視界の真っ直ぐ先。少し離れた距離にある信号が青から黄色に変わるのが見えた。とても間に合う距離ではない。右足をアクセルからブレーキへと踏み替える。やがて赤へと移ったそれを見ながら左足でクラッチを踏もうとして、この車にはそれが存在しないことを思い出した。シフトレバーへと向かっていた左手は行き場を失って膝の上へと逆戻りだ。
なんだか恥ずかしい気持ちになって、助手席に座った太宰をちらりと横目で伺った。視線は真っ直ぐ前を向いていて、中也の方は見ていない。気にしているのは自分だけかと思って視線を正面に戻す。
完全に停車してから、シフトレバーに目をやる。「D」の文字に合わせられたそれを眺めて、左手を意味もなく開いて閉じた。
することがない。
正確には、左手ですることがない。
減加速の多い市街地の運転はオートマチック車の方が楽だ。一般的なこの意見には全面的に同意であるためこの車を選んだのだが。
正面の信号が青に変わったのが見えて、ゆっくりと右足をブレーキからアクセルへと踏み替える。加速するのに合わせて左手と左足が無意識で動こうとする。さっきの今でギア操作が不要なことは覚えていて、ぎゅっと拳を握り締める。
そこにそっと何かが覆いかぶさってきた。視線を下げると、助手席側へと続く右手。持ち主はサイドウインドウを覗き込んでいて、手だけが不自然にこちらへ伸びている。
握り締めていた拳を開いてひっくり返す。開いた指の間に、1本ずつ確かめるように太宰の指が入ってくる。緩く握り込むと、応えるように握り返された。
もう1度助手席を覗いたが、太宰は相変わらず窓の外を見ている。それがなんだかおかしくて、でもそれを指摘すると間違いなく機嫌を損ねてしまうのがわかっていて、気づかれないように口端を引き上げるだけにした。
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