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ななき
2024-04-02 22:16:49
3589文字
Public
吸死
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尋ね人
(ドラロナと言いはる)なんでも大丈夫な人向けです。
ド→ロ。ドちゃの悪ふざけ、微ホラー風味。ドの性格が悪い。
本物はどっちでしょうね、という話。趣味全振り。
悪ふざけだった。
新しいSNSアカウントをつくる。自分の持つ、どのアカウントとも関連付けはしない。アイコンは適当に探してきた猫のぬいぐるみの写真。名前は『探しています・連絡ください』。
『東京で助けてくれた人を探しています。二十代男性、背が高くてスポーツか格闘技でもやっていそうな雰囲気でした。日本語で会話しましたが、日本人離れした容姿の方だったので旅行者か留学生かもしれません』
全部真っ赤も真っ赤、食べ頃のトマトより真っ赤な嘘でできた人捜しのアカウント。尋ね人のモデルは同居人だ。
『どうしても会ってお礼が言いたい。知り合いの方、御本人、連絡ください。協力頂ける方は拡散お願いします』そう、投稿した。
しばらくすると、こういった騒ぎが好きな層にうまいこと見つけてもらえたらしく順調に数字が増え始める。
SNS上での尋ね人は誤情報や何らかのトラブルの可能性もあり、どんな名目でも拡散はお行儀のいい振る舞いではない。が、深く考えない人間というのはたくさんいるものだ。
トラブルの可能性を指摘するリツイートも、面白がってするリツイートも、拡散に変わりはないというのに。
情報は、小出し後出しといわれないよう注意しながら足していく。銀の短髪、青い瞳、恵まれた体躯、柔らかな声、日に焼けていない肌。下等吸血鬼から守ってくれたヒーロー。赤い服。
一度会っただけの相手という設定だ、これ以外の細部は適度に覚えていないことにしたほうが真実味がでるだろう。
一日も経てば問合わせもいくつか来はじめた。話の通じなさそうな相手は避けつつ、善良でかつ感謝の言葉に飢えていそうなアカウントへ返信していく。必ず、ありがとうとつけて。これで、喜んでまた拡散してくれる。
的外れ、くだらない、関係のない、そういった自称情報提供を嗤いながら眺める。底のみえない穴蔵を覗き込むような楽しさだった。
三日目には、当然の指摘が溢れはじめた。『退治人のロナルドじゃない?』
彼ではない。
私の尋ね人と彼には、私しか知らない決定的な違いがある。むしろ、その違いのために作り上げた尋ね人だ。でも、その違いをここで教える必要はない。だが、否定はしておかねば。
『その退治人さんのことは私も知っています。助けられた時、一瞬その方かと思ったのですが、違いました』
退治人ファンだという通りすがりのアカウントが、東京は活動範囲ではないこと、助けられた日にロナルドは新横浜の小学校に講習に行っていることなどを勝手に解説しはじめた。ありがとうございます、といいつつ舌を出す。
四日目。『あんな目立つの何人もいるかよ』というコメントに吹き出した。その通りだ、いるわけがない。私の尋ね人は、いるはずがないのだ。
可笑しくてしようがなくなって、ひとりでひとしきり笑った。笑って笑って、
……
なんだか、満足できてしまった。
そう、あるはずのない尋ねものだ。やっと、納得できた気がした。
アカウントも用済みだな。飽きられるタイミングを見計らって消そう。
五日目。構築したタイムラインにもそろそろ飽きと、アカウント主である私への不信が蔓延し始めている。
いくつも投げつけられる誹謗中傷と自称情報通の面倒な絡みをのらりくらりと交わして暇をつぶし、消えるタイミングを考える。だらだらと流していれば、ひときわ口汚く底意地の悪い返信がついた。丁度いい。理由になってもらおう。
しかし、アカウント削除の準備を始めたところに、もうひとつメッセージがあった。
『新宿でその日、よく似た人をみた。コスプレかと思ってた』
コスプレだよ、と呟きながら、やっと確かな情報をもらった体で公開返信する。よく行く場所だから見かけたら教えてくれるそうだ。
……
おかげで、削除のタイミングを逃してしまった。
予想外の反応が増え始めたのはその一件からだ。
どうも本当に、退治人ロナルドによく似た人間が東京を歩いているらしい。
『本物かと思った』『似ていた』『先週、見かけた』
話した、という人間まで出てきた。退治人ロナルドだと思って話しかけたというそのアカウント主は、コスプレではなかったと否定したうえで、また見かけたらこのアカウントに連絡するように伝えると約束してくれた。
『似てるとよく言われるって。いいひとだった』
あんな美しい男がこんな狭い範囲に何人も居るわけがない。しかし、本人のスケジュールはよく知っているし、ひとりで遠出も最近はしていないはずだ。ならば本当に存在するのだろうか。
寄せられる情報は、日に日に増えた。退治人ロナルドは人目を引くビジュアルをしている。それに似た誰かというのは興味を引く話題足り得たらしい。
……
『先月見た』『品川で見かけた』『バーで一杯飲んだ』『自分も助けてもらった』『目黒の喫煙所ですれ違った』
……
さすがに返信が追いつかなくなってきたが、情報の群れは気にする様子もなく流れていく。もう、元々尋ねていた私のアカウントの存在など忘れたかのように目撃情報が独り歩きして増殖していた。
……
『コンビニで見かけた』『駅前に立ってた』『追いかけたけど見失った』『新川崎で見た』『一回でいいからみてみたい』
……
……
『自販機でジュース買ってた』『池袋でみたかも』『声かけてみよっかな』『ひとりで歩いてたしもしかしてそうだったのか』『札幌でみたけどさすがに違うかな』
……
もう興味のない情報達を流しみていたが、ふとおかしなことに気づいた。遡ってみていく。やはり、おかしい。
目撃場所は人の多い街中ばかり。本当に退治人ロナルドに似ているなら否が応でも目立つはずだ。それなのに、同じ日の目撃情報に、同じ場所どころか場所が近い情報は一件もない。同日別日問わず二度見かけたという情報もない。
そして目撃情報を日ごとにならべると、この新横浜に近づいて来ているのだ。最新の日付では、もう三つ隣の街にいる。
ぞっと背中が冷えた。
偶然だ。全部偶然でしか有り得ないのだが。
「ドラルク」
後ろから話しかけられて、はっとした。咄嗟にスマホを伏せて振り返る。
「なんだ、早かったな」
退治人ロナルド。私の相棒。
いつ帰ってきたのか、全然わからなかった。
そうだ、夜食が出来ていない。リクエストはあるか、と言いかけた私は、不審げな視線に言葉を飲み込んだ。
「
……
お前、最近変だ。ぼんやりしてる時間が長すぎる」
「失礼だな。私だって物思いにふけることくらいあるさ」
キッチンに入ろうと立ち上がったが、歩き出すことはかなわなかった。腕を掴まれたのだ。
「放してくれないか」
「熱とか、あるんじゃないのか」
「ないよ。そんなものあったらまず死んでる」
力では敵いようがない。おとなしく青色をみつめていれば
「何かあるんなら、いえよ。聞くぐらいはできる」
その言葉で、ようやく腕が解放された。
「風呂、いってくる」
バスルームの扉が閉まる音まで聞いて、ようやく溜め息をひとつ。
掴まれていた腕が熱い。あの青色に溺れてしまいたい。普段は感じもしない心臓が痛い。
……
笑えばいい。私は、彼に恋をしているのだ。絶望的な恋を。
絶望的というのは、思い込みでもなんでもないただの事実である。恋を自覚したてのころ、浮かれて一度だけ、堪えられずに頬にキスをしたことがある。その時返ってきたのは、心からの困惑と、最大級の警戒。それから瞳を揺らしていたのは、間違いなく嫌悪だった。
刺さって抜けない銀の刃は、今も私に絶望を突きつけている。
作り上げた尋ね人と退治人ロナルドの、私しか知らない決定的な違いはここだ。私を、好いてくれるかどうか。あくまで尋ね人の設定なので、SNSには書かないし聞かれても答えない差違。
私を好いてくれるロナルド君などという、存在しないものを探してるなんて、大馬鹿者の悪ふざけとしかいいようがない。
伏せていたスマホを拾い上げる。
この遊びも、もうそろそろ止めなければ。気味悪くなってきたしな。
アカウントには、また、ふたつほどメッセージがきていた。開くのに躊躇する。予想が当たっていれば、今日にもシンヨコでの目撃情報が上がる。それを確かめるのが怖かった。
ひとつめのメッセージに、震える指で触れた瞬間。
バタンと、ドアが開いた。
「ただいまー。飯なに」
入ってきたのは、よく見知った姿。
「なにびっくりしてんだよ」
よく知った、声。
バスルームはいつの間にか、静まり返っている。
「ドラ公?」
青色に滲むのは、柔らかな好意。
……
私への。
ゆるりと一等好きな青色が笑む。
「俺のこと、探してたんだろう?」
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