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ななき
2023-04-10 20:02:56
2806文字
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吸死
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この熱に浮かれてる
(ドラロナ)いちゃいちゃしてるだけ。コタツを出したらしまいましょうという話。
コントローラーから手を離して背もたれに寄りかかる。少し休憩だ。
この街には珍しく平穏な夜である。細く開けてある窓からは流れてくるのは少し湿ったぬるい風。
私の腹から下はコタツの中。雨の季節にはまだ遠くとも、桜はとうに終わっているこの時期、もう無くても死にはしない。が、なんとなく手放し難い魔性の道具、コタツ。
……
しかしいかに名残惜しくとも、そろそろお別れする時期だろう。
「そろそろコタツ片付けないかい」
「まだいいだろ。寒い日もあるし」
すぐ側の気配に提案するが、気配こと、ロナルド君から返ってきたのは否。実はこの会話は先週から三回目だ。毎回、同じように片付けを渋られている。
「あ、それうまそう」
「白身魚のソテーだな。珍しい。肉じゃないぞ」
「たまには魚の気分なんだよ」
ロナルド君が指したのはゲーム画面。色鮮やかな料理のイラストは目を引くのに十分だった。ジョンのOKが出たら夜食に考えてやるか。
冷蔵庫の作りおきと買い物メモを思案していれば、少々暑くなってくる。やはりもうコタツは片付け時だ。
「明日の昼間は時間あるんだろう? 晴れそうだし、コタツ布団干しといてくれ」
「いやだ寒い」
即答である。強情な。
「昨日なんか夏用の衣装にするか悩んでただろうが。今だってちょっと汗かいてないか?」
「あー、ほら。ジョンが」
「むしろ暑いとさ。ついでに、床も広くなるから片付け賛成だそうだが」
南米生まれのマジロボーイが寒くないのだから、シンヨコを生息地とするマッスルゴリラが寒いわけがない。
「ヒナイチ」
「『まだ片付けないのか?』ってあのピュアな目で一昨日」
「う、ぐ、そうだ、こっちでロナ戦書く時に便利だから」
「ジョン達と遊んだりチャンピオン読んだりしちゃうからって事務所で書いてるじゃないか」
反論を重ねれば、ロナルド君は口頭では勝てないと悟ったようだ。
「
……
暴力で決めるぜ」
「やめんか! 砂蒸しになるぞ」
「
……
」
「一回試してみたかったんだよなって空気出すんじゃねぇ」
「
……
う゛ーー!」
私の肩の上では、敗北を認めたくない銀糸がイヤイヤと揺れている。暴力を行使せんと先ほど締め上げてきた腕も、腹の上でそわそわと動いてくすぐったい。
つまりは、さっきから私が背をあずけている
『背もたれ』
ロナルド
君はどうしてもどうしても、コタツを片付けたくないらしい。
「いつも今頃に片付けてるだろう。どうして今年はそんなに嫌がるんだ」
「だって、だってさぁ」
ごにょごにょわやわや。
それでも気長に待てば、だって、の次が聞こえてきた。
「
……
こういうの、できなくなる
……
」
「声ちっちゃいな!」
しかし、はあん? なるほど? こういうの、か。罰ゲームと称して暖房兼背もたれになるのは吝かでないと。
そのことに少しばかり安心する。私だってなんの下心もなしに、こんな罰ゲームを言い出す趣味はない。
冬のいっとう寒いころにようやく、本っ当にようやく口説き落とした
……
これだと私だけみたいで癪だな。ようやく私を好いていると口を割らせた恋人は、まだ素直に
らしく
振る舞えない。
ロナルド君の恋愛耐性値は小学生並み。色めいた気配なぞ感じさせようものなら照れて即殺されること五十と六回。あれ以上追い詰めたらネガティブ発動して、明後日どころか再来年くらいの角度に吹っ飛んでいくに決まっている。ゆっくり慣れてくれればそれで良いと、警戒する猫を宥めるよりも丁寧に慣らす方針に切り換えた。育成ゲーはドラちゃん大得意なので。
結果、ただ同居人だったころより半歩踏み込んだ程度の、今時の高校生ならもう少し進んでいると言いたくなるような清さでお付き合いをしている状態だが
……
ところが彼のほうに欲があったわけだ。同居人では上手く消化できない、距離を詰めたい、触れ合いたい欲が。
それを救ったのが、この綿入り布団に覆われた四角い台だったと。
思い返せばこの冬は、テレビが見づらいとか「今日はそこに座る気分なんだよ文句あるか」とか理由をつけて同じ辺に無理やり入ってくる回数が多かった。中で勃発する脚での陣取り合戦も楽しそうで、勝っても負けても引き分けでも上機嫌だった。
ささやかすぎる!わかるか!と詰りたくなるが、彼の精一杯の甘え方と思えばそんな気も消える。現金だって? 好きな子がおずおずと歩み寄ってくる様を嬉しく思わないものからなら、なんとでも謗られよう。
ともかく。
ロナルド君は、この伝統的家電を片付けてしまったら、それらの自然に
――
自然だと思っているのだおそらく!
――
距離をほぼゼロにするチャンスまで一緒に仕舞いになってしまうと思っている、と。
かわいい。これをかわいいと言わねば何がかわいいか。
もうどうしたって口元は弛むが、知れれば拗ねられてセルフ砂蒸しコースだ、我慢して引き締める。仕方ない。年上の恋人らしく代替案を示そうではないか。
「ロナルド君。コタツを片付けたら、この部屋がどうなるかわかるかね」
「あ?」
「次の季節がくるんだよ。暑い季節だ。だが冷房にはまだ早い。子供体温の誰かは辛いかもしれないねぇ」
背後からは怪訝そうな気配だけが漂ってくる。あの銀の睫で縁取られたやたらに大きくて美しい青がぱちぱちしているのだろうと思うと、かわいくて笑ってしまいそうだ。
「察しがわルドめ」
毎年、人の手を額だの首だのにあてて冷感シート替わりにしていたのは誰だ。不意に両手を取られたこっちの動悸も知らず、「なんかいつもよりぬるい
……
」と不満げに言っていたのは。
人間より冷たい指先で、太い腕に浮かぶ血管をわざと思わせぶりになぞれば、背もたれが息をのむ。ついでに温度も上がった気がした。
……
殺してくれるなよ?
「ロナルド君は、涼を、取れるだろうねと、言ってるんだよ」
どうやってと口にはしなくとも。それでちゃんと理解した背もたれがビクンと揺れた。言語なのかも怪しい呻きも漏れてくる。
「ね、それなら片付けてもいいだろう?」
「
……
ん
……
」
声ちっちゃいな!!
笑いを我慢できなかった私は、照れた恋人に今度こそ締め殺された。
◇
次の日、広い床が夏を待つ部屋で。
「暑い、から」
「抱っこ待ちかね、五歳児」
「うっせ」
これは素直なのか素直じゃないのか。真っ赤な顔で両手を伸ばす彼は最っ高に愛しい。
我ながら喜色が隠せていない声が出たし、彼も言葉ほどトゲはない。だってどうせ浮かれた私たちの茶番、コタツの御利益なのだから。
腕の中へ招いた体からは、太陽と我が家の柔軟剤の香りがした。
「いやこれ本当にあっついし恥ずかしい。ムリ死ぬ」
「おっまえ、おまっ、
……
っほんっと雑魚!!」
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