絹糸を指に引っ掛け、針ですくい、それを繰り返していたユニカは不意に手を止めた。
スミレの花びらの形が崩れていないことを確認し、また糸をすくって穴に通していく。作っているレースはユニカの掌とほぼ同じ長さの長方形になりつつあった。
しばらく編んで、また手を止める。今度は糸を引っ掛けた左の人差し指と編み針を持つ右手を思い詰めた様子で見下ろすだけ。
その内深い溜め息が彼女の口から漏れ、ついには編みかけのレースが机の上に放り出されてしまった。
集中できない。
本当にこんなものを作る必要があるのか、スミレの花でいいのか、いらないと言われたらどうしようか。
雑念を振り払うように立ち上がったはいいがどこにも用事はない。気づいた騎士が「どうかしましたか」と言う代わりに首を傾げたが、ユニカは気づかなかったことにして書棚に用があったフリをした。
硝子の扉を開け、適当に王妃が買ってくれた百科事典を取り出す。ちょうどスミレの花について載っている巻を手に取っていたので、そのページを探した。
スミレはどこの庭園の日陰にもひっそりと小さな花を咲かせているからさして珍しくない花だ。改めて知りたいこともなかったが、王妃が買ってくれた百科事典は一つの項目に対してありとあらゆる雑学が書かれていることで有名だった。
スミレも例に漏れず、花の特徴や生育環境、薬としての利用法、色別に花言葉まで書いてある。
紫のスミレは「貞節」と「愛」、白いスミレは「無邪気な恋」。
それを読んだユニカは音を立てて事典を閉じ、頭をふりながら元の席へ戻った。
いや、関係ない。だって、これはディルクが自分の紋章に使っている花だから選んだだけだ。彼だってそれくらいのことは分かるはず。
だから別に、ユニカが彼の紋章にちなんだものを贈っても変ではない。
今は自分にそう言い聞かせ、レースを完成させるので精一杯だ。
読んだよ👏
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