寒いなあと思いながら布団に潜って早二時間。
この寒さはとってもまずい。分かっているもののどんどん動くのが億劫になってきたし、そのうち外も暗くなってきて、カーテンを閉めなくてはと考え始めたのもずいぶん前。
震えるだけでガラス戸の外にある夕空を見ていたエリュゼは、玄関の鍵が開けられる金属質な音を聞いた。
おや、いつもより少し早い。
時計を確かめてから気力を振り絞って起き上がったが、ふわふわしてまた枕に沈んでしまいそうだ。
すぐに居間兼キッチンの灯りがつき、ついでうんと控えめにドアをノックされる。そしてエリュゼが返事をする前に、そぉっと居間の光がエリュゼの部屋に差し込んできた。
「起こしましたか?」
始め、ドアの隙間から遠慮がちに中を覗き込んできたクリスティアンだったが、恋人がベッドの上でぼんやりしていることに気づくやそろりと部屋へ入ってきた。
「いえ、起きてたんです
……。もしかして、仕事」
エリュゼが気になっていたカーテンを閉めてくれるクリスティアンは、本来ならちょうど今頃会社を出てくるはずだった。きっと、エリュゼが送った「ちょっと熱っぽいので夕食は自分の分を調達してきてください」というメッセージを見て早退して来てくれたのだろう。
「ちゃんと片付けてきたので大丈夫ですよ。それより熱は? どうです?」
彼は止める間もなくベッドの縁に座り、大きな掌をエリュゼの額に押しつけてきた。後頭にも手を添えられたのは彼の手から逃れないようにと予防線を張られたからだろう。
「熱いですね
……ちゃんと計りましたか?」
「い、いえ
……」
エリュゼの返答に不満そうな顔をしながら、クリスティアンは彼女に布団を掛けて腰を上げた。
布団を被っても寒い。今熱など計ったら大惨事だ。
案の定、クリスティアンが持ってきた体温計は三十八度越えの現実をエリュゼに突きつけてくれた。そんな数字を見たら余計に具合が悪くなった気がする。
いっそうぐったりするエリュゼの傍ら、クリスティアンは冷静だった。
「病院に行きましょう」
そう言って体温計をしまい立ち上がる彼の袖を、エリュゼは慌てて掴んだ。
「明日になってからで大丈夫です
……! これぐらいで救急にいくのは迷惑ですしもとはといえばわたしの体調管理が、」
「エリュゼ
……病気の時くらい頑張らないでください」
掴んだ袖を放された、と思ったら、その手はゆっくりとエリュゼの視界を覆った。
急に目の前を塞いだ温かい闇。ほうっと身体の力が抜ける。
「明日、必ずいきますから
……」
そのまま思考を閉じ込められてしまいそうだったが、エリュゼはそのぬくもりに抗い慌てて取り繕った。
すると降ってくる優しい溜め息。
「まったく、あなたは頑固で仕方ないですね」
そして掌は離れていった。薄暗い部屋の中に浮かんでいるクリスティアンの笑みは心底呆れているようだったが、それ以上強いてくる気配はない。
「それじゃあ明日、連れて行きますからね」
「いえ、クリスは仕事に、」
「いやです」
い、いやって
……。
子どものような主張にエリュゼが絶句すると、彼はおもむろに身を屈めてきた。
そうして前髪の上に触れるかどうかのキスを落としてくる。
「
……うつりますよ」
「うつしたほうが早く治ると聞いたこともありますけど」
「そんな迷信
……」
「ですね、二人そろって倒れたら大変だし、我慢しておきましょう」
我慢、とは
……。
エリュゼは返せる言葉が再び見つからず押し黙る。
「何か食べましょうね。すぐに作りますから」
「すみません、わたしが当番だったのに」
「謝らない。お世話させてください」
立ち上がったクリスティアンは心なしか嬉しそうで、妙に恥ずかしくなったエリュゼは布団を引き上げ、くぐもった声で頷くことしか出来なかった。
読んだよ👏
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