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shirajira
2024-05-11 19:17:07
5904文字
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後日、そこにはパンを山ほど食べさせられるドゥリーヨダナの姿が
2024.5.11ビマヨダワンドロにて。お題「失恋」「告白」で、失恋したと思ったから告白したヨダナのビマヨダ。
「お前のこと、好きだったぞ」
掠れた声で男がそう言ったものだから、ビーマは思わずナーガの頭蓋を旗槍で潰しながら「あ?」と返した。
「何だ、動揺もせんか。つまらんな」
「お前こそ、こんな時につまらねえ冗談言うんじゃねえ」
「
……
冗談。冗談か」
背中合わせになった男の体がふらつく。レイシフト中、マスターとはぐれた上に敵に囲まれ、パスも切れかかっているという三竦み。燃費の悪いバーサーカーであるドゥリーヨダナは後先考えずに宝具を打ちまくった結果、魔力切れを起こし退去しかかっている。
ビーマは舌打ちした。ドゥリーヨダナが宝具を何度か打ったにも関わらず、敵は増える一方だ。ナーガにワイバーン、それからシャドウサーヴァント。
自然発生しているとは思えない。ここには何かがある。何か
――
聖杯。或いはそれに準ずる、特異点の発生原因。
敵を延々と増やしているそれが、どこにあるかさえわかれば、ビーマの宝具で一点突破することもできるだろう。だがそれを探るには、敵が多すぎる。
「ドゥリーヨダナ、お前、もう一回宝具を打つことはできるか」
「冗談ではない」
「
……
そうかよ。なら他の手段を」
「違う、宝具を打てないという話ではない。お前はわし様の言葉をつまらない冗談と言ったが、わし様は冗談のつもりではない」
ビーマは思わず、肩越しにドゥリーヨダナを見た。敵を見据えている瞳はこちらには向けられず、ただ風に揺れる耳飾りと藤色の髪、大きく上下する肩
――
そしてほどけつつある霊基の粒子が見えるだけだ。
「
……
冗談じゃねえなら、何故今それを言う」
「最後だからだ。わし様とお前が同じ陣営。今後幾度となく召喚され、相まみえることがあったとしても
――
こんなことは二度とないだろう」
だから、ちょっとくらい正直になってみたくなった。
そう囁いた声は夜風のような優しさで、ビーマの鼓膜を揺らした。思わず目を細めたビーマは、続くドゥリーヨダナの言葉に、口をぽかんと開ける羽目になった。
「それに、一方的に失恋した心を抱えて座に帰りたくなかったからな」
「は?」
「ビーマよ、盾の娘と幸せになれ
……
なんて言ってやらーん! お前なんてこっぴどくフラれてしまえばいいのだ! 不純異性交遊を頼光に咎められて医療室行きになれ! 角に小指をぶつけろ! 種無しみかんで種ありを引け!
……
マスターには、よろしく言っておいてくれ」
背中に感じた熱が離れて、思わずビーマは体ごとドゥリーヨダナの方を振り向いた。ドゥリーヨダナが棍棒を地面に打ち付ける。ほどけかけの霊基から、爆発的な魔力が解放される。
宝具の解放。
「此処にあるは我らが勝利。百の王子が集いて地を駆け吠える。蹂躙せよ、我が最強の軍団よ!」
馬の嘶く声と百の戦士の上げる雄叫びが、敵を蹂躙する。
「一から生まれし百王子!!」
刹那、ビーマはある一点に目を向けた。
ここだ。
「我は風神の子、剛力無双を示すもの! 嵐の力よ、集いて我が手に!! 吹き飛べぇっ!!」
ただ一点に向けて魔力を放出する。槍の穂先が固いものにぶつかる感覚。更に力を込める。
「風神の子、此処に在り!!」
パリン、と音がすると共に、空気が抜けるような弱々しい悲鳴が響いた。手を伸ばして、掴む。
瞬きした次の瞬間、ビーマの手の中には聖杯があった。先程まで敵に囲まれていたとは思えないほどの、静寂と共に。
これで特異点は解消される。あとはマスターと合流するだけだ。思いながら、ビーマは振り返った。
そこにドゥリーヨダナの姿はなかった。ただ名残のように、かつて霊基を構成していたであろう金の粒子が、風に吹かれて消えていった。
カルデアにいる。そう認識した途端、ドゥリーヨダナは口をポカンと開けた。背中に嫌な汗がだらだら流れるのを感じながら、脳が目まぐるしく回転を始める。
そういえば、レイシフト先で退去に追い込まれるようなことがあっても、通常の聖杯戦争と違ってカルデアに帰還するだけだとかなんとか。そんなような話だった気がする。
すると、何か。てっきり座に還るばかりだと思ってあんなことをビーマに言ったというのは
……
。
「ドゥリーヨダナ!」
恥の一文字を思い浮かべて顔を真っ赤にして唸っていたドゥリーヨダナは、悲鳴のような声に顔を上げた。見ればマスターが駆け寄ってくる。
「よかったっ、よかった~! こっちに帰ってきてくれて!」
「あっこら、鼻水をわし様につけるな!」
ずびずびと鼻を啜りながら、ごめんね、とマスターが呟いた。仕方なくその背をぽんぽん叩いてやる。
「
……
聖杯は、回収したのか? わかっておるだろうなマスター。わし様めーっちゃ活躍したのだ。決してサボりで先に帰ったわけではないぞ」
「うん。ビーマがドゥリーヨダナのお陰だって
……
」
ビーマ。その名を聞いてドゥリーヨダナは動きを止めた。そうだ、ビーマだ。
マスターが帰ってきたということは、ビーマも帰還しているはずだ。
「あーっいたたたたた! マスター! わし様ちょっと特異点での傷が痛むかもしれん!」
「えっ大丈夫!? 令呪使う!? それとも医療室!?」
慌てた様子で片手を掲げたマスターを、制止する。仮病がバレても気まずいので。
「いや、わし様は最強つよつよサーヴァントなので唾つけて寝てれば治る! というわけでマスター、わし様はしばらく休養を取るから
――
」
「なら俺が部屋まで運んでやるよ」
風が頬を撫でるのを感じた。次の瞬間にはもう、肩を捕まれている。ドゥリーヨダナは思わず叫んだ。
「ゲーッ! ビーーーーマではないか! マスター見ろ! わし様今、暴行を受けておる! 接触禁止令を出せ!」
「何が暴行だ、それだけ元気なら大丈夫そうだな。
……
悪いなマスター、ちょっとこいつ借りるわ」
肩から手が離れた。と思ったら、腰に手が回り、あれよあれよと地から足が浮き視界が回る。ビーマに担がれたドゥリーヨダナを、マスターが困惑の目で見ている。
「えっと
……
喧嘩はしないでね?」
「しないぜ!」
「マスター! こいつの言うことを信じるな! こいつはなあ、最初はその気はなかったが気が変わったとか言い出すに決まってイ゛ッ!?」
最後まで口にすることは叶わなかった。マスターの姿があっという間に見えなくなる。
「走るなら先にそう言え! 舌を噛んだぞ!」
ベッドの上に投げ出され、ドゥリーヨダナはまずそう文句を言い、次いで違和感に眉を寄せた。
シーツの触り心地も、ベッドの狭さも、何もかも慣れ親しんだものとは違う。
「おい、どこだここは」
「俺の部屋だが」
「はあ!? 何でお前の部屋!? ここは普通わし様の部屋だろ!」
マスターにもそう言っていたはずだ。部屋に運ぶと。
……
どの部屋に、とは言っていなかったが。
「お前の部屋の入室コードを俺は持ってねえし、それに確認したいことがある」
隣に腰かけてきたビーマに、思わず身を引くと、ぐい、と身を寄せられた。また身を引く。身を寄せられる。引く。寄せられる。
「な、何だ!? わし様をどうしたいのだ!?」
とうとうベッドボードまで追い詰められてドゥリーヨダナが震えていると、ビーマが顔をしかめた。
「それはこっちの台詞だ。お前はどうしたいんだ」
「は?」
「
……
冗談じゃ、ねえんだろ」
じっとこちらを見る目に、ドゥリーヨダナは自分が特異点でうっかり恥をかいたことを思い出し
――
取り出した棍棒で勢いよくビーマをぶん殴って逃走しようとした結果、失敗して棍棒を奪われた挙げ句、ベッドに押さえつけられた。
「離せ!!」
「お前が暴れるのやめたらな。
……
その様子じゃ、マジで冗談じゃなかったんだな」
静かな声に、心臓を鷲掴みにされたような気分になる。
だって、一方的に言うだけ言って逃げるつもりだったのだ。相手からの反応なんてほしくなかった。
十割負けると決まっている、賭けですらない賭けの結果なんて、知りたくもない。
こちらを見下ろす目は穏やかだった。涼しい顔をしやがってと、憎らしく思う。ただ、嫌悪や軽蔑の色が浮かんでいないことには、心の隅でほっとした。
「失恋した、と言ったな、お前は。悪いが俺に心当たりはない」
いけしゃあしゃあと述べる口を、つねってやろうかと思う。取り押さえられているから無理だけど。その分、自由な口で反撃する。
「ほぉ~? しらばっくれるか。ん? まさか隠れて付き合ってるのか? ほうほう、マスターには知られたくないと」
「
……
さっきから、お前は何の話をしてる」「何って、盾の娘だ。付き合ってるんだろ? 知ってるんだぞ。将来の話までしていたではないか」
声が掠れた。本人の口から直接そうだと言われるのが嫌で、無意識に目を逸らす。
ビーマとマシュが最近やけに一緒にいるなとドゥリーヨダナが気付いたのは、ここ最近のことだった。よく二人で話しているなと思えば、食事を共にしたり、厨房で何かしている。二人で何かを広げてああだこうだと話していることもあった。
マスターのために何かしているのだろうかとも思ったが、であればビーマだけがマシュと共にいるのもおかしな話である。料理のことなら厨房の他のサーヴァントに声がかかってもおかしくはない。その素振りはなかった。
仲睦まじい様子の二人を、ドゥリーヨダナは何気ない素振りで食堂を通りかかっては、遠目に眺めた。マシュはドラウパディーとは大分タイプの違う少女であったが、彼女を見るビーマの目は優しかった。
「俺は大きな窯が欲しいなあ」
「いいですね! スペースが気になるところですが
……
」
「つっても、広けりゃいいってもんじゃねえだろ? 狭すぎるのは論外だが、多少厨房にスペースを多く割いたって、そう困りゃしねえだろう」
将来の話
――
おそらく新居の話だろう
――
までしているのが聞こえて、ドゥリーヨダナは確信した。
二人は付き合っているのだ。
元々叶う望みのない欲だ。だから失恋と呼ぶのもおかしいのかもしれない。生前、とうに失っていたはずの、憧れに似た欲。
側にいてほしい。自分の物になってほしい。自分を選んで欲しい。もし叶ったらきっと、それは、すごく。
まあ、生前も、今も、叶わなかったのだけど。
胸の痛みは煩わしくて、ビーマを見る度にじくじくと痛んだ。寄り添う二人はどこまでも正しく見えた。
元より、我が儘を言うなり金を積むなりしてどうにかなるものでもないから、ドゥリーヨダナにできることはなかった。ビーマの視界に自分はまともに映ってすらいないのだろうと、そう思った。
だからこそ、腹いせのように、退去に任せて少しくらいは傷跡を残してやろうと思ったのに。
此度の現界は通常のものと違うと、教えられていたはずなのに、失念した。努めて冷静なつもりだったが、少なからず自分は動転していたのだろう。
ドゥリーヨダナが冷静に自分の内面を見つめていると
――
現実逃避ともいう
――
ビーマがゆっくりと瞬きをした。
「お前が何を見聞きしてそんなことを思ったかは知らねえが
――
俺は今回の現界で付き合うだとか何だとか、そういう仲になったやつはいねえぞ」
「まーだしらばっくれるか! ええい、別にマスターにチクったりはせんぞ? お前の弱みを握ったことは確かだが」
「ないものを勝手に握ろうとするんじゃねえ。
……
あー、マシュだろ? もしかしてあれか? 俺たちが最近よく話してるからか?」
マシュ。親しげな響きに、無意識にドゥリーヨダナが唇を噛んでいると、ビーマが呆れた声で言った。
「俺とあいつは言わば同門だ。弟子同士で話すことはおかしくねえだろ」
「は? 同門?」
「おう。ベーカリーにパンの焼き方を習ってんだ」
「は?」
「ナンやチャパティなら俺の方が分があるとは思うんだが、それ以外はな
……
経験も発想も向こうの方が上だ。勉強になる。マシュも初心者だが勉強熱心でよ、話が弾むんだこれが」
「はあ?」
何でも、とある特異点でマスターが好きな人とパン屋さんをやるのが夢だと、そんなことを言ったらしい。
それ以来、先輩を手助けするのが後輩の勤めだと、マシュは密かにパンの作り方を身に付けようとしているそうだ。もしいつか、日常に戻ったマスターが夢を叶える際に、手助けができるように。
ベーカリーに弟子入りを志願しているマシュを見て、なら俺もとビーマも手を上げた。そうして二人は同門となり、日夜研鑽を高めていたのだった
――
。
「つまり、何だ。わし様はお前たちが窯が欲しいだのスペースがあるかだの話しているのを聞いて、二人で暮らす新居の話でもしてるのだと思ったが」
「パン屋をやるならこういう店構えにしてえって話だな、それ」
「
……
お前たちが最近やけに距離が近いのを見て、付き合っているのだと思っていたが」
「ただ話してるだけで付き合ってるわけねえだろ。失恋したってのは、全部お前の勘違いだ」
ドゥリーヨダナは沈黙した。
そもそもビーマがマシュと付き合っていると思ったのが勘違いで。更に座に還るから暴露してもいいかと思ったのが勘違いで。今こうして、その勘違いを当のビーマに暴かれているわけで。
何重にも恥をかいた。自覚した途端に顔が赤くなり、臓腑がギュッと縮んだような心地がする。ビーマの視線を感じた。
「お前、言うだけ言って消えるつもりだったろ」
「
……
うるさい」
返した声は惨めさで震えた。呆れたようなため息が落ちてきて、肩が震える。おい、と声を掛けられた。
「もう一回、言ってみろ」
「は?」
「俺のことが好き、ってやつ。お前がもう一度、逃げずにちゃんと俺に向き合って告白するのなら
――
俺だって、無下にはしねえよ」
「
……
ビーマ」
真っ直ぐにこちらを見下ろす、玻璃のような美しく澄んだ瞳を見つめ返し
――
ドゥリーヨダナはキレた。
「嫌に決まっとるだろバーーーカ! 何が無下にはしない、だ! 調子に乗りおって!」
ビーマの胯間辺りに膝を勢いよくぶつける。さすがに痛かったのか、呻いたビーマの力が緩んだ隙に、突き飛ばして逃げ出す。
「ドゥリーヨダナ、てめえ!」
怒鳴り声を背に、扉を蹴破るようにして廊下に飛び出す。後を追うようにして掛けられた、「逃げられると思ってるんじゃねえぞ! こっちはもう覚悟決めてんだよ! 今更逃がさねえからな!」という声は、怖かったから聞かなかったことにした。
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