーっと飛ばし読みしてね

 しとしとと雨が降る日にも、洗濯当番はまわってくる。
 本日当番の南海太郎朝尊は、水を弾く材質の水仕事用の前掛けを物干し部屋で干していた。朝昼晩とおやつの当番で清潔な前掛けが二十枚は必要だ。何か不測の事態が起こったときのために二倍の量用意してはあるが、新入りがいれば教える係のためにもう数枚余分に必要にもなるため、毎日の洗濯が欠かせない。機械で洗うことはできても機械による乾燥は溶けてしまうため、手で干すのがこの本丸の通例だ。
 除湿ができる機械と空気を循環させるための扇風機を回す。重ならぬよう、不必要に素手で触れ過ぎぬよう細心の注意を払って作業を行う。
 と、今日一緒に当番に任命されている水心子正秀が、大量のタオルを持って部屋へやってきた。
「乾燥機が故障したらしい。温度が上がらないようで、何度かけてもタオルの乾きが悪いのでここで干してもいいだろうか」
 水心子の手元のタオルは確かに、半分乾いたような質感だ。
「ならば場所をあけよう。主と近侍に報告はしたかい」
「ああ、すでに伝えた。干さねばならないのもこのタオルだけで、ほかはもう乾いている」
 横向きに干していたものは縦に、なるべく重ならないように、なるべく詰める。部屋の隅の物入れから角ハンガーをいくつか抱えてきた水心子は、そこへ次々にタオルを干す。手分けをしていたおかげで、作業はあっという間に終わった。
「記録は終わっている、あとは片付けだけだ」
 洗濯場には誰が何を行ったかと名前を書いて作業を記録するための端末が置いてある。すでに項目は埋め終わっているらしい。
 洗濯物を運ぶ籠や、どのくらい必要になるかわからず器ごと持ってきている洗濯ばさみを物干し部屋や洗濯場の棚に戻すのみらしい。軽いものは総じて棚の上部と相場が決まっている。水心子が洗濯ばさみの保存箱を持って顔をこわばらせたのを、朝尊は見逃さなかった。
「戻すものを交換しよう」
「あ、ああ……いつもすまない……
 洗濯ばさみの保存箱と、重ねた洗濯物用の籠を交換する。最下段には踏み台もあるにはあるが、届く身長の者が傍らにいるのならばできるほうがやればいい。
 引き戸になっているその棚の最上段に洗濯ばさみの保存箱をおさめて戸を閉めれば、反動で反対側の戸がそろりとあいた。
「おや」
 両側を押さえればなんてことなく両方閉まるのだが、今日は隣に水心子がいたため、それをしなかったのが原因だろう。朝尊は腕を伸ばして両側を押さえて戸を閉めた。
 と、胸の前で水心子がうめいた。
「一言言えば退いたものを……!」
 言われて視線を落とせば、こちらに背を向けた水心子を両腕の中に閉じ込めたような格好になっていることに、今更気がついた。
「ああ、すまないね」
「いや、ついでにと下段の角ハンガーの新品在庫を数えていた私も悪い……
 洗濯物に遮られ明かりが届かない部屋の最奥部の棚の前である。だが目の前の水心子の首筋や耳がほんのり染まっているのがはっきりと見て取れた。
 思わずそっと、その染まった耳に指先で触れた。ひくりと水心子の体が跳ねる。そして思った通りとても熱かった。抱きすくめるようにその体に腕を回し、耳の先に唇でも触れる。
 周りが洗濯物で囲われているからだろうか、水心子が息を詰めて粗くなる呼吸を落ち着けようとしているのがよく聞こえた。
……っ 仕事中だ」
 力が抜けそうな声でそれだけ言うと、水心子は力の入らない手で体に巻き付いた腕をはがしにかかる。まるで戯れのようだが本人は本気だろう。離してやる代わりに、抱きしめたときに迫り上がった内番装束の上着の裾を引いて整えてやる。その手に水心子の手が重なる。もっと、とねだるような動きだが、本人としては静止しているつもりなのだ。
 ここまでされているのだから、これ以上からかうのはやめてやらねばなるまい。後の彼のためにも、後の自分のためにも。そう思って手を離して完全に彼を開放してやる。
 しかし水心子はその場を後にするかと思いきや、くるりと反転し、ぐいと顔を上げた。ぱちりと目が合う。
「い、嫌だとか、そういうことではない……! 時と場所をわきまえろと言ってるだけだからな……!」
 絞り出すようにそれだけ言って、水心子は今度こそ逃げるようにその場を後にした。
 三度、四度と水心子の言葉が脳裏にひびく。その言葉の意味するところを五度目にしてようやく理解し、口元が緩むのを止められなかった。
 さすがに今のままでは親しい者に訝しげな視線を向けられそうで、朝尊はしばらく洗濯部屋の奥から動けなかった。