太宰がリビングのソファにうつ伏せになって端末を弄んでいると、外廊下から聞き慣れた足音が聞こえてきた。中也が帰ってきたらしい。そう思うが早いか玄関扉を開錠する音が響く。扉の開閉音、玄関からリビングまでの廊下を歩く足音、それからリビングの扉を開ける音。
「おかえり」
太宰は端末から顔も上げずにおざなりに声を掛ける。だが普段ならある中也からの返事がない。どうかしたのだろうか、と不審に思って顔を上げようとしたところで、近づいてきた気配がソファを沈み込ませた。すぐにその物体は倒れ込むように太宰の下半身の上に載る。衝撃で脱ぎもしていなかったいつもの帽子がとすりと絨毯へ着地した。
だけなら良かったのだが、何かが尻に押し付けられた。何かなどとぼかしたが、この凹凸は明らかに顔だ。
「なに、どうしたの?」
「んー」
返事にならない呻き声と共にぐりぐりと尻に鼻先を埋めている。しばらく様子を窺っていると、両手は抱えるように太腿を掴み、鼻先は段々と股間へと近づいている。一応服の上から。
「シたいの?」
「いや……つかれた……」
「あ、そう」
中也はそのまま自分の顔を挟み込むように太宰の太腿を両手で外側から押し始めた。そしてそのまま動かなくなった。
「それ、楽しいの?」
「……どっちかというと癒される」
「あ、そう」
もっとすごいことをしている間柄なので、今更この程度で騒ぎはしない。だが、ただただ尻と太腿に顔を埋められる現状に困惑は拭いきれない。セックスを求められるならまだわかるのだが。
どうすべきかわからないが、特に何かを求められている様子はない。なるべく気にしないように端末へと意識を戻す。
が、しばらくするとちょうどいい位置でも探しているのかもぞもぞと動き始めた。尻の上で動く生温かい感覚が気にならないわけもない。流石に十代の頃のような元気さはないが、腹や背中ならともかくダイレクトに性感帯を刺激されて何も感じない程枯れてはいなかった。
すーはーと深呼吸でもしているような中也の呼気が後孔から会陰にかけてを擽る。じわじわと身体の奥で熱が燻り始める。
確かに最近の中也は忙しそうにしていた。この家にもほとんど帰ってきている様子はなかった。太宰と顔を合わせるのだって、2週間ぶりだ。その時もすれ違っただけだった。だから、セックスをしたのはそれよりももっと前ということになる。中也だって長らくご無沙汰なはずだった。
けれど中也はただ尻と太腿の肉の柔らかさを堪能するばかりで、それ以上を求める気配は一切感じられなかった。本当に疲れているのだろう。無理をさせるのは本意ではない。中也が満足したら後でこっそり抜こう、と思ったところで、ズボンと下着が一気にべろりと剥ぎ取られた。普段着ならここまで簡単に脱がされることはなかったはずだが、生憎シャワーを浴びた後で、部屋着のズボンはゴムタイプだった。
ぎょっとして振り返ったが、文句を言うより先に中也の舌が尻を直接舐めた。
「〜〜っ! ちょっと!」
「あんだよ?」
中也は悪びれた様子もなく満足そうに頬を尻に擦り付けている。指先は太腿の肉をぐにぐにと動かしている。
普段ならセックスがしたいのはどちらかというと中也の方だ。この状況だって太宰をその気にさせたい中也の強硬手段であることが多い。だというのに、余程疲れているのか、今の中也からはセックスの“セ”の字も感じられなかった。だから今日は太宰だってそのつもりだったのに。
あーもう! 人の気も知らないで!
太宰は大きく深呼吸をしてから、またも舐めようと舌を出している中也を手で制した。
「そんなことされたら、濡れちゃうんだけど」
中也はきょとりと目を瞬かせた。それから初めて気づいたというように太宰の顕になった尻をまじまじと見つめた。明るい部屋でこうも凝視されると、今更とはいえじわじわと羞恥心が湧き上がる。1度断られている身でもあるし。
けれど徐々に言葉の意味を理解したのであろう中也は先程までの無垢な顔を一変させ、にやりと意地の悪い笑みを浮かべた。制していた太宰の手を掴んで掌にキスを落とす。それから今度は明らかな意志を持って後孔にふぅっと息を吹きかけた。太宰はそれに堪らずびくりと身体を震わせる。
「勃起の間違いだろ」
中也が腹の下から手を伸ばして握りしめたそれは、正しく勃ち上がっていた。
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