時計の長針が半周するたびに唇がくっついてくる。相手の顔が視界を塞いですぐに離れていくのは、存外物足りない気持ちになるものだった。
もちろんそんなことを悟られるわけにはいかないので、ユニカはきゅっと眉根を寄せたままディルクの胸を押し返した。
「……やめて」
「今朝からみると、いよいよ説得力がないな」
「……」
今朝はあったというのか。愉快そうに目と鼻の先で笑っているディルクを見るととても信じられない。ユニカはむっつりしながらさらに力を込めてディルクを押しのける。
それで相手があっさりと引きさがっていくのもなんだか癪。また時計が針を進めたら、水を飲むような自然さで口づけてくるに決まっているのだから。
これが今日の彼の遊びらしい。ユニカが娯楽の本を読んでいる傍で、ディルクは難しそうな軍の報告書を読んでおり、定期的にユニカに触って休憩しないと集中力がもたないとか。
お陰でちっとも集中できないのはユニカの方だ。
ディルクが「定期的に」と定めた時計の針の動きが気になって仕方ない。針の先が天に近づいたり地に近づいたりするたびにそわそわしてくる。
嫌なら嫌で席を立ち部屋へ戻ればいいだけなのだが、買い与えてもらった本だけ持ち去るのは気が引けて、ディルクの遊びに付き合ってしまっていた。
ふう、と溜息をつきながら、目で追い終わったページをめくる。内容がちっとも頭に入ってこないので、あとで読み返すことになるだろう。
ユニカが新しい文字の行進に目を滑らせ始めた時、それを遮るように視界を腕が横切った。あっと思う間にごく優しい力でおとがいを持ち上げられ、目の前を薄い陰で覆われる。
二人の口を湿しているお茶の香りを感じたあと、唇を柔らかくついばまれる感触。
「……君の不意をつくのは楽しい」
そう呟いて、ディルクは目を瞠ったままのユニカにもう一度唇を押し付けてくる。
じわじわと頰が熱くなってくるのを感じながら、ユニカはさっきと同じようにディルクの身体を押しのけた。
「やめてったら」
「……」
ディルクは肩をすくめながらもにやりと笑うだけだ。そして何事もなかったように優雅に脚を組み直し、ひどく寛いだ表情で報告書を眺めるのに戻る。
ユニカに構いながらこなせるなど、なんて楽な仕事なのだ。
むすっと唇を引き結びながらも、ユニカはこっそりと置き時計を確かめた。
次は、今の口づけから半周?
そんなことが気になってしまったばかりに、ユニカの読書は遅々として進まないのだった
20180524
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