サラダに使うつもりのミニトマトは、ツヤツヤとしてはちきれんばかりだった。滅多に固形物を口にしない私が、つい、口に運んでしまうほどに。
ゆっくりと牙を突き立てる。プツッと皮がはじけて、果汁が溢れてくる。程よい酸味と、青い甘さ。それは、長らくしていない『食事』を想い起こさせた。
そうだ、口にするなら彼が欲しい。注射が嫌いで先延ばしにする彼は、きっと牙の痛みでも涙ぐむ。じんわり潤む青い瞳。詰めた息が吐き出されるのにつられて銀の髪が小さく揺れる。肌には薄く朱が差して――
「ドラ公?」
「ブエッ!!」
身体が崩れる感覚と、おわっ危ねぇ! という声。シンクの水を止めてくれたらしい。
「何ぼーっとしてんだ」
「ちょっとした考えごとだ。気にするな」
まさか君を吸血する妄想でトリップしてました、とは言えない。じぃっと青い双眸に見つめられ、後ろめたさで目をそらした。
「食ってるの、珍しいな」
「え? あ、ああ、まあたまには」
悪いことはしていない。だからそんなに見るな、と口を開きかけたとき、彼の声がそれを遮った。
「腹、減ってたりする?」
少し顔を傾けて流してよこす視線が、目の前の同居人を知らない男のようにみせている。
「欲しかったり、とか」
にんまりと笑って、知らない男が言う。スル、と自身の首筋を撫でながら。何がと明言しないのは含みがあるのかそれとも。
「なあ、欲しい?」
赤い唇が弧を描いて私を唆す。
これは、夢か、罠か、幸運か。どれだ。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.