kaede
2024-05-12 13:10:45
2124文字
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一彩くんが急に耳まで真っ赤になるので「???」ってなるニキのはなし

ニキひい
いままで知らなかったいろいろな感情が芽生えていく一彩くんをかくのがとても好き

 ほんの数秒前まで、僕がつくったドーナツを美味しい美味しいとにこにこ笑いながら食べていたから、そんなわけはない、だろう、と思いつつ。
「口に合わなかったっすかね」
 と尋ねると、弟さんは止まっていた時が再び動き出したかのように僕を見たけれど、すぐにまた俯いて時を止めてしまった。
 いや。
「美味しいよ、とても」
 さっきと同じ言葉を口にはしたから、止まってはいないようだけれど。でも、その声からはいつもの快活さが抜け落ちてしまっているというか、ただ目の前にある言葉を繰り返しただけというか、その。

 ……何で耳まで真っ赤になってんすかね……

 理由もわからないのに、見ている僕までなんだか恥ずかしい、というか居た堪れない気持ちになるのは、そんな彼をかわ
「あの、椎名さん」
「はい!?」
 急に顔を上げて僕を見つめる彼のそのタイミングは、まるで僕の心を見透かしているようで、ますます居た堪れない気持ちになる。
「ごめんね、急に挙動不審になってしまって」
 あっ、その自覚はあったんすね。少し、ほっとしました。
「いやぁ、構わないっすよ」
 構う構わない以前に、何が何だかさっぱりわからないですけど。
「とりあえず、僕のつくったものが悪さをしたわけじゃないことがわかって安心したっす」
「ごめんね! ドーナツは本当に、とても美味しいよ!」
「それじゃあ、何が気になった……って言っていいのかわからないっすけど、気になったんですかね。いや、言いたくないなら無理には聞かないっすけど。ドーナツに関しての意見とか要望だったら、何でも言ってほしいっすけど」
 決して居心地が良いとは言えなくなってしまったティータイムを、どうしたものか、とは思うけれど。
 できれば何かしらの説明をしてほしい、とは、思うけれど。
 だって君のそんな顔をずっと見ていたら、変な気持ちになってしまう。
 何せ君にはずっと隠してますけど、僕は君のことがす
「あのね、椎名さん」
「はい!?」
……どうかしたのかな?」
「なはは、びっくりしただけと言うか何と言うか……何すかね」
 誤魔化しつつ先を促す僕に、弟さんは何かしらの引っ掛かりはあったようだけれど気にしないことにしたようだった。
……あの、さっき僕に言ったよね。僕のこと、かわいい、って……
「言ってましたかね!?」
 言う(というか思う)前に君に遮られたんで、声には出してないと思うんすけど。
「言ったよ」
 弟さんがどことなく物悲しそうな顔をする。きっと、僕が覚えていないことにがっかりしたのだろう。
 慌てて、急いで、記憶をさかのぼる。パラパラとめくれていく弟さんの顔を俯瞰で眺めているうちに、あっ、と思い出した。
「確かに言ったっすね」
 にこにこと幸せそうにドーナツを頬張る弟さんがかわいくて、確かに、言った。
「気に障ったなら謝るっす。ごめんなさい」
 と謝罪しながら内心、首は傾げていた。今までにも何度か、というか何度も、弟さんに向けて「かわいい」という言葉を使ったことはあったはずだ。その時には特に気にしていないようだったのに、というか実の兄に散々言われまくっているのに、どうして今になって……? 
「ううん。あの、嫌とか、そういうのは全然ないんだ。ただ」
「ただ?」
「自分でもよくわからないんだけど、とても、その……恥ずかしい? そういう気持ちになってしまって……
 珍しく弱々しい声でそう言って、弟さんが視線をうろうろとさまよわせる。時折、縋るように僕へ視線を飛ばしながら。相変わらずどころか、ますます頬を苺みたいに美味しそうにして。

 えーっと……
 自惚れだって言われたら上手に反論できる気はしないですけど。

 もしかして君は、君も、僕のことをす

「兄さんに言われても嬉しいだけでちっとも気にならないのに、椎名さんに言われると、嬉しいのに落ち着かない気持ちになってしまうというか……こんなの変だよね」
「なはは……変というかそれって……
 変、の下の部分が、心、のやつじゃないっすかね……いや、僕の勘違いかもしれないっすけど。
 弟さんはとうとう、形容ではなく行動で、僕に縋る。
「もしかして椎名さんには心当たりがあるのかな? だったら教えてほしいよ!」
「えーっと……教えてもいいんですけど」
 僕の腕にしがみついて必死に僕を見つめる顔がどうしようもなくかわいくて、つい抱きしめてしまいそうになる。けど、そこまで気安く触れて良い関係でもないので、ぐっと耐える。
 今はまだ。
 これはチャンスなのかもしれないですけど。
 今はまだ。
「でも、僕は君に、自分で気づいてほしいっす」
 素直な君は、僕が言った言葉を鵜呑みにしてしまうかもしれないから。
 大丈夫。かわいい、と言われて頬を染められるようになったのだから、もう少しで気づけるはず。

 でも、あまりにも待たされて痺れを切らした僕が、君より先に答えを口にしてしまったら、その時はごめんなさい。

 一彩くん。僕は君のことを、君のお兄さんに負けないくらいにかわいいと思っていますし、そんな君のことが好きですよ。