ななき
2023-01-09 17:50:38
3797文字
Public 吸死
 

フォン・ナ・ドゥーブツは高等吸血鬼である

(ドラロナ)へんな動物からみたドラロナについて。意外と若い吸血鬼、へんな視点です。
全体的に捏造注意。

 フォン・ナ・ドゥーブツは高等吸血鬼である。
 高等吸血鬼の両親をもち、両親と同じ変身能力を持っている。
 父は、聞けば吸血鬼界隈では有名な古い吸血鬼で、人間に畏れられる存在であるという。(主にスケベ方面で)尊敬する先達でありライバルであり愛する父ではあるが、おっぱいプリンを息子と取り合うような男にそんな畏怖を感じたことはない。


 フォン・ナ・ドゥーブツは二十年程しか生きていない。
 生まれたときから当然、電化製品の恩恵にあずかっているし、エッチなものは映像も当然の選択肢に入っていた。
 人間風情が! とは高等吸血鬼お決まりのセリフだが、人間の街で人間に囲まれ人間の娯楽を享受している若者吸血鬼からすればよくわからない感覚だ。


 フォン・ナ・ドゥーブツには馴染みの退治人がいる。
 今日も河原でエッチブック探索をしていたならば、パトロール中の退治人と行きあった。
「おう、へんな」
「いい夜ですねロナルドさん」
 退治人と顔馴染みで、道端で世間話をするなんて、と古い御歴々はいうのだろうか。
「じゃあな、他の市民の皆様にご迷惑かけんなよ」
「もちろんです。……あ、もろちんって誤字エッチじゃないですか?」
 メキメキっと思わず変身能力の制御を失えば、青筋たてた退治人が怒鳴る。
「迷・惑・かけんじゃ・ねぇ・ぞ! 帰れ!」
 そう、怒鳴るだけだ。それだって怒りというよりツッコミ気質によるもの。銃の名手だというこの退治人だが、目の前でフォンが変形したくらいでは銃どころか下等吸血鬼叩きだってフォンに向けはしない。
「はーいはい。また事務所におすすめのエッチブックスお持ちしますね」
「いらねっ……いら…………ぉぅ…………あーもう、気をつけて帰れよ!!」
 鼻を振り振り、赤い後ろ姿を見送って、こういうところが彼の好きなところだな、と考える。なんだかんだと結局付き合ってくれるし、気遣ってまでくれる。退治人のくせにお人好しすぎる。
 とはいえ、フォンがいつかのように変身能力を街中に暴走させたりすれば、全力で止めに来るに違いない。場合によっては拳骨くらいは落とされるかも。そしてまた次に街で会ったら「おう、へんな」と笑うのだろう。

 付き合いと反応がよくて、依頼と言えば真摯に話をきいてくれる人間。楽しいこと大好きな吸血鬼達が気に入らないわけがない。彼は自分の事務所が、吸血鬼の駆け込み寺になっている自覚はあるのだろうか。この街では、困ったらとりあえずロナルド吸血鬼退治事務所、なのだ。


 フォン・ナ・ドゥーブツはそれなりに口を噤むことを知っている。
 エッチな単語をなんでも口にしていた時期もあったが、音にしない良さというものを、大人になるにつれて理解したのだ。

 フォンは今、何回目かもわからない (数えるのが得意な高等吸血鬼でさえ数えるのを放棄したくらいの) 喧嘩だかじゃれあいだかを眺めている。片方は退治人ロナルド、もう片方は彼の同居人だ。
 同居人は齢二百を超える、まあまあ古めの同胞である。名実ともに、そして自他ともにみとめる貧弱吸血鬼ドラルク。
 ロナルドとフォンがコレクションのやりとりをしていても、彼はあまり話題にノってくれないが、お茶を出してくれたりはする。うなじは好きなはずなんですけどねぇ、と思いながらムリヤリの布教はスケベ道に反するので適度な距離を心がけている。

 この二人は毎度毎度、角突き合わせて大騒ぎするが、フォンの見立てではお互い甘酸っぱい感じに、まあ、なんとなく、そうなんだろうなぁ、と見ている。名前がついた関係かどうかは、さすがにフォンもわからないが。

 だってドラルクは……いうまでもなく。ロナルドのベッドの真横に棺桶があると知ったときは、 HTP エッチシンキングパワーが上がるどころか困惑で変身が解けた。棺桶持ち込みで押しかけて、丸見えの位置に置くなんて。いい歳だろうに、いや、いい歳だからこそ何てことを。行動力を賞賛すべきなのか、必死さを指摘するべきなのか。
 現代っ子吸血鬼は半笑いすることしかできない。

 退治人もわかりやすかった。
 知り合ったころから、フォンのオススメコレクションから彼が選ぶのは、おっぱいとお姉さん。それも、ラブラブで甘ーいもの。しかしいつからか、時々違うものを選ぶようになった。割合としては五回に一回くらい。そういうときに彼が選ぶのは、スレンダー、黒髪、ちょっと意地悪されるやつ、……のどれかもしくはその組み合わせ。最近は三回に一回に頻度が上がったその変化が意味するところに思い至ったとき、HTPをみなぎらせればいいのか、萎えればいいのか、非常に迷って暫く半端な姿でいる羽目になった。
 迷って迷って、最近は。わざとその傾向のものを混ぜて持ってくるようにしている。
 そう、音にされない秘された思いもまた GH ごいすーえっちなので、応援しようと決めたのだ。


 ピンク色のいもむし、フォン・ナ・ドゥーブツだって吸血鬼である。人間を襲ってまで吸血なんてしたことがないが、血の香りくらいはわかる。

 ちなみに、強い高等吸血鬼なら血の持ち主が処女かどうかまでわかるなんて話もあるが、フォンは信じていない。何かしら感じるとしても年明け格付け番組のワイン問題みたいなものだろう、と思っている。それをネタにしたスケベブックスは大歓迎だが。
 ともかく山崎なんかのボトルや、知った個人、そう、例えば頻繁に擦り傷をつくる馴染みの退治人の血ならある程度は、わかる。高等吸血鬼なので。

 だから、いつものように退治人事務所のドア前まで来たときに、漂ってきたのがロナルドの血の香りであることはすぐわかった。
「ロナルドさん!!」
 慌てて事務所に飛び込めば、
「おう」
 件の彼が普段とかわらない調子で迎えてくれた。ただし頬にガーゼを貼って、額に切り傷を作って。いつもと上着が違うので、もしかすると胴にも怪我をしているのかもしれない。

 血の香りはまだ乾ききっていない額の傷からだ。どうやら、コンビの相方による手当ての途中であるらしい。
「へんなか。……この馬鹿また無茶しよったのだ。丁度良い、君からも何か言ってやれ、バカタレはバカタレから叱られるのが一番堪えるんだから」
 フンと鼻をならして不機嫌にドラルクが言う。
「いえ、ロナルドさんがご無事ならそれで」
 と返せば二人がまた小競り合いしだすが、フォンは別のことが気になっていた。若干行儀が悪いが、フンフンと事務所の空気を嗅いでみる。部屋用消臭剤、消毒液、おやつのホットケーキ、ロナルドの血。
……?」
「へんな?」
 漂う香りに微妙な違和感。事務所の香りはいつも通りのようだから、違和感のもとはロナルドの血だ、おそらく。吸血鬼の本能的な部分での感覚。しかしこれは、香りが変わったというより受ける印象が変わったとでも言おうか。影響するものといえば、食べ物、経験、健康状態……なんだろう。
「ロナルドさん、何かエッチなものとか食べました?」
「はあ?」
「なんだかちょっと、血の雰囲気が変わった気がするんですよねー。気のせいかもですけど」
「いや知らん」
「うーん、エッチな気配がするんですけどねぇ」
「俺の血がエッチって、俺どう反応すればいいんだよ!?」

 ふと思いあたる。この部屋にはもう一人、高等吸血鬼がいるではないか。フォンよりはずっと古い吸血鬼で、ロナルドの同居人。
 意見をもらおうと視線をやれば、古めかしくもマントをつけた同胞は、口を閉ざし目を逸らし冷や汗までかいていた。あまりにも目が泳いでいて、鶴見川から東京湾に出てしまいそうだ。心当たりがありますよと言っているようなものである。しかし、それをつつかれると都合が悪い、か? 同居人をおちょくるのに全力をつくす彼にしては珍しい……経験。甘酸っぱい。ワイン問題。
 あっ、もしやなるほど?
 ……察してしまったが、反射的に変身が暴走しなかったのは少しばかり制御がうまくなった証かもしれない。

 やっぱり気のせいでした、と鼻を振り頭と短い手足を揺らす。銀髪の退治人は怪訝そうにし、黒髪の同胞はほっとした顔をした。彼も、大概わかりやすい男である。

 先に述べた通り、フォンは例の風説を信じていない。実際には体調の変化か、食べ物の影響だろう。だが、同胞の反応は黒。それで十分。
「今度、選りすぐった秘蔵コレクションをお持ちしますね、黒髪のやつ」
 だから、お祝いだ。それはもう、腕によりをかけて選んでこよう。スレンダー、黒髪、年上、ちょっぴり意地悪される、とびきり甘くてラブラブなエッチDVDを。ああ、同胞には内緒で渡したほうがいいかもしれない。
「だからいらねっ…………
 いります、と小さく呟きなおす退治人に思わず笑った。


 フォン・ナ・ドゥーブツは、高等吸血鬼である。
 高等吸血鬼は、神に祈らない。けれども今、エッチなものを司るなにか偉大なものになら祈ってみよう。
 どうかどうか、この隠し事が下手くそな推定・恋人達に幸福でいっぱいの未来を。

 高等吸血鬼フォン・ナ・ドゥーブツはそう祈りたい。
 だってフォン・ナ・ドゥーブツは、退治人ロナルドの友であるので!