まだ夜も明けきらぬ、早朝。
隊列を組むためにうごめく馬の息づかいや兵士達の足音を聞きながら、レオノーレは場違いなドレス姿で彼らを眺めていた。
ここがウゼロ公国であったらそんな彼女に奇異の目を向ける者はいないのだが、ここシヴィロ王国ではそうはいかない。兵士も騎士も気になって仕方ないらしい。堪えきれずに公女をちらりちらりと盗み見る視線をいくつも感じる。
気にしていないのはレオノーレの方だった。ふてぶてしく胸を張って立っており、辺りをうろつく男達など眼中にない。ところが、兵士達が隊列を整え始めた頃に現れた兄を見て彼女は弾けんばかりの笑顔になった。
「おはよう、ディルク!」
ドレスのひだの重みなど感じさせない軽やかさで彼に駆け寄ると、まさかレオノーレに出迎えられるとは思っていなかったディルクはぎょっと目を瞠った。
「こんなところで何をしてるんだ」
「やだ、出征前のお見送りよ」
「出征じゃないぞ、別に」
ディルクが向かうのはただの軍事訓練。それゆえディルクも周りの騎士達も、胸甲だけをつけるという軽装だ。知っていたが、こういう出立の場面では必ず見送りをするというのがレオノーレの中での決まりだった。
人は、いつ二度と会えなくなるか分からないもの。後日ゼートレーネで落ち合うと分かっていても、今日のお別れは全力でせねばならない。
「エイルリヒによろしくね。あなたの婚約者の顔を見たけど、あたし達いい姉妹になれそうだわって伝えておいて。それから、」
レオノーレはディルクの腕を捕まえ、思いっきり引き寄せる。よろめいた彼のほっぺにむちゅっと唇を押しつけ、突き飛ばされるようにして離れてはにっこりと笑った。
「一日早いけど、明日になればディルクの生まれ月よ。おめでとう」
「
……ありがとう」
ディルクは眉間にしわを寄せ、頬をぬぐいながら一応お礼を言ってくれる。おかしくてたまらない。
恒例の儀式が済んだのでレオノーレは満足した。隊列が動くというので大人しく城内へ戻り、物見櫓に登ってディルク達の出発を見送る。
「ユニカより先にお祝いのキスはまずかったかしらね。
……ま、いっか」
あとでユニカのほっぺにもちゅっとやりに行こう。これもある意味間接キスだ。隊列が見えなくなる前に踵を返し、今日の楽しみを見つけたレオノーレは足取り軽やかに朝食を食べに向かった。
読んだよ👏
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