さちこ/Sharia
2024-05-08 13:06:15
2024文字
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ある夜の話

ド10バージョン6.0のおはなし

神化の儀、当日の早朝。まだ朝日も登っていない頃。
なんだか眠れなくて、私はフォーリオンの入り口、気が遠くなるほど長い外階段で女将さんがくれたホットミルクをちびちびと飲んでいた。

やっと平和になって、姉さんとのんびり世界中を旅しようと考えていたのになぁ。これがなかったら今頃ジュレー島辺りを散策していただろうに。
何も分からないまま天星郷へと連れてこられて、ルティアナ様が死んだ原因だの大魔王だのと蔑まれ、試練を受けさせられたと思えば今度は神になれときた。

ふざけるな、と思った。
ようやく姉さんと同じ時を生きられるというのに自ら遠ざかる馬鹿がいるものか。
それに、私は英雄ってガラじゃない。
救えたはずの命だってたくさん取り落としたし、目立った長所があるわけでもない。聖人君子でもないし、特別強いわけでもない。
道行く天使みんなが口を揃えて言う。何故私なんかが英雄に選ばれたのか。
……そんなの私が聞きたい。

(あぁ、でも、こんな私が役に立つなら……みんなの笑顔が見れるなら)

神にされても、いいかもしれない。
そう思った矢先のことだった。
晩ごはんの時、みんなに神になるべきかと聞いて回った。

『どうか盟友さまは悔いのないご決断を』
『サッチさん自身が神になりたくないなら、ならなくていいと思うよ』
『まだ時間はあるのだ。しっかり考えなさい』
『あなたはまだ生きているのですから』

みんな口を揃えて「お前が決めろ」と、そう言った。

(私が決めていいんだ)

今までは選択の余地もなかったから、みんながそう言ってくれたのは意外だった。英雄なら腹括れくらいは言われると思っていた。
私ったらすっかりイエスマンになっていたんだな。
これ以上都合のいい存在でいてたまるか。何がなんでも明日の儀式は出ないんだから。
調子に乗ってまだまだ残っているホットミルクをグイッと煽る。当然熱すぎて舌先が火傷のピリつきを伝えてきた。
ふと、背後の扉がガチャリと開く。

……あれ、当代じゃないか。こんなところに座ってたら冷えるよ」

「レオーネさん」

宿から出てきたのは初代盟友であるレオーネさんだ。
当たり前のように彼はストンと隣に座り、寒いのかふるりと震えてから肩に羽織った毛布をギュッと引き絞った。

「寒いね。上空だからかな」

「それもそーだけど、この時期のレンドア近海は冷えますからねぇ」

ラッカランの方ならあったかいんだけど。
それに、レオーネさんは……その、随分と寒そうな服装をしている。
なんだか見ていられなくなって、上に羽織っていたケープを毛布の上からそっと彼に被せた。わたしはまだジャケットもベストもあるから暖かいのだ。
レオーネさんはにっこりと笑って「ありがとう」と頭を下げた。
ついでにまだ半分ほど残っているホットミルクを差し出す。

「どーぞ。おいしーですよ」

「いや、流石に悪いからきみが全部飲みなよ」

やんわりとマグカップを押し戻され、渋々と全て飲み干す。
そういえば女将さん、世話できる生者が来て嬉しいって言ってたな。天使達にとって食事は娯楽程度でいいらしいから。
私は3食しっかり食べないと力でないし、寝ることだって必須。対して生前の習慣で食べはするけど寝なくても良いレオーネさんはパッチリと目を開けている。
そんな先輩殿を尻目に、父さんと揃いの剣を抱えて目を擦った。
ふと、レオーネさんが私の名前を呼ぶ。返事をしたら「さっき聞いたことと似ているけど」と、一つ問いを投げられた。

「君は、盟友になって後悔したことはあるかい?」
「ないですね」

ノータイムで返答を送ると、空色の瞳がまん丸になった。
当たり前だ。何を後悔することがあるのだろう。
村が滅んで、仇もうって……呆然自棄になっていた私を救ってくれた、あの優しい女の子を……私の勇者を堂々と助けられる立場であるというのに。

「あの子の笑顔を守れるなら、私は何度だって盾になってみせる。私の勇者を絶対に守ってみせる。そこに後悔なんて1ミリも入る隙はないよ」

固い、硬い、堅い盾を。
ホーロー様にも歴代一と褒められた私の盾は、あの子を守るためだけに使うと決めた。

「レオーネさんは違うの? 後悔した?」
「俺は……

レオーネさんは黙り込んでしまった。
……無理もないか。私と違ってレオーネさんはアシュレイさんと兄弟だったから“盟友であれ”と強制もされていただろうし。

……もう、夜も遅いし。君は寝なよ、当代」
「えぇー?まだ起きてられるよ」
「寝・な・さ・い!」

軽々と持ち上げられ、地面に立たされる。
まだ眠気なんか全く来ていないのに。そう強がって、少し恨みがましく初代を見上げた。
てっきり笑っているのかと思ったら。




「君は、まだ生きているんだから」





私たちの始まりは、なんだかとても寂しそうな顔をしていた。