とうもろこしを貰った。傘下企業からの貢物の一種だった。北の大地からの直送だというそれは、青々とした皮に細かい露を纏わりつかせていて、見るからに新鮮そうだった。
その場にいた何人かで分けて持って帰ることになり、中也もご相反に預かることになった。
それはいいのだが。きっと美味いのだろうとすぐにでも食べるつもりで帰ってきた自宅には、太宰が来ていた。それも別にいい。紆余曲折あって一応はそういう関係に収まったので。
特に連絡がなかったので中也1人で食べるつもりではいたが、2本貰ってきているので1本ぐらいやっても構わない。別に大好物というわけではないし、美味い物は2人で食べた方がいい。問題はそこではない。
太宰は手を使って食べる料理を好まない。殻や皮がついたままの海老や果物、あとは丸齧り系がそれにあたる。切られていれば基本なんでも食べるが、そのままだと食べたがらない。唯一好物の蟹だけは別だが、それも焼きたての殻付きより缶詰の方がいいという徹底ぶりだ。
だからとうもろこしも、そのままでは食べないだろうと思う。食べさせたことはないが。
身を外してやれば食うか?と過ぎるが、そこまでする義理もない。というか、とうもろこしだぞ。“茹で”か“焼き”を丸齧りするのが醍醐味だろう。
という中也のこだわりにより、レンジでチンしただけの物が食卓に供されることとなった。別に太宰が食わないならもう1本ぐらい中也が食べればいい。
デン、と鎮座したとうもろこしに、太宰は最初困惑した顔をしていた。この手のものが食卓に並ぶことは普段ないからだろう。
だが中也は無視して自分のとうもろこしに齧りついた。芯まで熱くなり、夏だというのに湯気が見えるとうもろこしは鮮やかな黄色をしていて、粒はつやつやと輝いている。歯を立てると表面の皮がぷちっと弾け、中からじゅわりと甘い汁が飛び出してきた。
「美味ぇ」
無意識に口からこぼれ落ちた。咀嚼し、すぐに次のひと口に齧りつく。ひとつひとつの粒が立っていて、ぷちぷちとした歯応えが楽しいし、噛むと同時に旨味が凝縮された汁がたっぷりと舌の上に溢れ出してくる。中也は一心不乱に食べ進めた。
それを黙って観察していた太宰だったが、中也の食べっぷりに惹かれたのか、自分のとうもろこしに手を伸ばした。そろそろと口元に近づけ、慎重に端っこに齧りつく。
「あ、美味しい」
太宰が溢したのがわかり、中也が食べる手を止めずににやりと笑ってやると、嫌そうな顔をしながらも二口目に齧りついた。
そうして2人、無心で食べ続けた。他のメニューには一切手をつけていない。それどころではなかったので。
先に食べ始めていた中也が当然のように先に食べ終え、太宰の方を見るとまだ3分の1程を食べたところだった。鼻の頭にはとうもろこしのカスが乗っかっている。あまり見たことない光景ではあったが、まあそうなるよなぁ、とさして気にもせず自分の顔に同じようにカスがついていないか確認した程度だった。
どうやら様子がおかしいらしいことに気づいたのは太宰が半分程食べたところでだった。
もぐもぐと咀嚼する太宰の口端にはべっとりとカスやら汁やらがついている。珍しいなと思いながら眺めていると、次のひと口を齧ったと同時に「あ」という小さな声と同時に何かがぽろりと口元から転げ落ちた。
太宰が膝から拾い上げたのはとうもろこしの粒のひとつだった。食べながら何か溢すところなんて初めて見たかもしれない。
じっと観察していたのが気になったのか、太宰がこちらをじろりと見て、「なに?」と視線で問いかけてきた。
「手前、もしかして、食うの下手?」
「……悪かったね」
弁解も何もない言葉に笑いが込み上げてくる。うっすらと頬を染めて目を逸らす姿はなかなかに可愛らしい。手に持つのは齧りかけのとうもろこしだが。
なるほど、だから嫌がってたのか。長年の疑問が解け、ますます笑いが止まらなくなってしまった中也は、その後太宰の機嫌を直すのに苦労することとなった。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.