奴田原 ミズキ
2024-05-09 08:21:48
1158文字
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I believe, even in the dark, 1.

ビマヨダ

※流血表現あり
※最終的にはハピエン
元ネタ
https://x.com/ythr904/status/1775514398674866343?s=46&t=DgiD6nWzqDNaD8BNqlC-Iw

⸺ああだめだ、霊核が悲鳴を上げている。
手足は歪に折れ曲がり、踏み抜かれた臓腑は潰れ、肺に肋骨が刺さって呼吸もままならない。
唯一動かすことの出来る視線をドゥリーヨダナは己を見下ろす男に向ける。嗚呼、その顔で殺されるのは2度目だ。
憎悪、怨嗟、憤怒。
およそ英雄の見せる表情ではないなと馬鹿にしようとしたが、ごぼりと溢れた鮮血が吹き出るだけだった。
これでいい。条件は満たした筈だ。
ビーマとマスター、そしてドゥリーヨダナの3人でのレイシフト。ドゥリーヨダナが逸れたマスターを見つけた時には、聖杯の持ち主である魔術師に捕らえられていた。
魔術師が提示したマスターの開放条件はふたつ。
『愛を紡いだ相手から自分の記憶を失わせる』こと。
『愛する相手に憎まれながら殺される』こと。
マスターは青褪めた顔でやめてと叫ぶ。
やっと、やっと通じ合えたのに。やっと幸せになれたのに!
「いいのだ、マスター。今はなによりもお前が優先だ」
「嫌、やだ、だって、それをしたら、ドゥリーヨダナはっ!!」
お前が涙を流してくれている。それだけで、十分だ。生きろ。俺のマスターよ」

嗚呼、すまない、マスター。供に居れぬ我が身を許せ。わし様が直接マスターを助けに行けないのは大変癪だがこいつが正気に戻ればきっと大丈夫だろう。所詮我々は人理の影法師。今を生きる人間を守り、先へ進める為なら、犠牲はやむを得ないだろう。それが他ならぬ自分だというのは納得いかないが。これはきっと正しいことだ。だからドゥリーヨダナは殺されるのだ。後悔はない。
ただ、強いてひとつだけ心残りがあるとすれば⸺もし、この男が奪われた記憶を取り戻したとしたら。はたしてビーマは怒るのだろうか。笑うのだろうか。
そういえば、今度は顔を踏まれなかったな。こいつなりに無意識で抵抗しているのだろうか。しっかり太腿は貫かれたが。
ゆらりと視界の隅で槍の先がきらり瞬く。迷い無くそれは心臓を捉え、ゆっくりと確かな力を持って体内へと埋め込まれていく。
「っ、ぐ、ごぼっ、あ゙、ぅ
僅かに残されていた血液がじわりじわりと染み出していく。痛い。なにもかもが痛い。
でもそれ以上に痛むところがあった。


やっと手に入れた幸福だった。
やっと手に入れた恋だった。
しあわせな、夢だった。
(けれど、結局は、おれたちは、こうなって、しまうのだ、な)

「び、ま」
あいした男の名を呼んだ。返事はなかった。
それがとても、悲しかった。
「あいし、て、る」
言祝いだあいは血に塗れほとんど声にならないまま、ぶつんとそこで意識が途切れた。

事切れた身体は粒子となり消え果てる。
残されたのは深紅に染まる血の海と、かつて、男が愛する者へと贈った蓮を模した耳飾りだけだった。