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ななき
2022-08-21 19:14:03
7171文字
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刀剣
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刀剣 審神者草子
大侵攻前まで。
中は何でもありなので何でもいい人だけどうぞ。
はっきりと名前のでる刀は一振もないです。
創作用アカウントを作る前に手元でちまちまと書きためていたもの。どこかに漂わせたくなったのでここに置いておきます。
◆審神者の夢
主が夜遅くまで仕事していた。
片付けたはずの書類が真っ白なんだよねぇとぼやくので、夢だったんじゃあないのかい、と笑ってやったら、主の手が止まった。表情が抜け落ちて焦点の合わない目。
「
……
そうかもしれない」
「だって俺の初期刀は」
ぱちん、と音をたてて主が消えて、それきり。
◆主を想う二振りの刀、あるいは二人の男
「私が折れても、主は主のままでしょう」
「将の顔で、良く戦ったと誉めてくれる」
「けれども貴方が折れたなら」
「きっとあの人は、修羅になる」
「将の顔など投げ捨てて」
「怒り狂って屍の山を築いて」
「その頂上で貴方を想って泣くでしょう」
それがどうしようもなく羨ましい、とその刀は笑った
◆それが希望なのだと
主は穏やかな性分だったが、時折、底のない穴のように暗い瞳で己の刃達を見ている事があった
それを引き戻すのは最古参の打刀と短刀の役目だった
二振りが静かに語りかけると、僅かばかり目に力が戻るのだ
「いつも何を主に言ってるのかって?」
「約束は忘れてないぜって、それだけ」
「そう、約束したんだ」
「本当に主が何もかも嫌になったら」
「オレ達が主を殺してあげるって」
◆二振り目
その本丸で男士が折れたのはただ一度。そして折れたのは自分だとその刀は言う。
「でもね、なんだか安心したのですよ」
「僕という刀の最期を、主達は知っている」
「ならば、この今の僕は好きにしてもいいのではないかと気持ちが軽くなりまして」
からりと笑って雑把に絡げた袖で手を振る様は、確かにその男士としては珍しかったかもしれない
◆蔵
初めは物置だったらしい。刀が増えるにつれ、静かな場所としてそこに籠もるのを好む男士が現れた。そこまではよく聞く話ではあるのだが。
その本丸では籠もる者同士が親近感からか仲良くなり
……
珈琲に凝りだしたのだという。
「いつの間にか本格的な道具一式持ち込んで」
「中の調度もきれいに整えて」
「『珍しい豆が手にはいったから主にも飲んで欲しい』っていうから覗いたら、まるきり蔵カフェ」
「呆気にとられてるところに出てきた珈琲があんまりにも美味しくて」
「火には気をつけるんだぞ、なんて言って許しちゃいましたよ」
「ただねぇ、収納場所が足りなくなっちゃって」
「もう一棟建てました、蔵」
高かったと肩を竦めながらも審神者はまんざらでもなさそうだ
◆本丸差
元はシステムエンジニアだった主の影響で、俺の本丸の刀は情報技術に強い。殆どがパソコンを使いこなすし、ソフト開発からインフラ構築まで大抵のことを本丸内でやれてしまう程度には。
それがひょんな事でお上に知れて、戦闘以外の任務を積まれたりもしている。
周りからみれば相当に珍しいようで、年度末進行の最中に演練に出た時の事など、いまだに噂されているらしい。
まあ、平安生まれの太刀がノート型端末を開き、別の通信端末で通話しながらタイピングし始めたら、驚くだろうな。部隊全員そんな調子だったはずだしな。必死で資料を作っていたので周りの様子は正直覚えていないが。
我が本丸は、IT戦士本丸などと妙な徒名で呼ばれているそうだ。
◆心霊写真
夏の風物詩、心霊写真特集が流れるテレビを男士達が囲んでいるところに通りかかった。
『このなんでもない一枚のスナップ。だが、不可思議なものが写りこんでいる』
お決まりのナレーションが流れる画面に複数の応えが返る。
「棚」「カーテン下」「窓」「ドアの隙間だろ」
『おわかり頂けただろうか。 窓に映る
……
』
「「あー」」
負けた、と窓を挙げた男士が笑う。
当てたら負けなのか?
「ヒトにも見えているのは偽物だからね」
……
待って。
◆鬼を飼う
主の視線の先に気付いてしまった。
穏やかな笑みを、密やかに交わすのも見てしまった。
身の内に鬼など飼いたくないというのに、嗚呼。
◆その審神者は14歳
演練で、目隠しの布をつけた少年審神者と出会った。霊力が強く、『見えすぎる』のだという。
近侍が手を取って甲斐甲斐しく介助している。
もの言いたげなこちらの刀を目線で制し、当たり障りのない会話をして別れる。
彼の姿が見えなくなった頃、隣にいた男士が釈然としない風に言う。
「霊視はただの布で封じられるものではないはずですが」
人の子がある一時かかる、麻疹のようなものだよ。二、三年したら枕に顔を埋めてジタバタするかもしれないけどね。
それで上手く行っているなら口を出すべきではないのだ。
霊視封じの数珠が、私の左腕で小さく鳴った。
◆腕
向日葵の景趣の中にゆらゆらと手招きする腕がある。陽炎にまぎれて、腕、だけが。
◆戦争(場合による)
本丸に降りたのは秋の初め。口上を述べ、審神者の応えを貰い、さて先ずは同派へ挨拶だろうかと思っていると、新しい主が口を開いた。
「さっそくで申し訳ないのだがお聞きしたい」
何やら切羽詰まった様子である。
「あなたは、その、芋煮にこだわりはあるか?」
芋煮。意図がわからない。わからないなりに、無いと答えれば思い切り安堵された。
無いならいいのです、と言われて曖昧な笑みを返しておいた。
……
数日後に開催された芋煮会。東北に縁深い刀たちの熱の入り具合に初めてのドン引きを経験するとともにその質問の意図を察することになったのだが。
◆我らの楔、われらの重石
主は武将ではない。聖人でもないし、武道や陰陽道、神道に通じているわけでもない。嬉しければ笑い、悲しければ泣いて、怒ることもあれば不機嫌なこともある。只の人だ。
それが、主である。我らを人のように扱い、気遣い、労う、主。我ら刀の今生の持ち主。その命のなんと脆く、儚く、綺羅綺羅しいこと。
この人の子への愛しさを重石に、我らはこの世で戦うのだ。
◆思い出話
怖い話がききたい?そうだなぁ、俺の話でもいいか?
じゃあずっと続いてる怖い話だ。
最初は審神者になってやっと落ち着いてきたころ。本丸の庭を探検したんだ。ほら広くて屋敷から遠い辺りは行ったことなかったから。
何かあったかって?花を見つけたよ。故郷でよく見た花。懐かしくて、1輪切って広間に飾ったんだ。思い出話を刀に聞かせてさ。
次の日、花瓶ごと無くなっていたよ。刀達は知らないって言うんだ。不審には思ったけど、まあいいか、ともう一度切りに行った。
花は、手にはいらなかった。沢山咲いていたはずの一画が、きれいに均されてなんにも生えてなかったから。掘り返したばかりの土の匂いがしてたな。
…
これも、刀達は知らないと言った。
そんなことが、度々あるんだ。風鈴の思い出を語れば風鈴が、祭りの風習を語ればその道具が。着任前から使っていた万年筆もいつの間にか無くなった。
俺が思い出を語れば語るだけ、モノが本丸から消えていく。
うん、刀が審神者の持ち物に嫉妬するっていうのは聞いたことがあった。だから、口に出すのをやめた。
でも、それでもモノが消えていくんだ。少しでも大事に思ったものが。全部、全部。
誰にきいても知らないと言うんだ。
そんなはず、ないのにな。
なあ、怖いだろ?
◆政府怪談1
時の政府第二庁舎の第三資料室、一番奥の検索端末は、審神者は使用禁止である。
付喪神化しかかっているその端末は、操作した人間の寿命と死因を勝手に教えてくれる。それをみて、失踪したものがいるという噂だ。
なぜ撤去されないか?時の政府に何らかの思惑があるのだろう。
◆木を隠すなら
こんなに沢山、審神者って必要なのかな。そう呟いた友人が消息不明になった。らしい。
たまたまデスクに貼っていた数枚のメモからの推測だ。その友人のことを、私は何も覚えていない。
◆九十九
いくらツクモと言ったって、刀が一足飛びに人の形をとれる訳がないだろう。
その身を持って形を与えたヤツらがいるのさ。
「トオトイケンシン」ってやつだ。
◆濡れない地面
雨の降る庭をぼんやりと見ていたら、妙なことに気が付いた。鯉の泳ぐ池の端、橋のすぐ横のあたりだけ濡れていない。
木の枝でもうまく掛かっているのかと上をみてもそんなことはない。
長年審神者なぞやっていると、この程度では驚かなくなる。害のある現象なら刀たちが気づいてくれるだろうと放って置くことを決めた。
◆濡れない地面 その後
雨が降るたび、池の端には濡れていない部分が現れた。何度目かの時、眺めているのを近侍に気づかれた。
「片付けますか」
え、なにかあるのかい。
「あるというか、います」
悪いものかい。
「いえ。雨の間、いるだけのものです。慈悲を頂けるのならあのままに」
ふぅん
……
そういうならそのままにしよう。ああ、それなら濡れっぱなしは気の毒な気もするね。傘でも貸してやろうか。
「主が許されるのであれば」
誰のと決まってないのがあったろ、出しておやりな。
近侍が濡れない地面の上方へ差し出した傘が、ふわりと浮く。人がさしているような角度で止まっている。
「喜んでおりました」
そうかい
「雨の中の美人というのも風情ありますが、傘をさして微笑む美人もなかなか」
お前、そのままにっていうのはそういう?
今でも雨が降ると濡れない地面は現れる。
橋の袂には面白がった刀たちが置いた色とりどりの傘。雨が降るとそこから一本が選ばれ、ポンと開かれる。
雨の中、時々くるりと楽しそうに傘を回す美人(未確認)が私の本丸にはいるのだ。
◆こんのすけ
AI搭載の機械のボディに、本丸に入るための霊的資質として管狐を降ろした「こんのすけ」。
刀の付喪神や審神者と本丸で過ごすうち、AIと管狐の性質が混じり合い、科学技術とオカルトのハイブリッド体として進化を続けている。年数を経るほど霊的資質が勝ると推測されており、制御に不安の声も。
って話を考えたんだけど、実際どうなんだ、お前。
「田村屋の最高級お揚げを積んでくださいましたらお答えします」
…
そのモチモチした腹に機械が入ってなさそうなのはわかったよ
◆それはそれ、これはこれ
22xx年。審神者が本丸の外に赴く場合、護衛として刀剣を伴う事が許可された。これにより審神者が政府主催の懇親会に近侍を連れて参加するようになった。
会場では、政府広報部隊の撮り下ろしポスターにはしゃぐ審神者と、「いや隣にいるし
……
」と解せぬ顔の護衛男士という図がよく見られた(審神者録p153)
◆思い出になる日
ウチの主は大ベテラン。戦績も良いし人柄も良い。
キリリと采配してる時なんかとっても格好いい。
でも、時々懐かしくなる。初めて部隊が敗北したときの泣きべそや、危なっかしい手つきの手入れ。
進路を決められずちょっと待ってと言われて半刻も待ったこと。
いつか懐かしく思ったことすら懐かしくなる日が来るんだろうか。
◆扉問答
主殿、そろそろ切り上げたらどうだね。
近侍にそう声をかけられて、もう随分遅い時間であることに気づいた。ありがとう、終えるよと返そうとしたとき。ばんっ!と廊下側の襖が叩かれた。
「主」「開けてください」「大将」「何かあったのか」「開けて」「開けなさい」
バンバンと叩かれる襖。私を呼ぶ刀達らしき声。
噂では聞いたことがあった。夜中にやってくる怪のもの。開けてはいけない。応えてはいけない。
もし開けてしまったら命はない、と。
ミシミシと襖が揺れる。
大丈夫だ、落ち着いて。と近侍の低い声。
私を庇うように立つ、黒い羽織の背しか見ないようにする。
「あるじ」「離れて」「開けて」「開けて」「あけて」
バンッ!と一際大きく叩かれて、思わず身を竦ませた瞬間。
「うえですよ」
天井から降ってきた白いものが、ぞん、と近侍を頭から2つに割った。同時に襖が破られる。雪崩込んできたのは私の刀達。
「ぶじですね」
よかった、と息をつく私の白い初鍛刀。
「心配した」「良かった」「もう!」「良かったです」
刀達の声を聞きながら、呆然と近侍がいたはずの場所を見る。二つに割られた近侍は、折れてしまったのかもう姿がない。
そんな、と近侍の名を呼ぼうとして凍りつく。
名が呼べない。
そもそも、主殿と私を呼ぶ黒い羽織の刀なんて、いない。さっき確かに見たはずの顔すらわからない。
「あれは、かげがつどっただけのもの。かんぜんにはけせません」
「だから、よふかしはだめですよ。あるじさま」
◆時の政府直轄地Z-99
やあ、君、ずいぶん荒らしたね。度胸だめしか。
ああ、逃げなくていいよ。そのままで。
ねえ、霊的能力に優れた人間が何かを恨みながら死んだらどうなるか知ってるかい?
……
怨霊、たたり、呪い、そんな風に呼ばれるものになってしまうんだ。
震えてるね、寒いかい?
うん。君が今足をかけてるその石ははね、怨霊になった審神者たちを鎮めるための塚だよ。
僕の主も、そこにいる。
審神者制度の最初のころにね、それまでの世界を突然奪われて、むりやり戦争をさせられた人。政府を、刀を、恨んで、恨んで、恨んで。危険分子として処分された可哀想なひと。
ほら、地面が揺れてる。主達が起きたんだね。せっかく静かに眠っていたのに。悪いけど気晴らしに付き合ってあげて。その土のしたで、主達が満足するまで永劫に、ね。
◆洋楽
特徴のある本丸の話を聞くのって楽しいよね、ウチは普通だからと笑う審神者。
普通ねぇ。常に洋楽が流れている本丸というのも十分特徴的だと思うのだが。神社住まいの刀がニルヴァーナを聞いてる所なんてなかなか見られない。
◆互助会が存在する
農業にはまる本丸は多い。娯楽の少ない半軟禁家業で、体力を有り余らせている戦闘職の男が沢山。主から凝り性な気性を貰っていたりすると本職並みの知識を仕入れていたりすることもあったりして。
そして当本丸も先日よりにわかに農業ブームで。
「僕言いましたよね」
正座させた刀達を前に言う。
「収穫量を考えなさいと。食べきれる分にしなさいとも」
本丸は付喪神を養うのに最適な呪と最新技術で構築されている。そのおかげで作物の成長速度が異常に早いのだ。
そんな本丸で全力農業したらどうなるか。その答えが僕の後ろにある。ずらりと並ぶ生果市場もかくやという数のコンテナ。中身はツヤッツヤのトマト。全部トマト。
いくらトマトが生食も加工もできる便利野菜といえど、トマトばかり食べ切れたものではない。
バツ悪げな刀達に溜め息をつく。
「今回は、譲り先のアテがあります。今回だけですが」
「次回やったら消費しきるまで食べ続けますからね」
はあい、とこんな時ばかりはお行儀よく揃う返事を背に通信端末を取り出し、メッセージを書き込む。ありがたいことに返事が複数、すぐに返ってきた。
それを受けて荷物の転送申請、同時に先方からの申請を許諾。 それを数度。
トマトのコンテナが端から消え、代わりにりんごに大根、アスパラ、その他色々のコンテナが出現する。
つまりは同じようなやらかし系農業男士を抱えた本丸同士で物々交換だ。これなら、献立の工夫でなんとかできる。しばらく野菜ばかりで一部がブーブー言うかも知れないが。
「もう一回言いますね、今回だけです」
はあい、とまたお行儀よい返事を聞きながら、『ありがとう、またお願いします』と手元の端末には打ち込む。絶対にまたやらかすからね。なんだかんだ主というのは男士に甘いものなのである。
◆月
基準日時では今日は皆既月蝕らしい。
そんなことを話していたら、政府とつながる小型質量転送器ー通称、受取箱ーーがゴトンといった。
もう今日は出陣も遠征もしていない。不審に思いながら転送器を開けると、覚えのない、しかし見覚えはありすぎる刀が一振り。
「主」
影が落ちる。
「月になにを思う?」
紅葉散る秋の庭だったはずなのに。刃のような三日月が空に。
ケンと管狐の鳴き声がした。
◆こんのすけ 2
主さま、そんな目で見ないでくださいまし
確かに初めてお会いしたとき、私に感情といえるものなどごさいませんでした
あなた様に敵を屠らせる、それだけが役目で、目的でございました
初めての出陣で傷ついた初期刀殿に泣きながら詫びるあなた様に、なんっの感慨も持たなかったのも事実でございます
でも、それでもです
不思議なことではございますが
皆々様と過ごした数年、管狐の身にも短くはないこの数年で、私も変わっているのでございます
今、私は悲しいと思っております
寂しいとも思っているかもしれません
私の使役主は政府でも、あなた様がお仕えする主であることも本当なのです
この本丸の皆々様がご健勝であられますこと、それが今の私の願いなのです
この思いも、願いも、植え付けられた電気信号だとおっしゃいますか
悲しくはございますが私は
ぺん、と軽く頭を押さえられる。
「お前なあ、広報部隊のこんのすけを可愛いと誉めただけでその長口上、それでお供狐あたりに泣きつくんだろ、あとでオレが怒られるのまで計算しやがって」
はぁ、と溜め息は降ってくるが暖かい手は頭から離れず、わしわしと撫でてくださる。
「ウチのこんのすけはお前だろ、不満はねぇよ」
ほら、そろそろ夕飯だ、と私を抱えて立ち上がる主さま。
悲しさなんて知らなかったのも。
皆々様の幸福を願うのも。
本当のことなのでございますが。
この暖かさに免じて、キュウと甘えてごまかしておきましょう。
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