梶間
2024-05-08 19:38:32
1679文字
Public カブライ
 

敬愛と忠誠と

ソックスガーター、サイコー!服装だけ近世。ご都合が良い世界。どちらかと言えば多分タキシード着てる

「つっかれた……
「お疲れ様でした。後はしばらく会談はないので休憩できますよ」
「まだ全部終わらないのか……
「もうしばらくの辛抱ですよ」
「この服は窮屈すぎてもういやだ。これとってもいいかな」
そういって蝶ネクタイを指差すライオス。手先は割と器用な方なので蝶ネクタイの結び方も教えれば出来るのだが、なにせ興味関心が全くないので教えても頭に残らずすぐ忘れてしまう。そのため礼装の直しやいささかばかり複雑な蝶ネクタイを結んだりするのはすっかりカブルーの役目となっていた。
一度解いてしまったら自分では結べないので、ライオスはカブルーからの許可を待つ。
「いいですよ。はい、どうぞ」
「あー、首が涼しい。早く楽になりたい」
カブルーが蝶ネクタイを解くと、ライオスはウイングカラーのシャツのボタンを幾つか外して息を深く吐いた。
「着替えるのはまだ出来ませんが、足のマッサージくらいしましょうか」
「話し合いが夜までかかるとは……流石に脚が疲れたからお願いしようかな……
「では失礼して。お召し物をお取り替えいたしましょう、国王陛下」
わざとらしく畏まった言葉をかけると、ふ、とライオスが可笑げに口角を上げる。
ソファに腰掛けて脱力したライオスの足元に跪き、革靴を手に取る。正礼装に合わせた黒のレースアップはよく似合っていたが、サイズぴったりに作ったせいで夕方以降は浮腫んだ足には辛いらしい。足首に手を添えてそっと踵から外していく。側章のついたスラックスを膝あたりまで上げて、靴下の履き口を掴んだソックスガーターの金具に手をかける。
ちょうど、ソックスガーターと、靴下の間に。ライオスがかつてつけた傷痕があった。完全に治しきることは出来ず、勲章のように残った傷。
靴下を挟む金具を外した後、引きつれて薄くなった皮膚を辿りながら脹脛を締め付けているベルトを緩める。するり、と緩んだそれを、傷痕に触れるようにしながらそっと外した。
最後に今日のためにわざわざ注文した手編みの絹の靴下に手をかける。礼装もガーターも革靴も、全て窮屈で煩わしいと言うライオスが唯一気に入っている衣類だ。履き心地が良いとこれだけは喜んで身につける。
傷痕にわざと手が触れるようにして靴下の履き口に手をかけると、脚全体が一瞬、ぴくり、と震えた。
それに気が付かない振りをして、する、する、とゆっくり靴下を脱がしていく。絹製なので丁寧に扱わないと痛みやすいからだ。
剥き出しになった裸足を丁寧にフットレストに据え置く。
反対側の脚も同様にしてはだけさせた後、温めておいたタオルで拭き清めた。
浮腫んだ脹脛をマッサージしていると、ソファに沈んで静かになっていたライオスが頭を起こした。
「カブルー」
「なんですか」
「俺の気のせいだったら申し訳ないんだが、その、ちょっと触り方がアレじゃないか?」
「まさか、僕は丁寧に上司を慮っているだけですよ」
「そ、そうか。それは悪かった」
「あなたでも分かるなんて成長しましたね」
「う、うん?」
言外に、まさかいやらしく触っていることをあなたが分かるとは思いませんでしたが自分は丁寧に上司を慮っていることも嘘ではないだけですよ、とも込めて煙にまいているのだが、言葉通りにとるといやらしい触り方はしていません、となるのでライオスは少し混乱した。
「少し楽になりました?」
「ああ、ありがとう。いつも君には世話をかける」
「我らが陛下に敬愛と忠誠を誓った身ですから」
勘づいたならいいか、と最後に傷痕に口づけを落とすと、ライオスは顔を手で覆ってソファの背もたれに沈んでいった。
カブルーがライオスの脚の傷痕に口づけをするのは閨で頻繁に行う仕草だった。そういう意図はないって言ったのに完全にそうじゃないか、と蚊の鳴くような声が手の間から漏れ聞こえる。
今日の予定がすべて片付いたら後で褒美を貰おう。自分の仕込んだ罠にかかった獲物の味は格別だろうな、と内面では狩人の目をしながら。いっそ清らかささえ感じさせる顔でカブルーは微笑んだ。