太宰が布団から抜け出すと、隣で寝ていた中也から微かな呻き声が聞こえた。ちらりと視線だけ向けて確認するが、起きた様子はない。いつものことだった。どうせそのまま眠ってしまう。
無視して散らばっている服の中から自分の身につける物を選別していると、腰にするりと腕が回った。
「起きたの?」
「帰るのか?」
中也はくありと欠伸を溢してまだ眠そうな目を擦った。
再会して、この関係に収まって数ヶ月。珍しいこともあるものだと観察していると、太宰の身体を布団の中に引き戻すように力を込められる。
「どうせ用があるわけじゃねぇんだろ?なら朝までいろよ」
予想していなかった要求に困惑する。
太宰と中也は恋人同士ではない。だから、朝まで一緒に寝床を共にするようなことはなかった。
どちらかが満足するまで貪りあって、そのまま寝てしまうことはあっても、それだけ。起きて動けるようになればとっとと寝床から這い出て、挨拶もなしに部屋を後にする。
そういうものだった。
太宰の返事がないのをどう受け取ったのか、中也はむにゃむにゃと寝ぼけたような声で言を重ねる。
「朝になったら、送ってってやるからさ。何時か知らねぇけど、まだ電車もバスも動いてねぇだろ。暗いし、どうせ帰ったって寝直すだけだろ。ならここで寝たって同じじゃねぇか。あと、あー、あれだ。朝食もつけてやる。それから、えーと、……」
どうやら考えなしに喋っていたらしい。呆れた。
「なんで引き留めるのさ」
「だって、寒いだろ」
なんとも単純な理由に拍子抜けしそうになる。
確かに昼間はまだまだ暑いが、夜ともなれば空気はひやりとしてくる。今だって、中也に腕を回された部分は温かいが、それ以外の部分は些か肌寒い。室内とはいえまだ服の1枚も身につけていないのだ。だから本当は、こんな中也の話なんて無視してさっさと服を着てしまいたかったのだが。
「なあ、手前がいなくなると、寒いんだよ」
中也はきっと、言葉そのままの意味でそう言ったのだろう。だって、未だに瞼は微睡を帯びて、満足に開いてもいない。そこに太宰の姿は映っていない。
でも、その言葉が、どうにもそれだけじゃないように思えてしまって、腕を振り払うのに躊躇いを覚える。太宰はかつて、置いていったから。
自分の選択に後悔はない。中也はただの相棒で、殺したい相手で、尊重してやる義理なんてどこにもなくて、自分の人生における選択に影響を及ぼすような存在ではない。でも、何も言わずに姿を消したことを、もしも中也が気にしているのなら。
特にそんな意図なんて何もないのかもしれない。それでも、その言葉が、胸にささくれのように引っ掛かった。
今晩ぐらいは、中也の言う通り、朝までいてやろうか。
太宰が引かれるままに布団に逆戻りすると、背中に頬を擦り寄せられた。中也の体温で温められた布団の中は、ほっとため息を吐きたくなるような温かさだった。
「ああ、あったかいな」
中也がしみじみと呟くのに、そうだね、と心の中だけで同意を示す。これはただの気まぐれだから、今だけだよ、と誰にともなく言い訳を溢して、ゆっくりと瞼を下ろした。
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