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ななき
2023-07-07 18:15:30
7205文字
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吸死
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とっととどうにかなればいい
(ドラロナ)ひたすらチューしてるだけ。習作。部品として再利用する予定・一部すでにしてる。構成が似てる文章が他にあるのは、これが元になっているからです。
◆望まないと決めているD
深夜の洗面所に響くのは、口の粘膜が擦れる水音とお互いの荒い吐息。
「っん、は
……
んぅっ
……
」
それと、耳に毒な声。とろける青い瞳を間近でみながら、上顎を舌でなでれば背が反った。ここ好きだもんね。舌を押し付けてから、わざと音をたてて唇を離すと短い舌が追ってくる。迎え入れてやれば、ぬる、と舌をなぞられる。
……
あんまり上手くないなと思っていたこの仕草が、私の真似だと気づいたときの感動といったらなかった。舌の長さが全然違うから、真似をしてもうまくいかないよ、ロナルド君。
ロナルド君は、私とのキスしか知らない。『練習』と称して繰り返しているこの行為しか。
◇
お前らいつか事故チューすんぞ、と誰かにからかわれた通りの事が起きたのが最初だった。
これどこの少女漫画? と現実逃避で死ぬ私。一方のロナルド君の混乱ぶりも相当で、私の塵をガッシガッシかき混ぜながら声にならない叫びを上げていた。ぐす、と鼻をすする音までしてきたりして。
さすがに可哀想になったので、ひとまず再生させた手で鼻先を指差して宣言してやったのだ。
「事故はノーカン!」
「じ、事故でもチ、チューしちゃったのは事実だろ。なかったことにするのは、駄目だと思う
……
」
せっかくノーカン宣言してやったというのに、そんなことを言いだす。
「じゃあ練習だ練習。それならいいだろ」
「練習
……
? それ、なら? でも一回きりならそれはむしろ本番
……
?」
グスグス鼻をすすりながらまだゴネる。しかも「あったこと」のほうに行こうとする。
……
さてはコイツ、何言ってるか自分でもわかってないな。ロマンチックゴリラの事だ、キスにみていた夢の重さと、今し方の事故の現実の落差で天秤がおかしなことになっているのだろう。
そんなだから。そんなだからつけ込む隙を与えたんだよ。密かに惚れてしまった人間に触れる機会が、あわよくば手に入りやしないかと期待したこわぁい吸血鬼に。
「なんだ一回じゃ足りないとでも? もう一回も二回も一緒だからな、練習するというなら付き合ってやろ
……
」
そこで拳の風圧で死んだので、あのときロナルド君がどんな顔をしていたかは、みていない。
「なら、頼むわ」
声だけは、はっきり聞こえていたけれど。
それから、頼むわ、の言葉通り『練習』をねだられるようになった。本気だったのかと内心で仰天したが、私が拒む理由はない。
洗面所で、予備室で、廊下の隅で。洗面所でのことが多いのは、他の同居人達が滅多に来ないからだろう。
エプロンの肩紐やマントをそっと引かれて振り向けば、ものいいたげな青い瞳と目が合う。このときばかりは普段の喧しさがウソのようなのが少し可笑しくて可愛らしくすらある。そして黙って待っていれば「なぁ、」と上擦ってかすれた声が私を呼ぶのだ。
誘いの何回かに一回は断るとよいとか言っていた誰かの顔がよぎるが、私は一度も出来ていない。表情豊かな碧眼が訴えかけてくるせいか、私がおいしい機会で浮かれているだけなのか。とにかく、ロナルド君のお願い仕草の破壊力。たまったものではない。
トロトロと蕩けた青い瞳に朱の差した頬。弾力のある唇を食んでやると舌を差し出してくる。頬を撫でれば、まるで恋しい相手にでもするように懐いてくる。肩にかけられた手は熱い。
意外なことに、不意に握りしめられて死んだりしたことはまだない。よほど注意してくれているのだろう。うっかりすれば、何かの感情を期待したくなるくらい、触れ方は優しい。触れているのは恋人でもなんでもなく、ただの同居人だというのに。
どうして、こんなことを繰り返しているんだろう。
いまだに息を忘れる彼のため、呼吸の隙をつくってやりながら考える。こんなに近くて、それこそ奥歯の形まで知ってるくらい近くても、彼が何を考えているかわからない。『練習』だなんて、アクシデントをお互いが納得するための方便で、初心な自分へのからかいだとわかっていない筈がない。それなのに。
直接問うことはしたくなかった。藪蛇でこの関係を撤回されたら私には良いことがないので。そう、私はいい、楽しいだけだから。思いを返してもらおうなんて思っていないけれど、触れられるならいくらだって触れていたい。
実はロナルド君からも思われている、という線も無い。だって新横浜住民なら誰でも知っている。ロナルド君の好みは胸が豊かな年上のお姉さん。パーフェクトな存在の私だけれど、彼の恋とか欲とかの対象には入っていないのだ。
ほんと、何考えてるんだ、このアホ。
やっぱり覚えたての遊びにハマっちゃったってことなのかなあ。スキンシップに弱そうだもんな。ドラちゃんのキステクに酔いな! しすぎたか。
……
チョロすぎないか。大丈夫なのか、こんなチョロくて。チョロさで得してるのは私だけど。
そのうち、絵や壺を買わされないように本気で言い聞かせないといけない。脳内タスクリストにしっかり書き加えながら、もう一度深く口づけた。
◇
今日もまた、私達は洗面所で飽きもせず『練習』をしている。ちなみに今日はシャツの袖口をちょっとだけ引かれた。指先で手首をなぞるオマケつき。どこで覚えてくるんだ経験値小学生のくせに。
この『練習』の時、身体の接触は最小限だ。取り決めたわけではないが、なんとなくそうなっている。今も、私達の身体の間には拳一つぶんの空間がしっかり開いていて、正直もどかしくて仕方ない。
せめてと肩に置いていた手を下して、ドラム型の洗濯機に手をつく形で厚い身体を閉じ込める。ロナルド君が少し下がったせいで洗濯機がガタンと揺れた。ひんやりとした金属が手の熱を奪っていく。
彼は今日は牙が気になるらしい。入り込んできてしきりに牙を舐めたがる。危ないっての。切ったら夕飯を激辛カレーにしてやるからな。
舌をいなしながら、この手をこんな金属じゃなく温かい背に置いて引き寄せてやりたい、なんて考えた時だ。腰が引かれてぎょっとする。いつのまにか腰に回されたロナルド君の腕。望んでいた熱が近い。
薄目で窺う彼はまさに夢中という風。興奮で染まった頬は桃色で、銀色の睫が小さく震える。不純なことをしている最中なのに、どこか無垢。本当に百点満点の顔。
「
……
は
……
んぅ
……
っ、」
なんとなく腹がたったので、舌を強めに吸い上げてやれば、びくりと震えた腕が私をさらに強く引き寄せる。うわあっつい。もう抱きしめられているというか、縋られているというか。人間って皆こんなに体温高いんだろうか。
ソレに気づいてしまったのは、この初めての距離のせいだ。腰のあたりで存在と熱を主張しているソレ。私も男であるからして、何であるかはすぐわかる。が、どう反応するかの逡巡で体が強ばった、その一瞬でロナルド君にも気づかせてしまったのは誤算だった。
蕩けて潤んでいた瞳が急速に正気に立ち戻っていく。間近い青に浮かんだのは羞恥、それから見間違いでなければ、恐怖。ええ、なんで?
至近距離で見つめあって凍り付いていた私たちの耳が、カチャカチャという聞き慣れた音を拾う。ジョンが、ソファを降りて歩く音だ。私を探しに来るのだろう。タイムアップだ。ロナルド君の肩を押して強引に体を離す。
「ほら、終わりだ。洗濯機回させろ」
「え、あ、うん」
まだ呆然とした気配の残るロナルド君が、ふらりと白い家電から離れて出ていく。今までどおりなら、私がリビングに戻るころには『練習』の残滓もなにもない、いつも通りの五歳児くんだろう。
それにしても、さっきの。
「勃ってた
……
な」
あれは、ドラドラちゃんやるぅ! で済むのだろうか。たとえ誤作動でも、好いた相手から欲を向けられて悪い気はしないが、あの怖がる様子はなんだ。私に反応しちゃってショックを受けたか?こんなことしてる時点で今更だろうに。
でも、そうだったとしたら。ショックだったとしたら、もう『練習』は終わりだろうか。ボーナスタイムは長く続かないのがルールだ。わかっている。わかっているけれど、ひっそり死ぬくらいには残念な予想だ。
望まない予想ほど当たるものだ。それから肩紐が引かれることはなくなった。二人になることを避けられるわけでもないが、なにか躊躇するような気配がしっかりあった。私も追うことはしなかった。
傷つけてでも自分の恋情を優先するほど、のぼせていなかったことを自分で褒めてやりながら。
◇
珍しく静かな事務所休業日。ロナルド君の姿が見えないと思っていたら、予備室のドアが半端に開いている。今やドラドラチャンネルの配信部屋だが、元々ロナルド君が荷物を置いていた部屋でもある。何か仕事道具でも探しているんだろうか。
「ロナルド君?」
ノブを掴もうとした瞬間、中からニョキと腕が生えた。捕らえられて引きずり込まれる。背で閉まるドア。
「いっ
……
!」
ドアのすぐ横に押し付けられる。痛みはないが背が冷たい。しかし抗議するより早く、私を押さえつける熱に唇を塞がれた。『練習』にしたって、初めてだ、こんなに強引なのは。
分厚くて短い舌がせっかちに催促するので薄く口をあけてやれば、遠慮も容赦もなく入り込んで暴れようとする。久しぶりの体温で身体の奥が一気に熱くなった。
我に返ったのは苦しげな身じろぎを感じたから。しまった、つい。表情を窺おうとしたが、珍しくきつく目を閉じていてそれもわからない。
「おい」
息継ぎでわずか離れた隙に声を掛ければ、いつものジャージの肩がびくりと怯えたように揺れた。身体を離そうとすれば逆に抱きしめられる。顔を見られたくない、私の顔を見るのも怖い、というところか。
「せめて同意は取れ」
また縮こまる肩。
「別にいいけど」
そろりと身体が少しだけ離れて、ようやく視線が合った。潤んだ瞳は泣き出しそうで、頬は真っ赤。なんでそんな必死かな。あやしてやろうと涙のにじんだ目尻に口づければ、う、とか、あ、とか呻きながら更に赤くなる。首まで赤いのにまだ赤くなれるの。かわいいな。かわいいので、頭と背を抱きしめてやる。若い人間の男の、いや、彼の匂いと、いつも使っている柔軟剤の匂い。
……
そういえば、この間は抱きしめ返せなかったんだっけ。
体温が混ざって同じになるんじゃないかと思い始めた頃。
「いやじゃ、ないか?」
不安そうに揺れる細い声が問いかけてきた。
「その、気持ち悪かったりとか」
「何を今更」
「今だって、えと、無理やり」
「まあ、可憐な私がゴリラに腕力でかなうわけはないが」
腕の中の身体が、また強張った。それこそ何を今更、だというのに。
それにしても、彼が躊躇う様子を見せていた理由が私の嫌悪? 自分が欲情してしまったことがショックだったのではなく?
「嫌なことはしないしできないよ、知ってるだろが」
「でも」
「『練習』の間、私が死んだことがあったか?それこそ、この間だって」
腕がギュウと締めつけてくる。彼にしたらそっと力をいれているつもりなんだろうが、私には苦しいくらい。はふ、と安心したような吐息が首筋をなでた。ああ、やっぱり気にはしてたか。
「誘われなくなったから、もう嫌になったのかと」
フルフルと頭が振られる。髪があたってくすぐったい。
「したかったんだ?」
「
……
ん」
ふぅん、同意しちゃうんだ。
ボーナスタイムは再開、続行らしい。
……
それなら、少しぐらい欲張ってもいいだろうか。許されるなら、望んでくれるなら。もう少しだけ踏み込んで触れてみたい欲が疼く。
ぐっと彼の腕を引き、体勢を入れ替える。私の倍は厚みのある身体が、おとなしく壁に押し付けられてくれるのが気持ちいい。ほんのわずか高いところにある瞳と視線を合わせれば、不安と期待で甘く甘く仕上がっていた。そんな目するから、悪い吸血鬼につけ込まれるんだよ、退治人くん。
「いやだったら殺してくれ、ロナルド君」
もう私達は戻れないところにいるのだ、なんて。戻ってやる気もないけれど。
◇
それから、相変わらず『練習』は続いている。ただ、触れるのは唇だけでなくなったけれど。そして悔しいことに、彼はこれが上手い。
シャツの上から背骨をひとつずつ撫でおろされれば力が抜けるし、身体の形を確かめるようにゆっくりなぞられるとどうにも煽られる。一度、つい声を漏らしたら、彼はそれはそれは嬉しそうにした。自分が何を煽っているか分かってやってるんだろうか? 本当にどうにかしてやろうかバカ造が。
私も遠慮なく触れる。腰骨を撫であげれば隠しきれなくなった蕩けた声が聞けたし、背に軽く爪をたてれば、切羽詰まった吐息がこぼれてきた。喉をくすぐられてうっとりとする顔も見た。服の上からでもわかるきれいな腹筋を下腹ギリギリまで指でなぞってやれば、私の肩口に顔を埋めて必死に声を殺して震えていた。シャツの布だけを握りしめる様子のいじらしいことといったら!
触れる箇所も、触れ方も、どんどんエスカレートしている自覚はある。ロナルド君もそうだろう。でも止まれなかった。『練習』なんて建前どうでもいい。したいからしてるだけ。もうすっかり覚えた、お互いの好きなキスをしながら服の上から触りあって、下半身の熱を隠しすらしていない。ただのキスよりもっと動物的な触れ合い方。強烈に脳が揺れる麻薬のよう。
きっと、直接肌に触れても拒絶はされない。そうなるのも時間の問題かも。いいの?いいのかな。
だいたい、これは何の『練習』なんだったか。セックス?
……
彼は元々、体を動かすことは素晴らしくカンがいい。やろうと思えば相手に丁寧に触れることだってできる。たぶんセックスもすぐ上達するだろうな、と考えてしまう。モテないハムカツ童貞とからかえるのはあとどれだけだろうね。
――
考えたくない。今、楽しいから、いいや。『練習』相手は私だけ。先なんて知らない。いつかは日の光の下、幸せそうに笑い合う特別な誰かが、ロナルド君の隣に並ぶんだろう。
でもそんな、いつかのことなんて、知らない。
◆チョロかった訳ではないけれど余裕もないR
ドラ公、ドラルク。おまえ何考えてるんだ。普段からゴリラ五歳児ハムカツと散々な言いようの男相手に。その場のノリで生きすぎだろう。吸血鬼って皆こんななんだろうか。そう思いながらキスを繰り返している。しかもドロッドロにえっちなやつ。『練習』と呼んでいるこれ。
大体なんだよ練習って。本気の相手にはならないってことかよ。こっちはどうしようもなく惚れてるっていうのに。最初のとき、もう一度が欲しくて全力で言葉尻に乗った俺が言うことじゃないけどさ。
エプロンを引いたり、白いシャツに触れたり。それだけで手に入る毒々しいほどの快楽。真似して舌をなめた時に、いい所にまぐれ当たりしたのか俺の腕を一瞬だけ強く掴んだのに無茶苦茶興奮した。もっとああいう反応をさせたい一心で挑戦するけど、実際には負け通し。
終わるタイミングだってそうだ。いつも頭ぐちゃぐちゃであいつのことしか考えられなくされたところで急に放り出される。離れようとする体温を引き止めて、もっと、といいたくなるのをギリギリ耐えてる。涼しい顔しやがって、俺が普段通りの顔するのにどれだけ苦労してるか。
『練習』だし、恋人同士みたいに抱きしめるのだって我慢してた。しきれなかったけど。勃ってるのもバレたし。引かれるか誤作動だと哀れまれて「おしまい」にされるんじゃないかとか、最悪、ジョンを連れて出て行かれるんじゃないかと怖かったのに、どれもなかった。それどころか、最近はあのほっそい太ももでさりげなく擦られてる気すらする。俺の息が荒くなると、うっすら笑うのなんなんだよ。たまんない。
そんなことされると、欲が出てしまうのに。
袖からのぞく滑らかそうな手首に触れたい。首のひらひらを解いて、シャツの襟元を乱してやりたい。浮いた鎖骨に噛みつきたい。あの長い指でもっと触れて欲しい。もっと、もっとほしい。
望めば、全部叶えられる気がしてる。
練習なんてゴマカしじゃ済まないところまで来てるのはわかってる。わかっていて、止めたくない。あいつが飽きた、もうしないと言うまで、止めようなんて絶対に言わない。こんな都合のいい状況、今だけに違いないから。
これが練習だっていうなら一回だけでいい、練習じゃなく本番のキスがしたい。あいつと。
◆被害を被っている同居人達
「今、行かんほうがいいぞ」
ぐぶぶ、と水槽から降ってきた助言に
「ヌヌー?」
またー?と、ジョンはしかたなくテレビ前に座り直す。少し呆れてしまったのは内緒だ。
「何してるかバレてないと本気で思ってるんですかね、師匠達」
「ヌー
……
」
使い魔としては大好きな主人を庇いたいところだが、最近ちょっと、いや、だいぶ浮かれてるので、庇いきれない。二人の仲がいいのは嬉しいことだとはジョンも思っているのだけれど。
洗面所でガタンと音がした。
せめて予備室に行ってくれないだろうか。事務所の物騒な防衛装置は退治人至上主義だ。起きてきやしないかと毎回ヒヤヒヤするというのに。
同居吸血鬼たちは顔を見合わせ、ため息をつく。端からみたらお互い思いあっていることなどバレバレだ。同じ家に住んで寝床を並べて、同居人から隠れてするような疚しいと分かっていることまでしておいて、何をモタモタしているのか。もう、あの二人とっととどうにかなってほしい。
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