「カミルもティアナも大好きだから、二人が結婚してずっとぼくと一緒にいてくれたらいいのに!」
と、クヴェン王子に言われ、ティアナと結婚する。
と、いう妄想をしてニヤニヤしたことは正直何度かある。が、それは妄想だけで終わった。
十七歳の年頃になったティアナにはとうとう結婚相手が決まり、もうすぐ侍官の職も離れてしまう。そして、その相手はぜんぜん自分ではなかった。
カミルは、貴族と言っても家柄は下の下だ。だから伯爵家の一人娘であるティアナと結ばれることが出来たら、それはトカゲが竜になるような大躍進といってもよかった。
けれども、家柄もよく頭もよいティアナにこれまでそういう話がなかった方がおかしい。ティアナが自分なんかに見向きもしないのも当たり前だし、伝説の土台になるような出来事はそうそう起こらないものである。
そんなことをぐるぐる考えながらお茶を注いでいたところ、カップの中の水位に目を配るのをすっかり忘れていた。
「ひょわぉっ!?」
溢れたお茶がテーブルから流れ落ちてズボンを濡らし、靴の中に熱々のそれが流れ込んでくるまで気づかない始末。
「大丈夫か?」
黙々と仕事に集中していた王太子もさすがに気が付き、立ち上がる。
「こぼしたのか。何をぼんやりしてたんだ」
「け、結構です殿下、お手が汚れます!」
「結構じゃない、いいから靴を脱げ。火傷するぞ」
ほかに人がいなかったから仕方がないが、あろうことか王太子本人が床に膝をついてこぼれたお茶を拭いてくれる。こんなことをさせたのがバレたらカミルはきっと死刑だ。
が、使用人のために膝をついてくれる王太子の優しいところが、カミルは単純にすきだ。
「殿下、あの、私はティアナの分までずっと、殿下にお仕えさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「うん? まぁ好きにしたらいいんじゃないのか」
その人事を決めるのは俺じゃないけど、とディルクが考えていたことは知らないので、カミルは少なからずその言葉に傷心を慰められたのだった。
読んだよ👏
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