夜明 奈央
2024-05-06 13:31:08
781文字
Public 中太SS
 

ドライブデート

運転中の中也の世話を焼く太宰
2023年7月18日初出

「なあ、珈琲取ってくんね?」
 運転中、中也はゆるりと忍び寄る眠気を感じて、助手席の太宰に声を掛けた。長い間会話はなかった。無言を気にするような関係ではないから、時折思いついたことをぽつぽつと話しては話題が途切れるのを繰り返していた。
「えー、どこー?」
 助手席で暇そうに端末を弄っていた太宰は、背凭れに預けていた身体を起こした。どこ、と聞きながらも、伸ばした手は迷うことなくクーラーボックスへと向かっている。
 やがて目的の物を見つけたのであろう、手には中也が先程のSAで買ったペットボトルの珈琲を持っていた。受け取ろうと手を伸ばすと、パキリ、と封を切る軽やかな音が響いた。
「蓋、上に載ってるだけだから気をつけてね」
「あ、ああ」
 予想外の行動に驚いて固まってしまったが、気づかれただろうか。何もなかったように装って受け取り、ひと口飲んでから備え付けのボトルホルダーへ置いた。
 前を向いて、運転に集中する振りをする。けれどじわじわとなんとも言えない感情が湧き上がってきて、口角が上がりそうになる。それを力を入れて引き締める。
 それぐらい、片手でだって開けられるのに。かつて任務のためにこうして二人で遠出した時には、そんな気遣い見せやしなかったくせに。この男が関係が変わったぐらいでこうも態度を変えるのかと、感慨を覚える。実のところそう思うのはもう何度目になるかわからないのだが。
 噛み締めるようにもうひと口飲んで、それから助手席の太宰を視界の隅に捉える。運転中だから顔は正面へ向けたままだ。先程までは真っ直ぐ前を向いていた太宰が、中也に背を向けるようにして外の景色を眺めていた。
「顔がうるさい」
「ほっとけ!」
 バレているならもういいか、と開き直って、顔を引き締めるのはやめた。拗ねてしまった太宰はそれからしばらく口を聞いてくれなかった。


ご感想喜びます / 転載・AI学習禁止