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ななき
2023-03-01 20:10:24
2799文字
Public
刀剣
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刀剣 審神者草子 大侵攻後
大侵攻後に書いたもの。 中は何でもありなので何でもいい人だけどうぞ。 手元でちまちまと書きためていたもの。たまに更新。
◆くろのすけ
本丸に現れる政府の式に、くろのすけと呼ばれる監査個体がいる。監査対象も期間もランダムらしいが
……
そのくろのすけが我が本丸に滞在して三日。
人なつっこい性格を与えられていたそいつは本丸に馴染みきって、今は俺の膝の上で寝ている。
うちのこんのすけはこんな風に甘えてきたことはない。クールな性質なのだと思っていたのだが、現在進行形でこんのすけの視線が痛い。おい拗ねるなよ。拗ねてない?別に羨ましくなんかございません、てお前。
くろのすけを退かそうとしたらスラックスに爪を立てて抵抗された。あ、今こんのすけに向かってフフンて顔したな?それを見たこんのすけがますます不機嫌そうに唸る。
キツネの多頭飼いについての本でも探してくるか。それとも政府の式担当に相談か。ため息が出る。
◆足音
とたとたとたとた
とたとたとたとたとたとた
夜明けに遠い、一番闇が深いとき。足音が縁側を通りすぎていく。その響きは目方の軽い誰か、もしくは、何か。向かう先は本丸の主の居室であるここか。だが夜警の男士が反応する気配はない。
とたとたとたとた
とたとたとたとたとたとた
足音を聞いていた審神者は障子をそっと開け、和菓子をいくつか載せた小ぶりの菓子盆を押し出した。
とたとた、とた
再び閉められた障子の前で足音が止まる。
外は月明かり。畳には障子格子の影だけ。シンと息を殺して待つ。
カタリ、ことんと音がして。
とたとたとた
ととんととんととん
三つ楽しげにスキップして足音は消えた。
◆
「むっちゃーん、いつもありがとぉねぇ」
本丸結成五周年記念の宴会も賑やかに、そろそろ酒が過ぎたものも出てこようかというころ、その声は広間に響いた。皆の視線が上座、審神者のいる方へ集まる。初期刀の頭を抱え込むようにしてなでる主と、見たことがないほど赤くなって硬直している初期刀。予想外の光景にあっけにとられる。
ここの主は生真面目な性質で、審神者として模範的すぎるほどの振る舞いをする。五年連れ添う初期刀兼近侍のことも、むっちゃん、なんて呼び方をしているのは聞いたことがない。他の刀にも親しく接してはくれるが線を引き、撫でたり抱きしめたりなんて見たことがない。
審神者の、いつもなら静かな笑みを浮かべている顔はデロデロのふにゃふにゃ、声はいつもより三つは高く、頬は上気して血色がよい。異常の理由は明白。つまりは酔っぱらいだ。
近くにいた刀は、膳の上に酒の匂いのするグラスを認めただろう。下戸だという主には供されていなかったはずなのに。
このとき広間の刀達の大半が考えたことは完全に一致していた。いいな、自分も主にふわふわと呼ばれて撫でられたい、と。
しん、としてしまった空気を破ったのは初鍛刀だった。
「ず、ずるーーーい!!主さん!僕!僕も!!」
悲鳴に応えて、主はまだ茫然としている打刀をポイと離し、淡い髪の短刀に向かって両腕を広げた。
「みだれ、おいで」
ズバンと音でもしそうな勢いでそこに収まりに行った本丸最強の極短刀は感極まって半泣きである。主は、かわいいかわいいたよりにしてるよいつもありがとうねぇとさらさらした金糸の丸い頭を撫でる。そこでようやく周りの様子がおかしいことに気づいたようだ。とろりとした目で己の刀達を見渡し、ああ、と納得したように頷いた。
「
……
じゅんばんね?」
ざざっと一斉に音がして列ができたのは言うまでもない。
最後にそろりと寄ってきた大倶利伽羅をなでおえるまで一時間。そのまま寝落ちした審神者が目を覚まし、二日酔いと羞恥で悶えるまであと六時間。
ささやかで心地良くぬるい、本丸の夜。
◆朝顔
夏の初め、短刀達が軒先に朝顔の種を蒔いた。水をやったり雑草を除けたり、せっせと皆、世話をした。朝顔はそれに応えるようにツルを伸ばし、軒先に日陰をつくった。
基準暦の上で8月に入ろうとするころに初めて花がさいた。それは皆喜んで、秋田などはひとつずつ絵にしたほどだった。毎日たくさんの花が咲いて、審神者も朝一番に見に行くのを楽しみにしていた。
しかし、ある時から審神者が朝顔を見に行こうとすると邪魔が入るようになった。それは近侍の呼び止めだったり、こんのすけの呼び出しだったり、虎の構ってくれ攻撃だったりした。昼前には解放されるものの、花の一番きれいな時間は過ぎてしまっている。
2、3回なら兎も角、一週間も続くと不審に思う。その日、やはり近侍に呼び止められたので、朝顔を見てはまずい理由でもあるのかと問いただした。
近侍の山姥切長義は困った顔をしたものの、見に行くことを承諾した。
その様子から、さすがに何か訳ありであることを察したが、ならば尚更、主としては確認しなくてはならない。本丸内の異常の解決も審神者の仕事である。
果たして、朝顔は異常であった。たくさん咲いたうちの一割ほどの、大きく開いた花弁の内に、小さな人の首が垂れ下がっている。これには審神者も声がでなかった。近侍は、
「昼には消えるけれど、主に見せるには見苦しいから」
と、ひとつふたつその手で無造作にむしってみせる。思わず喉奥で悲鳴を上げかけたが、血が出るでもなく、千切れた部分は植物の茎そのものだ。
御神刀にも伺いを立てたが騒ぐことはない、と言っていた。と近侍がいうので、審神者は納得し、刀達の配慮を受け入れて朝顔鑑賞は早い時間を避け、昼前にすると結論した。
念のため、と時の政府の本丸特異対策部署に報告をあげたところ、夏の終わりに必ず焼き払い、種は採らないように、との返答を得たそうだ。
◆
政府から褒賞のひとつとしてデータが開示される「景趣」だが、奇妙な現象が起きる噂が絶えない。
要するに高精細な投影用データでしかないはずなのだが、その景色から花の香りがした、その中で花見をした、などの有り得ない報告をする本丸がある。
◆
「主!門がねぇ!」
「やーもうわからん、ここどこ?」
「庭がなんか!なんかこう!解像度高くない!?」
「主!本丸の名前なんてやっぱり書類にないが!」
「報償くれるのいいけどこれ一件ずつ受け取って押印しろって!?200件超えてんのに!?」
大騒ぎである。
「こんのすけ、ちょっっと説明もう一回
…
」
「もうヤですぅ
……
」
あー、なんかこのバタバタ具合、本丸立ち上げの頃を思い出すなぁ。がらんとした本丸に、自分と歌仙と五虎退とこんのすけ。
……
の直後に何も考えずに鍛刀で大量にお迎えしたせいであっちもこっちも右も左もわからん新米どもで文字通り右往左往
……
「主、うっすら妙な笑顔を浮かべてないで決済してくれ」
「んー、はいはい」
極めた姿の初期刀からつつかれ、
「ああっ! 畑はそっちじゃないですー!」
極めた初鍛刀の変わらない声を聞きながら。
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