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夜明 奈央
2024-05-06 13:20:50
1978文字
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中太SS
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誘惑
BL字書き用お題ボタン「15RTで風邪を引いた受と世話を焼きにきたのにエロいと思ってしまい罪悪感に苛まれる攻を書いてください」が6RTだったので6/15程度お題を採用して書いた話
2023年6月24日初出
例えば、目が合った瞬間に溢れた笑顔だとか。
例えば、無防備に寄せられた身体だとか。
例えば、耳元で囁かれる毅然とした声だとか。
ただの相棒であるはずの太宰を、性の対象として見たことがある。男だとか、憎たらしい物言いだとか、そんなことがどうでも良くなってしまうぐらいに惹かれる瞬間が確かにある。
けれどそれと同じくらい、ただの相棒として並び立つあいつを汚したくないと思っている。
それらはどちらも、俺にとっての本心だった。
浴室から、水音が響く。リビングと浴室には扉が2枚もあって、距離もある。耳をすまさないと聞こえないはずなのに、つい気になって意識がそちらを向く。
音が聞こえると、勝手に脳がイメージを作り出す。濡れて頸に張り付く髪の筋だとか、骨格の凹凸に沿って流れ落ちる水滴だとか、ほんのりと蒸気した頬だとか。何度か目にしたことがあるその姿は妙にリアリティがあっていけない。
俺の部屋でシャワーを浴びているというシチュエーションもいけない。全然全くそんな意図なんてないつもりなのに、勝手にこの後の展開を期待して、そわそわと落ち着かない気持ちになる。
俺の部屋でシャワーを浴びているからといって、少なくともあいつにそんなつもりはないはずだ。いつものように入水自殺に失敗して、ずぶ濡れで溝の匂いがする身体を洗っているだけ。
俺だってもちろん、そんなこと期待するだけ無駄だとわかっている。わかっていたってそう簡単に止められるものではない。あいつにそんなつもりがなくたって、こっちにはそういうつもりがゼロではないのだから。
蛇口を閉める小さな音が響いた。続いて水音が止んで、それから浴室の扉を開ける音。呼吸が苦しくなって、自分が息を止めていたのだと気づいた。それほど集中していたのだと感じると恥ずかしくなる。
そろそろ出てくるはずだった。何もせずじっとシャワーの音に耳を傾けていたとバレるわけにはいかない。どうにかして誤魔化そうと、キッチンへ向かう。珈琲でも淹れようと思った。特に飲みたいわけでもないが、何かしている方が気が紛れるだろうから。
やがて脱衣所の扉が開いて、太宰が姿を現した。頭にタオルを被っていて、顔は見えない。俺の着替えでは裾や丈が足りず、不本意ながら普段は服に隠れて見えない手首や足首が露出している。包帯が巻かれていない素肌につい目を奪われて、慌てて目を逸らした。きっと替えの包帯も持っていないか、持っていても本人と一緒にずぶ濡れだったのであろう。
珈琲豆を計量するのに集中している振りをする。太宰がこちらを向いていないことを確認してから、もう1度視線をやる。
タイミングを見計らっていたように太宰がこちらを向いて、ばちりと目が合ってしまった。先程はタオルに覆われていた太宰の両目が俺を真正面から捉えていて、どきりと心臓が鳴った。いつもは包帯に覆われている右目が露わになっていると気づいた。
「あのさ、手出す度胸もないなら、もうちょっと隠したらどうなの」
「な、にが」
「えっち」
小さく囁くように続いた言葉に顔がカッと熱くなった。
バレないようにしていたつもりだったが、太宰には知られていたらしい。数多の権謀術数をめぐらし、あらゆる人間を掌の上で転がす男だ。その程度のことに気づかないはずもなかった。
男の相棒に性的な目で見られているなんて、気分のいいものではないはずだ。なんというべきか散々迷って、結局「ごめん」と呟いた。
ぱちんと控えめな音がして、ケトルが湯沸かしを終えたことを知らせてきた。これ幸いとばかりに話題を逸らす。
「珈琲、手前も飲むだろ」
太宰は返事をしなかった。俺も、聞かずに2人分を淹れた。太宰の分にはいつも通りミルクと砂糖をどっさり。ぼんやりとソファに座っている太宰の前に置いた。
さっきの今で隣に座る気にはなれなくてすぐに離れようとしたが、手首を引かれてそこに留まる。掴んだのが太宰の手だなんてことは考えるまでもなかった。
「ダメとは言ってないでしょ」
太宰の真っ直ぐな視線に射抜かれて、気圧されるように隣に座り込んだ。遅れて、これが先程の話の続きなのだと気づく。視線から逃げようとして包帯に覆われていない首筋を認識してしまう。ついそこに釘付けになってしまって、すぐに我に返る。明後日の方向に視線をやった。
「わるい
……
」
「だから、ダメとは言ってないじゃん」
太宰が身を乗り出してきた。慌てて距離を取ろうとするが、2人掛けの狭いソファではそう逃げ回ることもできない。気づけば下半身に乗り上げられていて、服越しに感じる太宰の体温に身体中の血液が沸騰するようだった。
「それとも、僕じゃダメなの?」
上から覗き込むように近づいてきた顔を拒否できるわけがなかった。
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