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夜明 奈央
2024-05-06 10:48:53
2083文字
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中太SS
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ワンライ「鏡に映った君の顔」
ルームミラー越しに第三者にわからない駆け引きをする中太(セルフワンライ)
2022年10月28日初出
太宰が芥川と仕事を終えて駐車場に向かうと、そこで待っていたのは中也だった。はて、行きの車の運転手は広津だったはずなのだが。
中也の姿を認めるなり太宰は一瞬で顔を顰めた。だが、太宰が苦言を呈すより先に中也が先回りする。
「広津は首領からの呼び出しだ」
「だからって代わりは君じゃなくていいでしょう」
「幹部の運転手をそこらの下っ端にやらせるわけにはいかねぇだろうが」
「君以外がいいって言ってるんだけど、お子様には日本語は難しかったかい?」
「他に適任がいなかったんだよ。誰が好き好んで手前の送迎なんかするかよ」
挨拶代わりの言い争いだ。中也と太宰が顔を合わせれば必ずと言っていいほどこういった言い争いが勃発する。今日のこの程度は大したことがない戯れのようなものだ。古参の、それこそ広津あたりであればにこにこと幼稚園児の喧嘩を眺めるように見守り、時には楽しそうに油を投入してくる。
だがまだマフィアに入って日の浅い芥川は、目の前で始まった上司の喧嘩におろおろと太宰と中也の顔を交互に見比べている。幹部に昇進してからは中也との仕事も減っていたから、中也と太宰の争いに居合わせるのもまだ片手で数えられるぐらいだ。少し前なら余計な口を挟んで太宰が仕置きをしていたから、困惑しつつも静観している今はまだ成長したとも言えるだろう。
なんだか虐めているような気分になって、太宰は次に言おうとしていた口上をやめた。後部座席に乗り込むと、中也が驚いて目を見開いた。まだ遊び足りないのだろう。だが、それを無視して促した。
「運転手ならそれらしく仕事をしたら?」
中也はそれにわかりやすくカッとしてまた何かを言おうとしたが、太宰が目顔で芥川を指すと諦めて運転席に向かった。芥川にも顎をしゃくって見せて車に乗り込むように指示する。
ようやく発進した車内は、先程とは打って変わって静かだった。
芥川の困惑に気付いた中也は遠慮して何も言わない。太宰も揶揄って遊びたい気持ちはあるが、中也が乗ってこないのなら面白くない。芥川は険悪な上司2人に挟まれて話題を振る程の厚かましさはない。
なら拠点に着くまでの移動時間はただの余暇だ。太宰は瞼を閉じた。寝れはしないだろうが、多少身体を休めることはできるだろう。
そう思っていたのだが、拠点に近づくにつれて、ちらちらと視線を感じるようになった。敵ではない。中也だ。バックミラー越しに太宰の顔を見ている。どうやら芥川は気付いていないようだ。まだまだ訓練不足だ。
やがて信号待ちで停車した。太宰が瞼を上げて鏡を見ると、こちらを見ていた中也とばっちり目が合った。ぎろりとしたその視線に、見ない振りをしていた中也の意図を理解する。
この後の予定を思い浮かべる。急ぎの用はない。ただ、そんな気分ではない、はずだったのだが。目が合ったと同時に身体がその気になり始めている。
スムーズに車は走り、拠点前の最後の信号で停車した。鏡越しに中也の顔を観察し続けていた所為で、もう1度中也と目が合った。
中也の思い通りになるのは癪だ。まだ完全にその気になった訳ではないので、拠点に戻って中也と離れれば十分仕事に戻れる。むしろ運転手を買って出てまで誘いにきた中也をお預けにしてやりたい。中也への嫌がらせには身体を張るのも厭わないと常々思っている。
「丁稚は拠点に戻れよ。俺はこいつを家まで送ってく」
青信号で発進すると同時、ずっと黙っていた中也が口を開いた。
「なに言ってるの」
「手前最近寝てねぇんだろ。どうせこの後急ぎの仕事はないんだし帰って寝ろ」
中也の言葉を聞いて、芥川から血の気が引いた。けれど、ようやく躾ができ始めた芥川は余計なことは言わずに太宰からの指示を待っている。
中也にしてはよく考えたじゃないかと感心する。これでは太宰がいくら否定しようと強がっているように見える。中也の思惑にのるのは癪だ。だがもう、ここまで御膳立てされて抗うのも面倒だった。
「芥川君は戻ったら昨日の続き。急ぎじゃないから適当なところで帰っていいよ」
「はい」
「私はこのまま帰る。明日はいつも通りね」
「承知いたしました」
会話が終了すると、見計らっていたかのようなタイミングで敷地内のロータリーに停車した。芥川が降車し、見送りの体勢に入る。中也も太宰もそれには反応しない。車は再び走り出した。
「君、随分口が回るようになったね」
「手前には負けるがな」
中也はポケットから煙草を取り出して1本口に咥えた。芥川がいる時には遠慮していたのだろう。なら太宰相手にも遠慮しろと思わなくもないのだが。
「つーか、寝てねぇのも事実だろ。今日は帰ったら寝ろ」
「
……
セックスのお誘いじゃなかったの?」
車のシガーライターで煙草に火をつけ、勿体ぶるように煙を深く吸い込み、吐き出す。
「ガキには寝かしつけが必要だろ?」
ニヤリと不敵に笑う中也とバックミラー越しに目が合う。大変不本意ではあるのだが、家に着くのが待ち遠しいと思ってしまって歯噛みした。
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