夜明 奈央
2024-05-06 13:41:12
1675文字
Public 中太SS
 

ワンライ「手紙/退屈」

たぶん学ストではない高校生パロ 授業中の楽しみ
2023年9月9日初出

 滑らかな手つきで数式を書き連ねる教師を見ながら、太宰は小さく欠伸を溢した。
 あまりにも退屈だった。学校の授業なんて、いつだってそうだ。そんなこと、わざわざ説明されなくてもわかるだろうという内容を懇切丁寧に説明される。学年が上がって英語と数学は習熟度別の授業になったから、少しはましになるかと思っていたのにそれまでと大した差を感じることはできなかった。それどころか、教室を移動する所為で自分の席ならできる読書や内職といったこともしにくくて、むしろ退屈は増したぐらいだ。
 あまりにも暇で、机の木目をじっくりと観察していると、何やら落書きがあることに気づいた。今太宰がいるクラスの担任の似顔絵だろう。太宰も古文の授業で顔を合わせている。特徴をよく捉えていて、なかなかの出来だった。
 誰の机だろうか? 気になって机の中身を覗くと、「中原中也」と名前が書かれたノートや教科書が出てきた。なるほど、中也の机だったのか。前回までは他の人の机に座っていたから、席替えをしたばかりなのだろう。これは次回から少しばかり楽しみができた。
 中也は普段は別のクラスだが、習熟度別のこのクラスでは同じ教室にいる。右斜め後ろにいる中也の様子を窺うと、何やらノートに熱心に書き込んでいた。しかし、中也だって真剣に授業を聞くようなタイプではない。どうせそれも落書きの類だろう。
 そう思いながら、似顔絵に小さく文字を書き足した。
「似てる」

 理系の太宰には、数学の授業は毎日ある。翌日その席に座った太宰は、授業が始まるのを待ってじっくりと机の上を探した。前回あった似顔絵も太宰のコメントも消えていて、代わりにほとんど同じ位置に太宰のクラス担任の似顔絵が描いてあった。
 こちらもよく似ていたが、前回に比べて随分と悪意が感じられる。頭には角が生え、バックには黒いオーラと雷を背負っている。生徒から嫌われてクソババアで定着している教師なので、中也の気持ちは大変よくわかる。面白かったので、近くに小さい棒人間を描き足して、矢印で「中也」と追加した。
 翌日また同じように机の上を確認すると、大きくなった中也に踏み潰される太宰の絵が描かれていた。太宰、と言っても包帯まみれの腕しか見えないので、おそらく、だが。あまりに小さな仕返しだった。
 どうしようかしばらく悩んで、中也の頭の髪の毛だけを消しゴムで消した。余分に消えてしまったところに少しばかり線を描き足せば、つるっぱげ中也の出来上がりである。ついでに踏み潰された太宰らしき部分も消しておいた。
 そういうやり取りが、授業の度に続けられた。合間に「英語の小テスト勉強してない」なんていうどうでもいい呟きが書かれていたのをきっかけに、いつの間にか似顔絵は消え去って、ただの文字のやり取りになった。
 かと思えば突然絵しりとりが始まって数回であっさり終了したり、思い出した頃に何故か某子供向けのパンのヒーローが描かれていたり。太宰が学校に来る、小さな楽しみになった。

 その日も太宰は小さな楽しみを抱えて習熟度別授業のクラスに向かい、すぐに今までと異なることに気づいた。なんのことはない、席替えである。1ヶ月に1度定期的に行われるから、いずれこんな日がくることはわかっていた。
 ああ、あれからもう1ヶ月も経ったのか、と柄にもないことを思った。自分でも思った以上に楽しみにしていたらしい。
 落胆した気持ちを抱えて、いつもの指定の席に向かう。場所は同じだが、机は別人のものへと変わっている。机の上にはノートの切れ端が置かれていて、なんだろうと思ってひっくり返すと、見慣れた文字でいつも通りのくだらないメッセージが書かれていた。
 ハッとして周囲を見回すと、中也は教室の隅で同級生と馬鹿話で盛り上がっていた。一瞬だけ目が合ったから、太宰の様子には気づいているだろう。けれどそれ以上何か言うつもりはないらしく、すぐに目を逸らされた。
 周囲に気づかれないよう、くすりと笑った。どうやらこのやり取りは、まだしばらく続くらしい。


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