今となっては昔の話だが、都に失せ物探しを生業としている男がいた。失せ物探しの男は自分に探せぬものはないと豪語しており、小さな物は縫い針から大きな物は盗まれた牛車まで確かに見つけ出すのであった。その評判は都の内に留まらず、逢坂や播磨の地にまで知れ渡っていた。如何にして見つけているのかと訊かれれば、男は「吾はただ問うているだけだ」と言うのみであった。
ある日、元服もまだであろう年頃の兄弟が男を訪ねて来た。兄の方が言うには、一昨年に父を殺した野党の行方を見つけて欲しいのだそうだ。まだ頑是ない幼子の弟は、黙ってじっと失せ物探しの男を見詰めていた。
男は断った。男が言うには、己の物探しの技は人には使えぬのだ。兄弟は食い下がった。ならば家宝を探してくれと言う。野党は、兄弟の家に伝わる宝物を盗って逃げた。それを探してもらえれば、野党に行き着く筈である。男はしぶしぶながら引き受けた。
失せ物探しの技は秘術中の秘術である。努努、儀式を覗いてはならない。男はそう言い残して見窄らしい小屋に籠った。
兄弟が戸を薄く開けて中を覗くと、薄闇の中で男は蹲っていた。目を凝らしてみれば、なにやら箱に覆い被さるようにして、何事かを語りかけているではないか。
見つかるはずがない、見つかって堪るものか。これは俺のものだ。俺の宝なのだ。それに、すべて始末した。子供の一人も逃してはいない。いなかった。ではあれはなんだ。何なのだ。
それを聞いた兄弟は勢いよく小屋の戸を開け放ち、男を指差して叫んだ。
みつけた、みつけた‼︎ その箱こそが我が家の家宝! おまえがととさまとを斬った‼︎ かかさまを絞めた‼︎ われらを殺めた‼︎ 見つけた! 見つけたぞ‼︎
男は飛び上がり、箱を投げ捨て、小屋の奥へと転がり逃げた。兄はなおも「みつけたみつけたぞ」と言い募る。
みつけた、おまえだ。
違う、いない。お前は違う。
おまえが殺めた、われらを殺めた。
しらぬ、知るものか。
言い争う兄と男をよそに、弟は箱をじっと見ていた。
打ち捨てられた箱は開いていた。箱の中身、それは男も知らぬものだった。なにせ今までどうしたところで開かなかったのだから。その箱が、開いていた。開いて、溢れ出ていた。黒い、黒い何か。
弟は、それに訊いた。
はこ様、みつけのはこ様、かかさまのかたきはだぁれ?
箱から溢れでたそれは、鳴いた。
——みぃつけた
男が姿を消して数日が経った。失せ物探しを求める貴族の使い達が男の根城一帯を探し回り、見窄らしい小屋を見つけた。
小屋の中には、首を食いちぎられた男の亡骸。
外では花に埋もれるように子どもらしき髑髏がふたつ、それに寄り添うように生き絶えた黒い獣が一匹、ただそれだけがあった。
—終—
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