その同胞は酔狂としかいえないような服装をしていた。真っ赤な外套、白いジーンズに革のブーツ。外套には金具と飾り石の連なる、用途不明のベルトが留められている。
「やあやあ同胞よ、良い夜ですね」
この飲み屋では初めてみる顔だったが、その男は、初めは酒を出しにきたマスターを相手に話を咲かせ、次第に周りまで巻き込んで盛り上がりはじめた。
ヘンリー・シャドウズと名乗ったその男は、なんでも、遠くロンドンまで行く途中なのだという。
「ロンドンは竜大公のお膝元だもんな、一度は行ってみてぇよな」
「でも街に入るのも審査があるって聞いたぜ?」
「そこは、ちょっと伝手がありまして」
ヘンリーの所作は上流階級のものだ。本来ならこんな場末の飲み屋に立ち寄ることなどない立場なのかもしれない。
俺は話しが上手くない。盛り上がりの隅で物珍しい話を聞くだけにしていたが、どうしても気になって仕方ないことがあった。
「あんた、良いところの出だろう。それなのにその服はどうしたんだ」
似合わないどころでなく、裾のボロボロになった外套はどうみても男の格にあっていない。ヘンリーなら、いっそ古式ゆかしいマントのほうがしっくりきそうですらある。
「これですか?これは私を殺しに来た退治人の衣装を真似たのです」
そう答えるヘンリーの表情は、好きな煙草の銘柄について話していた時と大差ない。
「ああ、このとおり私は何ともなかったのですがその退治人とは色々ありましてね。暫く家に置いて――飼って、いたのですよ」
人間を飼うのはもう廃れた文化だが、貴族階級にはまだいると聞いたことがあった。
「飼い犬(ペット)の服など、と思われるでしょうけれども、私はアレが可愛くて仕方なかったので。まあ、所詮は人間。この冬にとうとう死んだのですが、どうにも寂しくてね」
親馬鹿の一種だとでも思ってください、と苦笑するヘンリー。死んだ人間の思い出を纏うという行為に、うっすら不気味さを感じるが、上流階級というのはそういうものなのかもしれない。
「そういや、隣街に出た退治人も赤い外套じゃなかったか」
「……そのお話、もう少し伺っても?」
明日にはこの街を起つと言って、ヘンリーはまだ夜明けまでもだいぶ時間のあるうちに店を出ていった。
宵闇色の服をきた人間の男が、どこからともなく現れてその横へ並ぶのを見てしまったわけだが、余所者のことだ。深追いしないほうがいいだろう。ということにしておく。別に、ハットと襟巻きの間から飛んできた青い眼光が怖かったわけではないとも。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.