中也が風呂から出ると、入る前にはいなかったはずの太宰がいた。見慣れた光景を一瞥するだけで言葉を交わすこともなく、風呂上がりのアイスを堪能するべく冷凍庫からソーダ味の棒付きアイスを1本取り出す。パッケージを破ってゴミ箱に捨て、流れるように太宰の座るソファへと向かった。
風呂上がりのアイスをソファで堪能するのは夏の間の定番だ。
だが、いつものように太宰の隣へ座ろうとすると、その直前で「うわっ」と嫌そうな声が上がった。
「なんだよ」
「君、近づくだけであっついんだけど」
太宰は大げさに顔を歪め、ソファの反対側の端へとわざとらしく遠ざかった。
「ふーん」
アイスに齧り付きながら太宰の方に身体を寄せると、肘掛けに半分乗り上げる程遠ざかる。そのくせ、ソファから降りようとはしない。
その姿がおかしくてくつくつと笑いが零れる。太宰が顔を顰めるのを眺めながらアイスを2口、3口と食べ進めた。
「ちょっと、自分だけずるい」
抗議の声が聞こえたので、残ったアイスを太宰の口へと突っ込んだ。ひと口には些か多いそれで静かになるかと思いきや、太宰は何やら意味のわからない言葉をもごもごとわめいている。
それを無視してローテーブルの上のリモコンに手を伸ばし、エアコンの温度を2度下げた。
まだ口いっぱいのアイスを咀嚼している太宰から端末を取り上げてソファの下へと放り投げ、流れるように首筋へと齧り付く。
太宰はぐいぐいと頭を押して距離を取ろうとするが、そんな抵抗あってないようなものである。攻防戦は中也の圧勝。あっという間にズボンのベルトを討ち取ることに成功した。
「だから、あついんだってば」
ようやくアイスを飲み込み喋れるようになった太宰が文句を垂れる。
「なら包帯取れよ」
「君が離れる方が手っ取り早い」
「そんな嫌がられると燃えるだろ」
「あくしゅみ」
「手前にだけは言われたかねぇな」
舌戦の間も中也は手を止めないし、太宰が力づくで勝てるわけもない。それでも抵抗は収まらなかった。だが逃れようと苦慮しているうちに、肘掛けに乗っかっていた身体はバランスを崩してひっくり返った。
「いったぁ!」
「大丈夫か?」
頭を床に打ち付けたらしい。
中也は心配する振りをして頭を抱えて悶える太宰を覗き込み、そのままズボンを剥ぎ取った。
「一時休戦じゃないわけ!?」
「はあ? んなわけねぇだろ」
完全にマウントポジションを取ってしまえばこれ以上何をどうしたって太宰に勝ち目はない。本気で嫌ならもっと早くに葡萄酒だのなんだの中也が天秤にかけざるを得ないような切り札を出しているだろうし、エアコンは先程より幾分か涼しい風を送り始めている。
そろそろ諦めるだろう。
「せめて寝台行こうよ」
「やだ。あっちまだクーラー付けてねぇもん」
それ以上言い返すのを諦めたのであろう。黙り込んだ太宰をソファへと引き上げてやった。
太宰の口から零れ落ちたアイスの棒はそのまま床の上に忘れ去られた。
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