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夜明 奈央
2024-05-06 10:10:42
1633文字
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中太SS
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ワンライ「出鱈目」
無意識の電話
2022年8月6日初出
あぁ、疲れたな。
それまでも感じてはいたけれど、部屋に戻ってきた途端どっと増した疲れに中也はひっそりとため息をついた。なんだか何をするのも億劫で、帽子と外套をソファに引っ掛け、シャワーも浴びずに寝室へと向かう。寝台に倒れ込み、何をするという当てもなくポケットから端末を取り出した。仕事絡みだろうメールが数件届いていたが、中を確認するような気力はない。
横になると、身体の重さが増した気がして、抗うこともせずに睡魔に身を任せた。
ガチャッ ひたひたひた
潜められた足音が近づいて来るのに気づいて意識が浮上した。
だがまだ眠い。相手に敵意を感じない。ならいいか、と睡魔に囚われた頭は安易な結論で再び意識を手放そうとする。
足音は迷うことなく中也のいる寝室へとやってきて、やがて枕元でしゃがみ込んだ。
「寝てる
……
の?」
その声にハッとして目を開けた。顔を上げると、元相棒と目があった。不思議そうにこちらを覗き込んでいる。
「なんで手前がいるんだよ」
「君が電話してきたから」
「はあ?するわけないだろ、手前になんて」
「そう思うなら確認してみれば」
握ったままだった端末を目顔で指され、渋々発信履歴を確認すると、どういうわけかそこには元相棒との通話履歴が残っていた。
中也が信じられない思いでそれを見つめていると、元相棒
――
太宰は、ほらね、という風に肩を竦めて見せた。
「悪い、たぶん寝てる間にボタンが出鱈目に押されて勝手にかかったんだろ。別に用があったわけじゃない」
苦い気持ちで謝罪するが、太宰は「違うよ」と否定した。静かな声だった。
「君が掛けてきたのはこれが初めてじゃない。もう4回目だ」
「はあ?」
「電話に出たのは今回が初めてだけどね。何度も掛けてくるから何か用があるのかと思って出てあげたのに、君は何も言わないから」
それでわざわざこんなところまで来たというのか。元相棒とはいえ裏切り者で今や敵対組織に所属しているというのに。
「んなもん、無視しとけよ」
「しつこいから釘刺しとこうと思ったんだよ。用がないならもう変な時間に電話してこないで」
それだけ言って立ち上がると、迷うことなく出口へと向かう。
引き留めようと横になったままだった身体を慌てて起こしたが、「心配して損した」という小さな声が聞こえた気がして何も言えなくなった。足音が遠ざかり、来た時と同じように玄関の扉の開閉音が聞こえ、やがて静寂が戻ってきた。
しばらくぼんやりと太宰が消えた寝室の扉を眺めていたが、思うところがあってもう1度端末を確認する。通話時間は31秒、発信してから現在時刻まで27分。つまり27分で太宰はここまで来たことになる。
いや、太宰が来てから今までに5分ぐらいは経っているから、約20分でここまで来たことになる。深夜とも早朝ともいえないこんな時間に。
は、と知らず息が漏れた。笑ったのか、ため息だったのか、自分でもよくわからなかった。
確かに昨日の仕事中、「太宰がいればこんなことにはならなかったのに」と頭を過ぎったことは覚えている。すぐにその考えを振り払ったが、今までにも頭に浮かんだことは何度かある。太宰が裏切った直後はそんなことばかりで、その度に苦虫を噛み潰したような気分を味わっていたが、やがて諦めがついたのかそれもなくなっていた。
だというのに、最近また考えるようになっていた。
きっかけはわかっている。あいつと共闘してからだ。
あの時の昂揚はそう簡単に忘れられない。思い出すだけで手足が歓喜に震える。自分の身体がこんなにもあいつを求めているのだと再認識させられるようで反吐が出る。あいつは相棒だった頃から大嫌いな、裏切り者だ。わかっている。
それでも、こんな時間に安否を確認しにくる程度には、奴が自分のことをどうでもいい人間とは思っていないのだという事実に、少なからず喜びを感じていた。
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