太宰が姿を見せるようになってから、ポートマフィアと探偵社が共同で仕事を行うことが増えた。芥川にとって、また太宰と仕事を共にできるようになったことは僥倖であったが、不満もある。
「僕 が全て切り刻む」
「だーかーらー! それじゃダメだって言ってるだろ!?」
芥川のやることなすことにいちいち口を出してくる敦だ。太宰は芥川と敦を組ませるのを好んでいて、事あるごとに2人で協力するように仕向けてくる。
太宰の指示なら喜んで従う。だが気に入らないものは気に入らないのである。
「はいはい、ストーーップ! いつまでも喧嘩しないの」
今にも掴みかからんばかりの言い合いをしていると、背後から近づいてきた太宰に間を引き裂かれた。意思を持って動いていた黒獣はぱたりと力を失ってただの黒外套に戻り、虎の形をしていた敦の左手も人間のものに戻った。太宰の無効化が発動したのだ。
後ろには中原も控えている。太宰と一緒に来たらしい。お互いに嫌いだと豪語しているが、相変わらず仲が良い。
「はあ、ったく。喧嘩する程仲が良いとは言うけど、止めるこっちの身にもなってほしいものだよ」
「僕 は太宰さんたちとは違います!」
太宰の呆れた物言いに反射的に否定の言葉を返してから、すぐに自分がやらかしたことに気づいた。
太宰の瞳がすっと細められ、先程までの柔和な笑みが消えた。中原にもぎろりと睨まれる。
どくりと心臓が大きく脈打つ。周囲の音が消え去った気がした。おそらく状況を理解していないだろう敦までもが、異変を察知して強張った顔を浮かべている。
「ちょっと、私がこのチビと仲良いみたいに言うのやめてくれる?」
「誰がチビだ! しかし太宰の意見には同感だな。誰がこのポンツクと仲良いだって?」
「いえ、その、そういうつもりではなく」
弁解を図るが、おそらく届いてはいない。険悪なムードが漂い、体感温度が下がった気がする。背中にツーっと冷や汗が伝い落ちた。
気づけば太宰と中原は芥川そっちのけで言い争いを繰り広げている。芥川ひとりではこうなった太宰は手に負えないので、この場に中原がいてくれたことはせめてもの救いだろうか。
芥川が密かに胸を撫で下ろしていると、いつの間にか太宰と中原がにやにやとした笑みを浮かべていた。
「しっかし、あの芥川がねえ? 師弟揃って似た者同士ってか?」
「ちょっと、一緒にしないでくれる?」
「似たようなもんだろうが」
会話の雰囲気で、何か勘違いされているということだけはわかった。ほとんど聞き流していた所為で太宰と中原の間でどういう会話があったのかはわからないが、何をどうしたらそんな勘違いが生まれるのだ。
太宰と中原がお互いに嫌いだと豪語しているのはほとんど建前で、その実相棒以上の深い仲にあるというのはマフィア内では有名な話である。だがそれと芥川を一緒にされては堪ったものではない。
芥川は敦のことを嫌っている。これは決して太宰と中原の間にあるようなそれではない。断じてない!
けれど敦は全く状況を理解できていないらしく、呑気に「どうかしたんですか?」などと会話に参加していて、芥川は卒倒しそうな気分だった。
「いえ、ですから僕 は違うと!」
「らしいよ、敦くん?」
「だから何がです?」
意味深な笑みを向けられても敦には伝わっていないらしい。元々持っていた敦に対する殺意が増幅する。
無知がこんなにも無敵だとは思わなかった。必死で否定をするも、結託した太宰と中原は聞く耳を持たない。先程まで元気に喧嘩していたはずではなかったのか。“喧嘩する程仲が良い”をこれ程までに体現している者たちもそう多くはないだろう。
ここには敵しかいないのか!
芥川の嘆きは一切届かず、できるのは太宰と中原が飽きるまでただ無心で待ち続けることだけだった。
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