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夜明 奈央
2024-05-06 10:46:34
1377文字
Public
中太SS
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ワンライ「夢見がちな君」
いつか死にたいなぁ、は夢物語のひとつなのかなという話(セルフワンライ)*流血表現あり
2022年10月23日初出
「よーお、どうしたよ。死にかけてんじゃねぇか」
薄れゆく意識の中、聞き慣れた声が太宰の耳に届いた。声に従ってもうほとんど閉じていた目を開けると、霞んだ視界に中也が立っているのが映った。
「
……
なんで君がいるのさ」
「どうせ手前が仕組んだんだろ」
「仕組んでないよ。せっかく死ぬチャンスだったのに」
「はっそれは残念だったな」
だくだくと血を流し続けている腹の傷に中也が無造作に手を突っ込む。痛みに呻くが、中也はそんなことは気にも止めずに指を這わせ、中から弾を探り当てた。カラン、と音をさせて弾を地面に落とす。
中也は手早く止血し、血に汚れた太宰の身体を軽々と抱え上げた。
「車に救護班待たせてる」
「このまま死なせてよ」
「なんだよ。美女と心中するのが夢じゃなかったのかよ」
「そう贅沢ばかり言ってられないでしょ」
太宰を抱えて歩く中也から振動が伝わる。それが揺籠のように眠気を誘う。この場合の眠気とは死への誘いだ。
「なんか、やりたいことがあったからマフィア抜けたんじゃなかったのかよ」
「そうだけど、もう十分頑張ったでしょ、私」
「俺を殺すんじゃなかったのかよ」
「ああ、そんなことも言ってたね」
口にしたはずの言葉は、声にならなかったらしい。太宰の耳に、自分の声は届かなかった。
「おい、聞こえてんのか」
代わりに焦ったような中也の声が聞こえる。
ああ、もうそろそろ死ぬのだろう。中也を殺し損ねたのは残念だが、致し方ない。
ずっとずっと、生きたいなんて願ったことはなかった。もうこれ以上生にしがみついてまでやるべきことも思い浮かばない。
もう十分だろう。私にしては頑張ったはずだ。織田作だって許してくれるだろう。
中也ではない複数の人間が早口で指示を出し合う声が聞こえる。中也の腕から下ろされ、寝かされる。救護班の下に辿り着いたのか。
耳からの情報のみでそう判断する。目は、もう、開かない。
「ここで死んだら、手前は俺が殺したことになるからな!」
耳元で中也の叫び声が聞こえた。ゆっくりと停止しようとしていた思考が再び動き出す。
そんなわけないだろう。致命傷を与えたのは中也じゃない。すぐに否定の言葉が頭に浮かぶ。
それと同時に、これで死んだら中也の助けが間に合わなかった所為ということになるのだろうか、という考えも脳裏に浮かぶ。そうしたら、中也に殺されたことになるのだろうか。
それは面白くないなんてレベルではない。絶対に嫌だ。なんとしてでも中也の望みだけは叶えたくない。
ほんの少しの引っ掛かりが、太宰の意識を少しだけ生へと向けた。
「君に殺されてなんてあげないよ」
口にしたつもりだったが、やっぱり言葉は声にならなかった。掠れた吐息が漏れただけだった。だが中也にはそれで伝わったらしい。
「だったら生きろよ」
中也の言う通りに嫌だが、中也に殺されるのはもっと嫌だった。しょうがない。ここは生きるしかないらしい。
幸い敵はもう排除されている。今から治療の邪魔が入ることはないだろう。マフィアが手配した救護班なら腕は上々。探偵社からそう離れていないここに与謝野女医が駆けつけるまでの間ぐらいは生き永らえるだろう。
せっかくの死ぬチャンスをまた逃してしまった。一体いつになったら私の夢は叶うのだろうか。
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