ロナルド吸血鬼退治事務所の珍しい休業日、ホラーなDVDの上映会とあいなった。ホラーといってもぬるいご家庭向け映画。ジョンとロナルド君による決定だ。私は茶々でも入れながら一人と一匹に付き合うだけのつもりだったのだが。現在少しばかり問題が出ている。
お膝にはジョン。にゅーん、なんて目を隠すふりして甘えながらもしっかり画面は見ている。本当は平気なくせに。かわいい。
問題は後ろ。ロナルド君。ビビりまくりでソファの上で私を抱き込んでいるシンヨコハマゴリラ。足の間に私を座らせ、がっしりした腕は私の腹の前、あごは肩の上。高等吸血鬼をクッションか何かだと思っているのかこの五歳児。
いくら、先日ギルドで「お前ら立ち位置が近すぎて見てて暑苦しい」とまで言われた距離感の狂い方でも、この身じろぎひとつすら直接伝わる近さはおかしくないだろうか。
白状する。
私は日々『そういう』欲込みでロナルド君を見ている。自分の手でグズグズに溶かしてやりたい。耐えられずに漏れる高い声が聞きたい。潤んだ青い目で見上げて欲しい。素直で流されやすい彼に、不道徳な気持ちイイことを教えこむのはさぞ楽しいだろう……。つまりは疚しい気持ちを抱えた私としては、この状況、嬉しくもあり、色々反応しないように耐えるのが辛くもありで。我慢とか嫌いだし死んで抜け出すのも考えたが、それはその、もったいないのでナシで。
そして、さっきからロナルド君は画面を見たいのと見たくないのの繰り返しなのか、せわしなく顔を上げ下げしている。銀髪が首筋にあたってくすぐったい。ついでに、
「ひゃ」「……ふぁっ」「うっ……」
抑えた悲鳴が耳に直接入ってくる。妙に艶めいてもはや喘ぎ声に聞こえるのは私の下心のせいだろうか。せいなんだろうな。切実にやめて欲しい。耐えろまだ紳士でいろ私の理性。
ねえジョン助けて。ジョン、ジョン?その生ぬるい目はなにかなジョン。
「これそんなに怖い?そこまで怖いなら観るの止めたらどう?」
「いやだ」
「他にもDVDあるし」
「いやだ」
イヤイヤ期か。
「この間ヒナイチくんと別のを観ていたときはもう少し平気そうにしてただろう」
あっちの方が本格的なホラーだったのに。
「ヒナイチの前でこんなのカッコ悪いだろ」
我慢してたのか。そうか。かわい、いや違う。
「ジョンの前はいいのか」
「ジョンの前はいい」
「そう……」
紳士なドラちゃんが懸命に紳士している間に、映画は佳境だ。ジワジワと重ねられる恐怖演出に合わせて、
「うぅ」
ロナルド君の腕もジワジワと締めてくる。ギリギリ死ねない強さなのが何とも。……あ、だめ。疲れた。もう死ぬ。殺してくれ。もう少し強くしてくれたら死ねるから。
締め上げが止まった。ええ、今死ねそうだったのに。
「……いい匂いする……防虫剤の匂い……」
すんすん、と首筋を嗅がれる。なに、なに!?
とっさに身体を離そうとすると、逃がさないとばかりにより深く抱き込まれた。背中には服ごしでもわかる立派な大胸筋。あたってるんだが?うわー今の発想死にたい。でももう少し堪能したい。
「ビビルド、怖さでネジ外れたか」
「んー?」
ゴソゴソモソモソと鼻と唇が首周りの布をかき分けてくる。きみ、自分に劣情抱いてるおっさん抱き込んでにおい嗅いでるって相当ヤバい状況だぞ、知らないだろうけど。
「こら離せったら」
腕から抜け出そうともがいてみるが、当たり前のようにビクともしない。
「何で逃げんの……」
おま、かすれた甘え声なんて、くっそ、いつものウホボイスどうした。だめだもうぶっ殺す気持ちになって反作用で死ぬしか
「な……ドラこ……もっと……」
ファーー!バグるど!!台詞おかしいだろ。謎のおねだりやめろふしだらな叶えかたしてやりたくなるんだが?!
ギュウ、と更に身体が密着して、ぬくい吐息に素肌をなでられる。
……限界。
「ジ、ジョン!!」
ええー?って顔しないでジョン!!
「ヌヌヌヌヌン、ヌヌヌー」
私の求めに答えて、ゴンと……いやポスンとロナルド君の脇腹にジョンのおててが沈んだ。ダメージらしいダメージなぞなかったはずだが、とにかく拘束は緩んだ。さすが私のジョン。アタックがずいぶん軽いこととか、さっきまで、部屋を出ておきましょうか?って顔して小型金魚鉢と死のゲームを用意してたことなんて見なかった!
「終わり!終わりだもう寝ろ!」
緩んだ腕から抜け出し、ジョンを抱いて棺桶に逃げ込む。
こういう時に使うんだな、人の気も知らないでって。
ロナルド君は次の夕にはけろりとして普段通りだった。やっぱり怖さでイかれてたんだな、と安心したような残念なような気持ちで私は一回死んだ。
ーーそして、再びの休業日。
「コレ最後まで観てないよな、続き観ようぜ」
と言いながらロナルド君が出してきたのは先日のDVDだった。
「それ怖くて途中で止めたやつだろうが」
よく覚えていないというので、そういうことにしたのだ。
これでも観てろ、と彼も好きそうなアクション映画の名作を出してやるが、反応が芳しくない。
「……お前はいいのかよ」
私?
そのとき、同居人は本当の五歳児にはできない顔をした。拗ねたような照れたような、困ったような。きれいな赤で頬と耳を染めて。少しだけ、唇を尖らせて。
「それだとくっつく言い訳、なくなるんだけど」
本当に、それが、いいの?
えっ。……えっ?
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