中也と太宰の家の家事分担は大雑把に決められている。皿洗いは中也だが洗濯は太宰だとか、食事の支度は先に帰ってきた方だとか、消耗品の買い出しは週末に2人で行くとか、そんな感じだ。
けれどどうしてもやりたくない家事というものは存在するし、かといってお互い不規則な生活なので、当番制にするのも些か不都合がある。1人なら自分がやるのも仕方ないと思えるのだ。相方がいるからどうしてもサボりたくなってしまうだけで。
そんな“やりたくない”家事の筆頭であるトイレ掃除は、紆余曲折の末ゲームで決めることになっている。内容はジェンガだったり金転がしだったりとその時々で変わり、基本的にはどちらかが飽きたら変わるシステムだ。ゲームを決める際のルールはただ一つ。“極端にどちらかが有利なゲームは禁止”。それだけだ。
最近は黒ひげ危機一髪だった。黒ひげを飛び出させた方が勝ちで、負けた方がトイレ掃除。シンプルなルールだ。これがどうにもおかしい。黒ひげ危機一髪は前回のビンゴに飽きた頃、中也が提案したものだった。実際、最初の数回は特に違和感はなかった。しかし、気づけば太宰が5連勝。何かある、と思わざるを得ない。
ちょっと調べてみれば、答えにたどり着くのはすぐだった。あるではないか、攻略法が。むしろこんな簡素な作りの玩具にそれが存在しないと思っていたのが莫迦だった。太宰が知っていて提案を受けたのかどうかはわからないが、間違いなく今はこれらの攻略法を使っているだろう。
となると、中也の取れる手段は2つだ。太宰の不正を暴いて勝負の方法を変えさせるか、これを逆手に取って自分に有利な勝負に持ち込むか。太宰がそう簡単に不正を認めるとは思えないし、第一それは中也の敗北宣言だ。当然中也が取るのは後者に決まっている。
黒ひげ危機一髪の攻略は、“前回の当たり場所”がわかっているかどうかが鍵のようだった。それと黒ひげの位置関係で、かなりの高確率で次の当たり場所を予測することができる。であれば、最も簡単な手段は前回の当たり場所を中也のみが知っている状態にする――つまり、太宰の知らない間に中也のみで一戦やっておく――が有効であろう。一緒に住んでいるとはいえ、1人になる時間は少なくない。難しいことではない。
早速次のゲームの際に実践した。効果は抜群で、中也は無事勝利を収めた上、太宰の舌打ちまで引き出した。完全勝利といえよう。
気分は上々。これでしばらくはトイレ掃除から解放される。不正で中也に押しつけていたのだから、ちったあ大人しく掃除に励みやがれ。
そう思っていたのだが、その次の勝負であっさりとそれは覆された。ふふん、と得意気な笑みを浮かべる太宰を見て確信した。太宰も中也の小細工に気づいたのだ。そこから水面下での攻防戦が始まった。
如何にして相手より後に黒ひげゲームをやるか。箱の閉まり具合や位置を逐一チェックし、相手が動かした気配を察知しては次回のゲームまでの間に1人こっそりと黒ひげを“救出”する。もしくは、それができなかった場合如何にして相手を出し抜くか。
攻防は意外にも白熱し、多い時には1人で二十回近くゲームをする羽目になった。ちなみにトイレ掃除決めゲームは週に1度だ。
その結果、黒ひげ危機一髪はトイレ掃除決めゲームとして採用された期間が最長となった。
が、どんなものにもいずれ飽きというものはやってくる。お互いに徐々に熱が冷め、1人でゲームをするのも気づけば週1〜2回程度に落ち着いた頃、太宰が「そろそろ別のにしない?」と言い出した。中也が負けた直後だった。
「なんか候補あんのか?」
「紙相撲でどう?」
太宰は事前に考えていたようで、すんなりと次のゲームを提案した。
「紙力士は“折り紙1枚”を使って各自用意。もちろんゲーム中は私と手を繋ぐこと」
中也の重力操作が有利に働くゲームでは必ず付与されるルールだ。
「折り紙1枚ってのは、当然同じ種類だよな?油に浸して重くするとかはなしだよな?」
「君がそう言うならそうしようじゃないか」
にんまりと笑う太宰は何か必勝の心得があるらしい。紙力士が自作ということは、勝負はもう始まっている。かつて紙飛行機の飛距離を競っていた時と同じだ。こういった場外駆け引きの要素が大きい勝負の方が俄然やる気が出るのは太宰の影響か。
「よし、その勝負乗った!」
こうしてしばらくは紙相撲に夢中になることが決まったのだった。
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