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氷酒
2024-05-12 18:34:33
2222文字
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相思草
ロトあだ組SS。正確も手癖もわるい男の話/ロトカ・ヴォルテラの愛堕討ち現行未通過×
待ち人が居る筈の部屋の襖を開けた途端、嗅ぎ慣れぬ香りが鼻をついた。
「なんだぃお前、暇持て余して吸ってたのかい」
「
……
はぁ?」
座敷で胡座をかいて座っていた人物、山田烈火は当然、胡乱な声を上げてくる。その様子に自らの着物の端をつまみ、思い切り顔を顰めてみせた。
「匂い、服に付いてんだよ。煙草臭いったらありゃしない」
彼女が時折煙草を嗜むことは知っている。喋ることが生業である穏親は到底理解できないことではあるが、業界上、存外喫煙者は多い。強要されなければ別にどうこう言うつもりはなかったが、今日ばかりは話が違った。
「全く、少しはしおらしく部屋で待つことも出来ないのかィ。落ち着きってもんがないねぇ」
「お前なぁ
……
待ち合わせ時間に遅刻して散々待たせて、まず先に言ってくるのが文句かよ。待ってくれてありがとう心優しい烈火サマ、って言うのがスジってもんじゃないのか」
「はいはいどうもお待たせしましたね。寄席終わりに出待ちしやがった記者に捕まってたんだよ。連絡を入れただろうが」
「私はカンダイだからな。連絡を貰ったから文句も言わずに待ってやったんだろ」
ふんと胸を張る烈火を適当にいなし、穏親は息を吐いて座敷へと上がり込む。今夜は此処で二人で久方振りに食事をとる約束をしていたのだ。
成り行き(というにはやや複雑すぎるが)で付き合う形に成った二人ではあるが、それほど頻繁に会う事はなかった。いくら治安が悪い土地柄とはいえ、一般人である落語家と極道者が連れ立って歩くのは人目に付きすぎる。さらにはお互いがなにかと忙しい身ということもあり、連絡は一応でとりつつ、時折訳知りの馴染みの店を選び顔を合わせるくらいだった。
「で? その寛大な心とやらで煙草臭ぇ面をアタシに見せてくれたわけだ」
烈火と机を挟んで向かい合う場所に座りながら、穏親はぎろりと彼女を睨む。対する烈火は訳が分からない、と言った表情で、そんな間抜けた面がさらに穏親の不機嫌を加速させる。
「なんだよ煙草くらい今更。今までだって吸ってただろ」
「そうだねぇ。アタシにゃ美味いって感覚がさっぱり分からないが、止めたことはなかったね」
「じゃあなんでいきなり
――
」
「誰とだい?」
「は? 何のこと言ってんだ」
きょとんと見上げた顔に身に覚えどころか自覚がないのか、と穏親は溜息をつく。いや、きっと、彼女にとってそれはごく普通の、当たり前のことであるのだろう。それが尚更、穏親の神経を逆撫でする。
「
……
銘柄、いつもと違うだろ。大方居合わせた客の誰かか、店のボンクラだろうが。系統が違うし、最近変えたとは思えねェ」
「あ、ちょうど切らしてたとこに知り合いがいて一本
……
。って、お前」
「なんだよ」
「私の煙草の匂いなんて覚えてんのか」
驚いたような質問にはふいと顔を逸らす。
「覚えるも何も、違うってことくらい莫迦でも気付くだろう」
「自分は吸わないくせに。そーかそーか
……
」
ふふんと意地の悪い笑い声が上がる。
穏親は思わず舌打ちした。これだから、直ぐに図に乗る小娘は。
「ぴいぴいと煩い餓鬼だね。そうだよ、間抜けた面して何勝手にテメェが知らねぇ匂いつけてんだ、気に食わねェって言ってんだ」
「へーぇ、つまりあれだろ。ヤキモチってやつか」
にやにやと気色の悪い顔をしながら烈火がこちらへ近づいてくる。今更、綺麗な面など拝み慣れているいるだろうに、鬱陶しい。
「どんな顔してるんだ? 見せて見ろ」
「どんなでも構わないだろうが。あっちに言ってろ」
しっしと手で払う仕草をするも、烈火はますますこちらに近づいてくる。
ふわりと、一度離れたことによって気にならなかった匂いが再び鼻孔を掠める。
どうにも腹立たしい。
慣れない匂いを平気で漬けてくる自分も、知らない誰かと話していただろうことが容易に想像されることも、なによりそれを不快に思っている自分にも、なにもかも。
「おい
――
」
ならば、こちらにだって意趣返しの一つもしたくなるものだ。
「近づいたアンタが悪いんだよ」
おもむろに手を伸ばし顔を押さえる。通常の彼女であれば避けるのは容易だろうが、油断してる時なら話は別だ。そして自分は、これが気を抜く瞬間などよくわかる。
それくらい、見ていたのだから。
不意をつかれ驚いた表情の烈火に顔を近づけた。逃げようとする動作など気にしない。どうせ、抵抗されたら敵わないし、そうなれば怪我をするのは自分だ。それを、お互いによく分かっている。
だから強引に唇を重ねた。
舌先に独特の苦みが走る。それを掻き消すようにかき混ぜて、報復とばかりにそれ以上のものをくれてやる。
たっぷりと二呼吸分、堪能してから解放してやる。
「ひでぇ味だね。やっぱり煙草なんて碌なもんじゃねェ」
真っ赤になった烈火の怒声が飛ぶ前に、懐から鼈甲飴を取り出しておまけとばかりに開いた口へと押し込んだ。
もごもごと飴を舐める様がなんだかおかしくて、穏親は笑った。幾分か、胸の奥がすいた心地だった。
「
――
嗚呼、悦い気味だ」
―――――――――――――
店の中で突然キスをするな。このあときっとめちゃくちゃ怒られるのでしょう。
書きながらこいつ最悪ってずっと思ってました。
ヤキモチとも言えるんだけどヤキモチと認めない面倒臭いやつの面倒くさい仕返しの話。
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