夜明 奈央
2024-05-06 10:33:01
1884文字
Public 中太SS
 

ワンライ「言い訳」

全て太宰の掌の上に見せかけて、全然そうじゃないこともある
2022年10月1日初出

「兄貴の仇っ……!」
 その日の任務を終え、本部に帰投した直後のことだった。突然構成員の1人が太宰に向かって突進してきた。
 その時太宰の最も近くにいたのは中也だったが、その構成員をちらりと見遣っただけで、太宰を庇いはしなかった。今日の任務で唯一犠牲になった構成員の実弟だと聞いていたからだ。一発殴ってすっきりするならそれでいいだろうと思った。
 太宰は太宰で避けることもしなかったので、構成員はそのまま太宰の横っ面を殴りつけた。太宰は殴られるままに吹っ飛ばされ、床に尻餅をつくこととなった。
 流石に何もしないわけにはいかないだろうとすぐさま殴りつけた構成員を床に押さえつけた。その頃には少し離れたところにいた構成員たちが周りで銃を構え、あっさりホールドアップ。
 太宰が指示を出すまでもなく、幹部を殴りつけた構成員は問答無用で拘束され、地下牢行き。近いうちに処刑されるだろう。十数秒の間の出来事だった。
「せっかく無傷で仕事終えたのに、無駄な怪我してんじゃねぇよ」
 一部始終を黙って見送った後、中也がぼそりと毒づく。太宰はぱたぱたと服の汚れを払いながら立ち上がり、なんでもないふうに言った。
「あれぐらいは必要経費だよ」
 太宰が言った“あれぐらい”の範囲には、一体どこまでが入っているのだろうか。
 今日の任務で構成員の1人を犬死させたところまでか。
 その身内に殴られたところまでか。
 その一連の出来事で構成員の2人を失ったところまでか。
 たぶん、全部計算の内なんだろうなと思う。根拠はないが、この男がそんな簡単にミスやヘマをしないことぐらいは、短くも濃い付き合いの中で理解しているつもりだった。
「はっ、言い訳ぐらいしたらどうなんだ。可愛げがねぇ」
「君こそ言い訳ぐらいしたら?今わざと助けなかったでしょ。幹部への背信行為で君にペナルティ付けたっていいんだよ」
 ふふんと得意気に笑う太宰は相変わらず腹が立つ。唇でも切ったのか、血を流す姿にざまあみろと思う。
「手前のことだ。どうせあいつの恨み買って処刑に持ってくとこまで今回の予定の範囲なんだろ」
「なんだ、バレてたのか。君も少しは頭が回るようになったんだね」
 もうこの騒動に興味はないとばかりに世界全てが詰まらなそうないつもの顔に瞬時に切り替え、歩を進め始めた。向かう先は首領室だろう。
 半歩後ろからすぐに横並びに追いつく。
「あいつら何したんだよ」
「教えるわけないでしょ」
 それもそうだろうな、とすぐに気づく。
 組織に害をなしたなんて理由なら、ちゃんと証拠を集めてしょっぴく手間を惜しむような奴ではない。その方が自分の株が上がることを知っているからだ。だからこそこの若さで幹部まで上り詰めた。
 今回の件は太宰の評価としてはマイナスに働くだろう。五大幹部まで上り詰めているので多少のマイナスなんて屁でもないだろうが。それをわかった上で排除するためにこんな手段を取ったということはきっと、個人的に太宰の逆鱗に触れたとか、そういうことだろう。

 太宰の怒りのポイントがわからない、というのは太宰の部下たちの言だ。
 仕事でのミスならその場で糾弾されて終わりだが、個人的に気分を害した場合は太宰はその場では何も言わない。しかし、しばらく後にこうして手痛いしっぺ返しが返ってくる。
 それだって「太宰がミスであんなことをするとは思えない」という畏怖とも尊敬とも言える部下たちの想像に過ぎず、根拠など何もない。だがおそらく正解だろう。
 中には「いくら超人じみた人でもたまにはミスをするのでは」なんてお花畑なことを言う奴もいないではないが、それだってそうならいいな、ぐらいの願望だ。本気でそれを信じているような奴はポートマフィアでは生き残れない。

 あいつらが何をしでかしたのか、知る術は存在しない。それはこの一連の出来事が起こるより前でもそうだ。太宰の心の内なんて読めやしない。
 だが、少し惜しいことをしたな、とは思う。
 こないだ初めて2人と飲みに行ったところだったのだ。仕事ではあまり話したことのない奴らだったがそれなりに気があった。いい店を知っていると言うので、また飲みに行こうと約束までした。まさかあれが最後になるなんて思いもしなかった。
 ポートマフィアに入ったのは比較的最近だったと記憶している。あの2人が太宰の噂をどこまで知っていたのか知らないが、せめて何か忠告ぐらいしてやれば違ったかもしれないな、と無意味なことを考えながら、太宰と共に首領室の扉の前に立つのだった。


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