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夜明 奈央
2024-05-06 10:20:20
2190文字
Public
中太SS
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ワンライ「狂愛」
愛情表現は人それぞれ
2022年9月10日初出
「ごめんなさい。私、他に好きな人ができたの」
聞き慣れた台詞に、中也は最早ため息すら出なかった。
「わかった」
中也があまりにもあっさりと了承するので女は多少面食らったようではあったが、それ以上余計なことは言わなかった。
「お幸せに」
小さくそれだけを告げ、さっさと中也の前から姿を消した。
中也は女と長続きしたことがない。理由は明白で、相棒の太宰が邪魔をするからだった。いや、正確にいうならば、邪魔などという可愛らしいものではない。寝取るのだ。
彼女ができたなどと教えたことは1度もない。しかし、どこからか察知した太宰はすぐに中也の彼女に近づき、甘い言葉で誘惑し、相手をころっとその気にさせる。
早くて1週間、長くても3ヶ月程。
太宰が女を落とすのにかかった期間は、そのまま中也と女との交際期間だった。
中也に近づく女は多い。
太宰程ではなかったが、天下のポートマフィアで将来有望ともなれば、自分からアクションを起こさなくても自然と女が寄ってくる。その中から適当に好みの女を選んで付き合っているだけなので、中也の方に女への執着などは微塵もない。
とはいえ、腹が立つものは腹が立つ。あの胡散臭い顔でいっそわざとらしい程の甘言を吐くあいつにどうして皆そう簡単に騙されるのかと不思議でたまらないのだが、今のところ百戦百敗。「中也の方が良い」と思ってくれた女は今までに1人たりともいなかった。
太宰が何故そんなことをするのか。それこそ明白で、あの男は中也に嫌がらせをするのが趣味だった。暇人なのかと常々思っている。通常業務だけでも中也が目を見張る程だというのにあっちこっちに顔を出しては功績を立てる太宰のどこにそんな暇があるのかは見当もつかない。しかし、太宰はどんなに忙しくても中也への嫌がらせだけは欠かしたことがない。太宰七不思議のひとつだった。
嫌がらせというのは相手から反応がないと意味がない。つまり、中也が怒って喚き散らすのが見たいだけなのだ。それがわかっているので、中也は最初の数回で太宰に文句を言うのをやめた。これで太宰はすぐに飽きて違う嫌がらせに興味が移るだろうと判断した。
しかし、不思議なことに太宰は一向に中也の女を寝取る嫌がらせだけはやめなかった。他の嫌がらせは中也が何度か無視するとすぐにやめるというのに。
状況が変わったのは、太宰が失踪してからだった。
失踪後、当然のように太宰が邪魔をしてくることはなくなった。だが結局中也は女と長続きしなかった。
ある女は「あなたは私を見てくれない」と言った。
またある女は「あなたには付き合いきれない」と言った。
またある女は喧嘩の末、別れの言葉もなく去っていった。
中也が女に興味がないことが伝わるのだろう。自分なりに大事にしているつもりではあったが、そう経たずして女は去っていく。太宰がいた頃に比べればましではあるが、それでも半年保てば良い方だった。
幹部になって、寄ってくる女の数は増えた。地位や金目当てを隠そうともしない、愛されるなんて期待もしていない女もいた。それでも長続きしなかった。
「私、他に好きな人ができてしまったの」
「は?」
何度か繰り返した別れの台詞に、懐かしい言葉を聞いた。反射で低い声が出て、女はびくりと震えた。
「誰」
短く尋ねた中也に、それでもある程度の覚悟はしていたのだろう。ぽつぽつと相手のことを話し始めた。
行きつけの喫茶店で出会った物腰柔らかな美青年。まだお付き合いには至っていないけれど、相手は昼の仕事をしているから交際する前に夜の世界とは縁を切りたい。自分のことを大切に尊重してくれる、優しい人。
描写がまるきり猫を被った太宰のそれで、悪かった機嫌がさらに降下した。女は怯えていたが、それでもここで怯んではいけないと自分を奮い立たせているようであった。
そんなにあの社会不適合者が良いのか。苛立ちに任せて舌を打った。
「それ、この男か」
確認のために太宰の写真を見せた。名前なんてどうせ偽名だ。意味はない。
だが、予想に反して女は首を横に振った。
「嘘じゃねぇだろうな?」
念押ししたが、嘘じゃないと何度も首を縦に振った。
それからまた、女に振られる理由がそれ一色になった。
犯人は太宰だ。そうに決まっている。本人に聞いても「なんの話?」と惚けられたが、太宰以外には考えられない。何故ならそれが始まったのは太宰と再会した直後だったからだ。
だが不思議なことに、その“好きな人”というのは毎回太宰ではなかった。それどころか、最初の女はその男とそのまま結婚したと風の噂で聞いた。
おかしい。太宰はいつも女を中也から引き離したと思えば3日と経たずに別れていた。
太宰は中也に新しい彼女ができたことも、また大して続かずに別れたことも何故だかいつも知っている。何か関与しているに決まっている。しかし何度尋ねても「知らないって」と邪険に扱われるばかりだ。中也への嫌がらせを楽しんでいる風すらない。だが偶然というにはおかしな頻度だった。
絶対何かを隠している。そうは思っていても、太宰が犯人である証拠など、どこからも出てはこないのだった。
訝しむ中也を見て太宰が1人ほくそ笑んでいることは、誰も知らない。
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