夜明 奈央
2024-05-06 10:35:04
1726文字
Public 中太SS
 

ワンライ「キスの名前」

名前というか分類? 分類しないと名前はつかないんだよ
2022年10月8日初出

 太宰が自分からするキスはいくつかのパターンに分けられる。
 寂しい時のキス。自暴自棄になっている時のキス。セックスの前中後のキス。それから俺がキスしたい時に先回りしてしてくるキス。多いのがこの4パターンである。
 だから、そのどれもから外れた甘えたキスをされた時に「なんだその甘えっ子のキスは」とついうっかり笑ってしまった。
 太宰は一瞬きょとんとして、それから「いいでしょ」と開き直った。それがあんまりに太宰に似合わなくて、でも悪くないと思ってまた笑ってしまった。
 それから、太宰は俺がキスを分類していることに気づいたらしい。キスをした後「これは慰めてほしいキスだよ」とか「これは元気出してのキスだよ」とか、時々揶揄うように説明がつけ加えられるようになった。
 その説明によると、俺が思っていたよりも太宰のキスはずっとバリエーションが多かったらしい。増えた、のもあるかもしれないが。たった4パターンに分類していた自分が少しだけ恥ずかしくなったけれど、その分太宰が何を求めているのかもわかりやすくなったので、結果的には良かったのかもしれない。


 早朝の寝台の中、俺の髪を優しく撫でる手つきで意識を浮上させた。昨晩隣で一緒に眠った太宰の手だった。毛先をくるくると弄び、頬を優しく撫で、かと思えばつつき、額に口づけを落とされる。
 暖かい布団にくるまっているにも関わらず冷たい手を暖めてやりたくて、手探りでその手を掴むと、微かな吐息が落ちた。きっと笑ったのだ。
 それに少しだけ気分を良くして、また微睡に落ちようとしたところで、今度は唇に口付けられた。
 そのキスが、今までされたどんなキスとも違っていた気がして、なんだろうこのキス? と疑問が湧いて目を開くと、至近距離で太宰が目尻を緩めていた。
 その顔が、やっぱり今まで見たどんな表情とも違っていて、どういう反応をすべきかわからずに困惑してしまう。俺の戸惑いが伝わったのか、太宰が不思議そうに瞬きを繰り返す。
「今の、どういうキス?」
 朝の挨拶もなしに尋ねれば、「どういう?」と太宰も疑問符を浮かべる。
 それから約2秒。何かに気づいた太宰がさっと顔を背け、手で隠された。握っていた手も振り払われそうになったが、ぎゅっと掴み直して拒否する。俺が何かを言うより先に「忘れて」とか細い声が伝えてくる。隠しきれずに見えている口元が赤く染まっている。
 太宰がこんな反応をするなんて。元々太宰の言うことに素直に従ってやるつもりなんてない。当然忘れてやるつもりもない先程のキスを思い返す。
 唇を柔らかく触れ合わせたと思えばすぐに離れていった。太宰の雰囲気は柔らかくて落ち着いていて、それからキスしただけなのに酷く満足そうだった。母親が愛する子供を抱きしめる時のような。そうだ、太宰にこんな言葉は似合わないのですぐには思いつかなかったが、まるで幸せを具現化したような。
 気づいたと同時に太宰を見ると、太宰もこちらの様子を窺っていたらしく目が合って、すぐに逸された。
「なあ、今の」
「言わないで」
 照れて体温が上がっているのか、それとも俺の手の熱が移ったのか。
 太宰の手がじわじわと温まっているのが握った手から伝わってくる。
「手前もそんなキス、するんだな」
「言わないでって言ってるでしょ」
 今度こそ手を振り払われて、寝台からも逃げられた。視線は一切合わなかったが、頬がほんのりと赤く染まっているのは見えた。
 それを見るとなんだか胸がふわふわと軽くなるようで、できれば顔を見せてほしいけれど無理に見せろと言うつもりにはならない。
 もしかしてこれが愛おしいという気持ちなんだろうかと思い至ってしまうとそんな自分の考えがおかしくて堪らなくてつい笑いが溢れる。
 きっと自分が笑われたと勘違いしたのだろう太宰が寝室の扉を力いっぱい閉めた所為で部屋が小さく揺れた。太宰が物に当たるのは珍しい。その原因がきっと照れ隠しなのだろうと思うと余計におかしくて、つい上がってしまう口角を誰もいない部屋だというのに手で覆った。

 あいつも、そんな――俺のことが好きで堪らないみたいなキス、するんだな。


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