彼女が出来た、という話はわざわざ周りにしていない。
入社当初は同僚からも先輩からも彼女はいるのか、どんな女性と付き合ったことがあるか、飲み会の度にそれはしつこく聞かれたものだ。
けれども自分はことごとくそういう話題を無視してきたし、そういう話題をふっかけられる後輩が毎年入社してくるのであまり尋ねられなくなった。聞いてもコイツはどうせ答えてくれないよ、という認識も皆に共有されており実に楽。
だったのだが、今日は久しぶりに「彼女はいますか」と尋ねられた。
この春、同じ部署に配属されてきた女性にである。少し前に同じ作業チームになったので、ほかのメンバーも交えて、あるいは二人で、仕事の打ち合わせをすることが何度かあった。今日もそういう流れで彼女と話をしたあと、ミーティングルームを出るところで呼び止められた。
問いかけは「彼女はいますか」だったけれど、あの人が何を言いたかったのかは分かる。もう少し自分が鈍ければ、「いますよ」と答えて妙な罪悪感など覚えずに済んだのに。
そうでなくても「いますよ」と言うだけでよかった。訊かれたことに答えるだけでよかったのだ。
クリスティアンの答えに相手は凍り付いた。だから咄嗟に謝ってしまった、すみません、と。それは彼女が勇気を出して声にしようとしていた想いを先んじて潰す言葉になっただろう。
彼女は泣きそうな顔で笑い、「そうですよね」と言って先にオフィスへ駆け戻っていった。
今後自分に出来ることは、これまで通りに一緒に仕事をすることくらいだ。悪いと思っても、自分が追いかけるべき相手は彼女ではない。
時計を見ると七時半を過ぎようとしていた。そろそろ一緒に暮らしている恋人もアルバイト先から帰って来るころだ。
考え事をしながら作っていたせいでやたらと品数が多くなった夕食のテーブルを見渡し、早くエリュゼの顔が見たいなと思った。
自分が手を繋いでいたいと思える相手は、エリュゼだけだと再確認するために。
読んだよ👏
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