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夜明 奈央
2024-05-06 14:58:12
2197文字
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中太SS
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目に見える愛情
風邪を引いた太宰を看病する中也(太宰の探偵社愛され要素強め)
2024年5月4日初出
「ねつ、39ど」
目を覚ますと、太宰から簡潔なメッセージが届いていた。発信時刻は今から30分程前。そんな余裕がなかったのかただ面倒だっただけなのか、まともに変換すらされていなかった。いくら太宰とはいえ39度の発熱となればしんどいだろう。わざわざ連絡してきたということはSOSのつもりか。
太宰の部屋には生活感がない。冷蔵庫に酒と調味料以外が入っているのをほとんど見たことがないし、煎餅布団はとてもではないが寝心地がいいとは言えない。太宰は自分のことに頓着しないから、食べる物どころかまともに寝ることさえできないかもしれない。
すぐに電話を掛けると、長いコール音の後、ようやく繋がった。
「おう、生きてっか。なんか買ってく物とかあっか?」
「いい」
「あァ?」
「同僚が来てくれる」
「そうか。任せて大丈夫なのか」
「うん」
太宰の声は酷く掠れていて低く、元の面影は感じられない。淡々と必要最低限しか喋ろうとせず、普段のよく回る舌はどこかへ消えてしまったらしい。長く喋らせるのが申し訳ない気持ちになって早々に通話を切った。
同僚、ということは、探偵社の誰かだろう。直接話したことはほとんどないが、表の世界でぬくぬくと生きる仲良しこよしの集団だ。「来てくれる」というからには、看病は任せても大丈夫だろう。そういえば、探偵社には医者もいたはずだ。
中也にだって一般的な看病をすることはできるが、出勤前に立ち寄るとなればそう長い時間滞在することはできない。仕事もあるし、探偵社のメンバーに出会さないように気を遣う必要もある。なら、そちらへ任せた方が間違いないだろう。
後で様子を見に行こう、とだけ心に決めて、中也はいつも通りに身支度を整えて予定通り本日の仕事へと向かった。
◇ ◇ ◇
普段より早めに仕事を終えて、太宰の住む寮へと向かった。通勤ラッシュにかかる程早い時間ではないが、人通りがなくなる程遅くもない。余計な詮索をされないように気をつけながら探偵社の寮に近づく。とうに日は暮れているから、遠くからでも太宰の部屋の灯りが消えているのがわかる。太宰の同僚とやらとうっかり中で鉢合わせる心配はなさそうだ。
ドアノブを引くと、すぐに何かに突っかかるような手応えを感じた。太宰の部屋にしては珍しく鍵が掛かっているようだ。同僚が掛けさせたのだろう。念のため合鍵を持参していて良かった。
扉を開くと中はしん、と静まり返っている。人の気配は感じられるから、寝ているのだろう。一歩足を踏み入れたところで、何かを蹴飛ばした。起こしてしまうかもしれないと一瞬躊躇ったが、これ以上被害を広げるわけにはいかないと思い直して灯りを点けた。太宰の部屋は物が少ない割に様々な物が床に散らばっているのだ。電灯に照らされて、先程蹴った物が封を閉じたゴミ袋であることを知って安心する。
足を踏み入れると、床には案の定ほとんどゴミのような物があちこち散らばっていた。それを避けながら中へ進んでいくと、部屋の中央で太宰が大人しく寝ている。その周りには、同僚が準備したのだろうスポーツドリンクや粥の盛られた椀が並んでいる。粥はほとんど手をつけられていない。そっと近づいて、枕元に座った。
額には汗が浮き、貼られた冷却シートはもうかぴかぴに乾燥している。湿った前髪を撫でてやると、太宰が重そうに瞼を開いた。
「調子はどうだ」
「朝よりはまし」
指先に触れる太宰の額は、普段よりも高い熱を伝えてくる。布団の端に体温計が落ちているのを見つけて差し出すと、太宰は大人しく脇に挟んだ。
「飯は食ったのか?」
「多少」
「食わなきゃ治るもんも治んねぇだろ」
近くに買い物袋を見つけて中を検めると、レトルトの粥に混ざってゼリー飲料や林檎が入っていた。ありったけ思いつく物を買ってきたという感じだ。「食えそう?」と見せると、渋い顔をしているから難しいのだろう。
冷却シートの箱を見つけて、太宰の額の上のシートを新しいものに取り替えてやった。そこでちょうどよく体温計のピロリロと軽快なメロディが鳴る。37.8℃。本人の申告通り朝よりはましになったようだが、まだ快復したとは言い難い。太宰は平熱が低いから、十分熱が高いと言っていい部類だろう。
冷蔵庫を見に行くと、相変わらず中身は心許なかったが、冷凍庫にはカップアイスが入っていた。太宰本人は絶対買わない味だから、同僚が買った物だろう。
「アイスあったけど食える?」
「ちょっとなら」
スプーンと一緒に差し出すと、太宰はのそのそと起き上がってゆっくりと口に運んだ。その後、時間をかけて咀嚼するのを横で見守る。
「冷たくてきもちい」
「それは良かった」
緩慢な動作ではあるが次のひと口を口に入れている。これならなんとか食えそうだ。それをのんびりと眺める。
枕元に並んでいる飲食物は全部同僚とやらが買ってきた物だろう。体温計がこの家にあるとは思えないから、おそらくはそれも。至れり尽くせりだなと思う。傍らに折り鶴まで置いてあるのを見つけた。
「手前、愛されてんじゃねぇか」
「そういうこと言わないでくれるかな」
嫌そうに顔を顰めるあたり、どうやら自覚はありそうだ。熱で苦しんでいる間くらいは嫌がらせはやめてやろうと思って、それ以上は突っ込まないでおいてやった。
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