ななき
2023-11-29 19:50:47
2347文字
Public 吸死
 

都々逸ドラロナ

都々逸をお題に書いたもの
そのうち修正・変更・追加すると思います(予定は未定)

 ◆酒でもいいけど牛乳で

「お前の塵ってさ、もし動物の腹に入ったらどうなんの」
「それは新しい殺害方法の予告か?」
 キッチンで明日のおやつの仕込みをしていた吸血鬼は、唐突なロナルドの問いかけに顔をひきつらせた。仕事前のコーヒーの伴には物騒すぎる。
 ロナルドは間違いなく善人だが、ドラルクに対してのみ、サイコパスかと疑いたくなる蛮行を起こすことがある。まさか例えば、殺して犬に喰わせるとか。
「ちっげーわ! 純粋な興味だよ、わりーか」
「君たまぁに怖いこというからさぁ……ふむ、量にもよるだろうな。私の意識も乗らないほどほんの少しなら、そのまま下から出るんじゃないか。大量に飲まれたり部位が致命的だったら復活できずに本当に死ぬだろうな」
 調べてみたことはないがね、と仕込みを再開したドラルクを、ロナルドはじいっとみていた。その青い瞳が、底の見えない海のようでドラルクは少しばかり背筋が冷たくなる。あの海が凪いでいるのは表面ばかりだ。そんな気がした。

「逆にお前が何かの灰を飲んだらどうなる」
「なんだ灰って。うーん。少しなら次に死んだ時に分離するか、もしかしたらそのまま私の一部として取り込んでしまうかも」
 それを聞いたロナルドの表情が明るくなった。顔を見慣れたドラルクでさえ一瞬息が止まるほど、綺麗で安らいだ、透明な笑顔。
「じゃあ、それがいいな。それで肉ついたりしてな。ウケる」
……ロナルド君。何の話をしている?」
 短くないコンビとしての勘と、短くなくなりつつある恋人としての勘が、警戒音を鳴らす。こういう表情のロナルドは、よくない。ひとりで決めて、周りを置いていくときの顔だ。
「別に今すぐの話じゃねぇよ?」
 会話に満足したらしい退治人はパトロールに出るつもりのようで、赤色を羽織りながらもう一度吸血鬼に笑いかけた。
「いつか、俺を焼いたらお前が飲んで」

 ###
 お前死んでも寺へはやらぬ 
  焼いて粉にして酒でのむ
 ###

 ◆鶏・鴉・目覚まし時計

 ロナルドは目覚まし時計をもっていない。独立した時からスマホのアラームで目を覚ましている(同居人はもっているが使っている気配はない)。退治人家業は寝起きが不規則になりがちだが、起床時間はなるべく一定にするように、アラームは毎日同じ時間の設定だ。
 現代人としては珍しくもないし、不便もない、はずなのだが。

 ◇

「スマホまーた壊したのかスマホクラッシャーロナルド」
「キーボードの代わりにデスクに叩きつけんぞ。……壊してねぇし見てただけだわ」
 街中のパトロール中、携帯ショップに目をやったロナルドに、いつも通り勝手についてきていたドラルクが声をかけてくる。
「最近アラームが鳴らねえ事があるから気になってて」
「へぇ?」
 気づけば起床時間を過ぎていて、設定がオフになっている。最初は無意識に止めてしまったかと流したし、アラームアプリの不具合かと別のアプリを入れてみたりもしたがやはり止まる。幸い支障の出ない日だったから良かったものの、本体の故障だとしたら困る。それで、つい目をやったのだが。
 ガラス戸の向こう、お洒落なカフェのような店内にキラキラと並んでいるのは最新モデル達。ロナルドもよく知っている。あれらは事務所家賃一年分くらいする。
 アラームだけのためなら目覚まし時計のほうが良さそうだった。

 ショップに興味を失ったらしいドラルクが先に歩き出した。
「気づいてなかったのか。私が起こしてるから問題ないだろう」
「そうだけど。……ん?」
「パスコード、ジョンの誕生日って重たい彼女みたいなことしてるな」
「お前かよ!」
「安心したまえ、アラーム以外は触ってないし見てない。お気に入りのえっちなサイトのリンクとか見てない」
「見……安心できるか!」
 迷惑なイタズラをした吸血鬼を砂にするために握った拳は、しかし振り返ったドラルクの思わせぶりな視線と含み笑いで寸でで止められた。
「どこまでニブルドなんだ。……どんな日だ、アラームが鳴らないのは」
 ロナルドは眉をしかめる。どういう日って、休みの日か、まあ少しくらい遅く起きても大丈夫な日ばかりだった。それで、そういう日は――そういう日でなくても良くあることだが――ドラルクが。
 ロナルドをずっとみている赤い瞳、そのとろりとした色で、ようやく思い当たって、ブワッと赤面する。……良くあるなかでも、一際、懇切丁寧執拗に 愛された ・・・・日だ。ドラルクに起こされているのも当然。棺桶でなく隣にいるからだ。

 するりと寄ってきた細い影が耳元で囁く。ほとんど吐息で出来た言葉は、周りには聞こえなかった……と思いたい。
「きみと朝寝がしてみたかった」
 寄って来たときと同じく音もさせずにまた離れていく影。
 
「まあほとんど昼みたいな時間だが情緒だよ。鴉を殺さなくていいんだから楽なもの、なんてな」
 マントでもごまかせない細さの後ろ姿がひらひらとロナルドを置いていく。五歳児は知らんだろワハハ、と笑い声を上げながら。
 知ってるわ、こちとら作家様だぞという悪態は口にしなかった。尖った耳の先、血色が良くなっているのが見えたので勘弁してやる気になったのだ。
 帽子を深くかぶりなおしてロナルドも歩きだす。次の休みは、アラームをオフにしておくことに決めた。それに気づいた時の恋人の顔を、なんとかしてみる方法を考えながら。


 ###
 三千世界の烏を殺し
 ぬしと朝寝がしてみたい

 解釈様々ですが、烏=遊郭営業終了時間に鳴く鳥、この世界から烏がいなくなったならあなたを帰さなくていいのに、という解釈を元にしています
 ###