夜明 奈央
2024-05-06 10:12:23
1655文字
Public 中太SS
 

ワンライ「日焼け」

暑さに弱い太宰 *現パロ
2022年8月13日初出

「大丈夫ですか?」
「あと10分も続いてたら死ねた気がする」
「もう終わりましたから生きられますね」
 僕ーー坂口安吾がしれっと答えながらさっさと着替えを進めていると、太宰くんはそれを「薄情な」とでも言いたげな目で見つめてきたけれど、やがて諦めたようにのっそりと自分の着替えを始めた。

 外では太陽がじりじりと照りつけ、蝉がうるさく大合唱を繰り広げている。「こんな日に外に出るなんて正気の沙汰じゃない」と太宰くんが言ったように、とんでもなく暑い日だった。
 しかも日中で最も気温が上がる5時間目に体育祭の練習として校庭で組立体操をやらされた僕たちは、みんな暑さで随分参っていた。その中でも暑さが苦手な太宰くんは顕著にダメージを受けている。いつもなら体調不良だなんだと適当に理由をつけてさっさとリタイアしているのだが、彼のお気に入りの織田先生に苦言を呈されたばかりらしく、今日は珍しく最後まで授業に参加していた。

 だが、今日こそはさっさとリタイアした方が良かったのではと言いたくなる程ぐったりと疲れ切っている姿を見ると、友人として心配になる。のそのそと着替える動きはあまりに緩慢で、日に当たっていた顔は日焼けの所為か赤くなっている。そこかしこに巻かれた包帯もしっとりと湿っているようだった。

 太宰くんが着替え終える頃には同級生のほとんどはとっくに着替えを終え、次の教室へと向かっていた。
「あんまり酷いなら保健室行きます?」
「行かない。次織田作の授業だもの」
 しんどそうにしながらも立ち上がって教室へと向かう太宰くんを追いかける。
「ちゃんと水分補給しました?」
「安吾はお母さんみたいだね」
「君がだらしないからです」

 話しているうちに渡り廊下に差し掛かった。そこは校舎に囲まれているおかげでこの時間でも日陰になっているし、風が通るので校内で最も涼しい。太宰くんの表情もいくらかましになったので、空調の効いた教室にしばらくいれば回復しそうだった。
 行き交う生徒の間をてくてくと歩いていると、突然太宰くんが「げっ」と嫌そうな声を出した。目の前の人物も同じような声を出し、顔を顰めている。太宰くんと喧嘩友達――そういうと間違いなく本人たちからは否定の言葉が飛んでくる――中也くんだった。

 ここでいつもの戯れ合いが始まると次の授業に間に合うか怪しくなる。僕の頭には置いて行こうかという考えが過ったが、普段ならやいのやいのと突っかかっていく太宰くんも流石に今はそんな気力はないらしい。見なかった振りをして横を通り過ぎようとした。
 だが、中也くんはそんな事情はお構いなしに太宰くんの腕をがっしりと掴み、心配そうに太宰くんの顔を覗き込んだ。
「体調悪いのか?」
「君に関係ないでしょ」
「顔、赤くなってんぞ」
「そりゃこんな日に外出てればね」
 太宰くんは手に持った体操着を振って見せ、心底嫌そうに腕を振り解こうとしたがそれは叶わなかった。「ちょっと来い」と言った中也くんに引き摺られていく。太宰くんは文句を言うが、聞く耳は持っていないらしい。なんとなくそのまま行き先を目で追っていると、意外にもそれは5mも離れていない近くの自動販売機だった。
 中也くんは流れるように硬貨を数枚突っ込み、スポーツ飲料を購入して太宰くんの顔に押し付けた。太宰くんは「痛い」と悲鳴をあげたが中也くんは気にした風もない。
「どうせ後で痛い痛いって文句言うんだからそれでちゃんと冷やしとけ」

 そこでタイミング良く予鈴が鳴り始め、中也くんはさっさと自分の教室へと戻っていった。俯いたまま固まっている太宰くんの顔を覗き込もうとすると、さっと顔を背けられた。
「大丈夫です?」
「大丈夫だから先行ってて」
 僕はお言葉に甘えることにして、授業に間に合うようまだそれなりに距離がある自分たちの教室へ早足で向かう。
 教室に入る直前に太宰くんの方をちらりと伺うと、しゃがみ込んで貰ったペットボトルを頬に押し当てていた。


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