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暁子
2018-04-29 02:34:32
1828文字
Public
ユニカSS
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甘えん坊ディルクさん
ユニカがおずおずと毛布の中に入り込んでくるのを、ディルクはすぐにでも搔き抱いて引き寄せたくなるのをぐっと我慢した。
焦らなくても彼女はこのあとひと晩傍にいてくれる。
けれどユニカがディルクから拳三つ分ほどの距離を空けて身体を落ち着けたので、さすがに腕を伸ばさざるを得なくなった。ぴったりくっついてくれないと意味がないではないか。
自分からも身体を寄せると、ユニカは困惑と照れをあらわにディルクから顔を背ける。しかしそれ以上の反応はなく、ディルクが彼女の耳元に鼻を擦り寄せても抵抗はなかった。
薔薇のように甘くもあり、麝香のように官能的でもあるユニカの香りを、彼女の体温とともに吸い込む。するとこれまで怠さに伴ってくるだけだった不快な眠気とは別な、実に穏やかな睡魔が脳の端を撫で始めた。
「こんなにくっついていて、眠れるの」
「すごくよく眠れそうだよ」
嘘ではなかった。ユニカの力を借りた睡魔の手つきは実に巧みで、ディルクはその慰撫に身を任せる。
すぐに思考がとろけだしたが、わずかにユニカが身じろいだので、霧散しかけていた意識がもう少しの間だけ形を留めた。
ディルクは実にいい気分だったが、ユニカは違うらしい。単純に寝づらいのだろう。よい姿勢を探しているようだったので少しだけ腕を緩め──しかし彼女が離れすぎないように腕の檻は解かないままユニカが落ち着くのを待つ。
「怒らないで欲しいんだが」
「なに?」
「君が天槍の娘でよかった。病気になっても、気にせず甘えられる」
大人しくなったユニカの髪に再び鼻を擦り寄せて言うと、ユニカは黙ってしまう。
やっぱりこういう言い方はよくなかったかな
……
そうは思いながらも、現に今、ディルクが心から安らいでいるのは本当なのだから仕方ない。
風邪ぐらい、とディルクが考えても、王族という立場上周りには大騒ぎをされるし、感冒と診断されたからには王に感染するのを防ぐため隔離される。
大勢の手を煩わせているという自覚もあれば妙な孤独を感じもするのだ。
こんなに気分が鬱いでいては余計に治りが悪くなるというもの。
その点、ユニカはディルクの気鬱をいるだけで慰められる。そしてそれができるのは、彼女が病を恐れる必要のない身体の持ち主だからだ。
世に大仰に取り沙汰されるユニカの力は、確かに偉大だった。なんといっても、二日ぶりの心地よい眠りをディルクに与えてくれようとしているのだから。
それがどれくらい幸福なことか、あの短い言葉ではユニカに伝わらなかったらしい。
むっつりと黙っているふうだった彼女は、再び消えてしまいそうになっていたディルクの意識を引き止めた。
「病気になんかならないで。私の血は
……
あなたのことを治せない」
「
……
治してもらえなくても大丈夫。こうやってそばにいてくれれば、治るさ」
「
……
」
またもや黙ってしまうユニカを、いつものディルクなら言葉を尽くして口説けただろう。
けれど今はとっても眠い。幸せなことに。
今夜ぐっすりねむれたら、明日の朝には熱も下がっているだろうな。仕事に戻れるのはいいにしても、今日のようにユニカを一日中侍らせておくことはできなくなる。
もう一日安静に、という診断をしてもらえないだろうか
……
。
そんな小狡いことを考えながらゆるやかに眠りへと沈んでいったので、ディルクはユニカの次の言葉を聞くことができなかった。
「いるだけで治るなら、いくらでもいるけれど
……
でも、」
でも、心配にはなるのだから、ディルクが息災でいてくれるに越したことはない。
そう続くはずだった言葉は一度ユニカの口の中でつっかえ、次いで聞こえてきた寝息に押しとどめられて、とうとう声にはならなかった。
ユニカは所在なく天蓋を見上げていた視線を巡らせ、目と鼻の先でディルクの瞼が閉じていることを確かめる。
もう眠ってしまったのか。
安堵と物足りなさを同時に味わいつつ、たった一つの燭火に照らされたディルクのほおを撫でてみた。
ほんのりと熱い肌は彼がまだ快復していないことを教えてくれた。添い寝などねだってくるからもう元気なのではないかと〝心配〟したが、そうでもなかったらしい。
ユニカの血はディルクに恩恵を与えないが、ユニカには、こうしてディルクに寄り添う力を与えてくれる。
自分で自分にかけた呪いの一部がまたほどけていくのを感じながら、その夜、ユニカはいつまでもディルクの寝息を聞いていた。
1779字
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